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[高校選手権]「絶対カバーする」山梨学院、負傷退場・井上の涙に応える勝利

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[1.11 全国高校選手権決勝 山梨学院大付 1-0 青森山田 国立]

 試合終了の笛とともに泣き崩れる山梨学院大付(山梨)イレブン。ほとんどの選手がピッチに仰向けになって涙を流していたが、前半32分から右SBを務めた背番号13は、真っ先にベンチへと走り出していた。そして負傷退場していた先発右SB井上拓臣(3年)に飛びついて喜びを爆発。仲間の期待に応えて勝利に貢献したDF渡辺圭祐(3年)は「県大会からずっと(井上)拓臣が出てきた。みんな泣き崩れていたけど自分は拓臣のところへいかなければ、と。(無我夢中で)抱きついてました」。

 この試合先発した井上はワンツーから右サイドを駆け上がって果敢な突破を図ったほか、身体を投げ出すかように相手のハイボールをはじき返すなど、立ち上がりからチームの誰よりアグレッシブなプレーを見せていた。だが、前半30分過ぎ、相手の突破を遮ろうとした際に体勢を崩し右足首を負傷。井上は「ボキボキボキッと音がした。立とうとしたけどダメで。もう悔しくて泣いていました」。山梨学院の横森巧監督が「彼のおかげで勝ち残れた。一番頼りにしていた」というDFはハーフタイム前に交代へと追い込まれた。

 代役の準備はできていなかった。山梨学院のサブ組のアップは前半35分から。渡辺も「ノーアップだった。全然準備していなかった」と振り返る。ただ、涙を流しながらピッチを去る仲間のためにも戦うと心に決めた。交代する際「絶対カバーする」と井上に宣言した渡辺が大会優秀選手に選出された青森山田の左MF三田尚希(2年)の前に立ちはだかる。

 1-0リードで迎えたハーフタイム。涙の止まらない井上の思いを代弁するかのように吉永コーチが口を開く。「勝つ理由がもうひとつ増えたぞ。みんな(井上)拓臣のためにも勝つぞ」。このメッセージでチームはまた結束力を増した。
 渡辺だけではない。同じ3年生DFの中田寛人や藤巻謙らの集中力はすさまじかった。相手に破られかけても必死に足を伸ばして相手をストップ。渡辺も「自分は拓臣のような細かいプレーはできない。しっかり身体を張ること。それだけやり切ろうと思った」と攻撃を跳ね返した。

 そして訪れた歓喜の瞬間。仲間のために役割を果たした安堵感と同時に「生きててよかった」と喜びを爆発させた渡辺と、「このまま負けていたら悔いが残る。勝ってくれて本当によかった。仲間に感謝したい」と語った井上。2人の右SB、そして仲間を救いたいと戦った山梨学院全員の執念が優勝を呼び寄せた。

(取材・文 吉田太郎)

特設:高校サッカー選手権2009

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