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[高校選手権]「弱いチームだからこそ打って出る」藤枝明誠が静岡の壁破り初V!

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[12.6 第88回全国高校選手権静岡県大会決勝 清水商 0-2 藤枝明誠 エコパ]

 藤枝明誠が王国の壁破る!第88回全国高校サッカー選手権静岡県大会決勝が6日、袋井市のエコパスタジアムで行われ、全国選手権優勝3回の名門・清水商と初の全国出場を目指す藤枝明誠が激突。MF鈴木周太(3年)とMF原口祐次郎(2年)のゴールにより藤枝明誠が2-0で勝ち、創部27年目での初優勝を遂げた。

 過去30年間で激戦区・静岡県予選を勝ち抜いて全国選手権初出場を果たしたのは86年度の東海大一(現東海大翔洋)と05年度の常葉橘の2校だけ。清水商、藤枝東、静岡学園といった全国優勝経験のある名門がほぼ独占していた「冬の静岡」に新チャンピオンが誕生した。シュート数は実に16-6の大差。名門を圧倒しての王座奪取に藤枝明誠・田村和彦監督は「うれしい。感無量です」と頬を緩めた。

 試合は序盤から2月の県新人戦、今夏の全国総体予選でともに清水商に敗れ、リベンジに燃えていた藤枝明誠のペース。前線からの素早いつぶしで清水商に攻撃機会を与えない。ただ、強固なディフェンスを誇る清水商はPAまで攻め込まれてもシンプルにボールをクリアし、相手を危険なゾーンへと入りこませなかった。そして司令塔のU-18日本代表MF風間宏希主将(3年)と1年生エースストライカーの風間宏矢の風間兄弟と右サイドで危険な香りを放つMF岩崎隆太郎(2年)が、個の力でボールをアタッキングエリアにまで運んでいった。

 試合開始直後には風間宏希の鋭い左FKがゴール前を通過し、21分には岩崎のクロスにMF田村直矢(3年)が決定的な形で飛び込む場面もあった清水商。だが、この日は藤枝明誠に終始押し込まれ、わずかしか相手に脅威を与えることができなかった。そして34分、サイドから圧力をかけ続けていた藤枝明誠に“スーパーゴール”が生まれる。くさびに入ったFW安東大介(3年)へ左サイドからのパスが入る。安東が後方へとボールを流すとDF裏のスペースへ走りこんだ背番号9・鈴木は「シュートを打つイメージができていた」と高々と舞い上がったボールの落ち際を右足ダイレクトで撃ち抜いた。すると、シュートはGK長谷川佑樹(3年)の指先を抜けてゴール右サイドネットを揺らした。
 会場中がどよめいた“スーパーゴール”。殊勲の鈴木が「決勝の舞台で決められてうれしい」と派手なガッツポーズで喜ぶ。清水商にとっては、攻め込まれてはいたものの穴はなかっただけに「まさか」の失点だった。一方の藤枝明誠にとっては勢いを増すに十分な一撃。「攻める姿勢を失うな」と送り出された後半開始直後にも先手を打ち、38秒、SB八木勇輔(3年)が左サイドを抜け出すと、最後はその折り返しを原口が沈めて2-0とした。
 
 このままでは終われない清水商は6分に左MF田村からのラストパスに風間宏希が鋭く反応し左足シュート。決定的な一撃だったが、藤枝明誠MF小川哲生主将(3年)が素晴らしいタックルでシュートをゴールからかき出す。清水商は直後にも右サイドでフリーとなった岩崎にチャンスが訪れるがシュートは枠を大きく外してしまった。その後は反撃がU-17日本代表CB藤原賢土と大会優秀DFに選出されたCB増田浩史(ともに3年)のコンビと、中盤中央に位置するMF辻俊行(3年)と小川主将が築く堅いブロックに跳ね返され、得点機をつくることができない。

 藤枝明誠は21分に小川主将が左足首を負傷し退場するアクシデントがあったが、それでも4分間のロスタイムを含めた残り時間も集中力を切らすことなく完封勝利。全国切符をつかんだ。

 藤枝明誠にはU-17代表の藤原に年代別代表候補にリストアップされているという噂もある大型FW安東、そして抜群のキック精度を持つ辻と全国クラスの選手がいる。ただ、中学時代はボランチで県大会の出場経験もなかったという安東含めほとんどが無名選手。今年は全日本ユース選手権に初出場し、ベスト8へ進出したが、それでも県内には個で藤枝明誠を上回るチームがいくつもある。そのことは選手、スタッフも理解していた。
 それでも名門の壁に跳ね返されている他の高校と何が違ったのか。それは「恐れずに攻める姿勢」だった。田村監督は言う。「ウチの選手は実績ゼロで誰も知らないような選手ばかり。ただ弱い選手、チームが引いて守るじゃ話にならない。弱いチームだから打って出るんです」。この日も「攻める姿勢」を貫いた。攻めることを可能にするために行う前線からの果敢なプレスが、清水商のリズムを崩した。敵陣でボールを引っ掛け、すぐさまサイド攻撃。清水商の大瀧雅良監督も勝敗の差を分けた理由のひとつとして挙げていたが、その積極性が藤枝明誠に試合の流れを傾けた。

 99年(98年度)の県新人戦で初優勝(静岡学園と両校V)している藤枝明誠だが、その後は伸び悩んだ。今回以上のチームで挑んだ年もあったが、名門の壁に跳ね返された。結果が出ず、選手のサッカーに対する態度にブレがある時期もあった。だがここ数年、部室やロッカールームの清掃など進んで行い、サッカーに対する謙虚さがチームで身についてきたと同時に最後の壁を破った。今年は2度目の挑戦だったプリンスリーグ東海1部で3位に入り、初めて出場した全日本ユースでの快進撃。積み重ねだけでなく、「変わった」ことが憧れの全国選手権をも引き寄せた。

 全国大会初戦では最多タイの38回目出場・徳島商(徳島)に初出場校として挑む。指揮官は「失うものは何もない。チャレンジャー精神でいく。ただ、静岡の代表。(全国は)最低でもベスト4が目標」。小川主将も「静岡県の代表として恥のないように。明誠のスタイル、攻撃サッカーを貫きたい」と力を込めた。全国初出場7校の中でも注目の実力派。サッカーの街・藤枝から現れた新星は全国選手権でどのような戦いを見せるか。

[藤枝明誠の勝ち上がり]
2○1 静岡西
2○1 常葉橘
2○0 清水商

(取材・文 吉田太郎)

特設:高校サッカー選手権2009

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