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日本を導いた!覚醒しつつある“FW本田”

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[6.24 W杯グループリーグE組 日本3-1デンマーク ロイヤル・バフォケング]

 神風に乗った。ワールドクラスのFKを叩き込んだ。前半17分、ゴールまで約30m、右45度の位置で獲得したFK。MF本田圭佑はすぐさまボールを抱え込み、セットした。左足で押し出すように蹴ったボールはドライブ回転がかかり、壁を越えて急激に落ちる。さらにゴール手前でシュート回転。精一杯伸ばしたGKの手をすり抜け、ゴールネットに突き刺さった。

 引き分け以上でグループリーグ突破が決まる試合だった。先制点を取れば、相手には2点が必要になる。この一撃が持つ意味は果てしなく大きかった。前半30分にはMF遠藤保仁の直接FKで追加点。あとのなくなったデンマークはパワープレーに打って出たが、守備陣が体を張って跳ね返し、PKでの1失点に食い止める。そして後半42分、試合を決定付ける3点目も、本田の左足から生まれた。

 左サイドからのスローインを受けたMF大久保嘉人がドリブルで中に切れ込み、前線に浮き球のスルーパス。本田はパスを受けると、鋭い切り返しでDFをかわし、ゴールに迫る。目の前にはGKしかいなかったが、ゴール前でフリーのFW岡崎慎司の姿を見逃さなかった。横に流した丁寧なラストパス。岡崎が左足で無人のゴールに流し込み、勝負は決まった。

 2大会ぶりのグループリーグ突破。自国開催以外では初の決勝トーナメント進出。歴史的快挙にも、本田は冷静だった。試合終了のホイッスルが鳴ると、前線に残っていた本田は、自陣で抱き合って喜ぶチームメイトの輪に加われなかった。「みんながジャンプしているところに入るタイミングをつくれなかった」。そう苦笑いし、淡々と語った。

 「思っていた以上に喜べないのが自分でも不思議。なぜ? まだ上には上がいる。そこから来るんじゃないかな。まだいくつも上がある。ひとつひとつ上のステップに挑戦していきたい。それができるチームに徐々になりつつある」

 開幕前、ベスト4を目標とするチームのさらに上を行く「優勝」を目標に掲げた。試合後、あらためて優勝の可能性を聞かれると、「どうですかね。それは常に自分との格闘。弱い自分は行けないと思っている。弱い自分がどんどん大きくなる。だから僕は自分のメンタルをコントロールしている。それができれば、パラグアイにも素晴らしいプレーができると思う」と平然と答えた。

 実は本田がテレビ局以外の取材を受けるのは、14日のカメルーン戦後のミックスゾーン以来、10日ぶりだった。オランダ戦前日もオランダ戦後も、そしてデンマーク戦前日も、本田は新聞記者らが待つミックスゾーンを無言で通り過ぎていた。自分なりのメンタルコントロール。すべてこの一戦に懸けていた。

 「デンマークをリスペクトしているけど、オランダ相手ならここまでうまくいってなかった。思っていた以上に競り勝てた。190cmぐらいある相手がいっぱいいたのに、思ったより身体能力が高くなかった」。本田らしいビッグマウスも戻ってきた。

 本職ではない1トップとして臨むW杯。「自分はストライカーじゃない」というジレンマもあった。それでも「点を取る。前線でチームのためにキープする。シンプルな役割というのは分かっていた」と愚直にプレーした。

 3点目のアシストについて「あそこで(自分の)2点目を取れないのが、俺がストライカーになれない理由」と冗談交じりに答えたが、「カメルーン戦と今日で、FWらしいところが出てきたかもしれない」とも言う。「自分の前に人がいない景色にも慣れてきた。今までは違和感があったけど、前に俺しかいないからターンするときは強気に行くとか、思い切り行くしかない」と迷いはなかった。

 29日の決勝トーナメント1回戦ではパラグアイと対戦する。史上初の8強入りを懸けた次なる決戦だ。覚醒しつつある“FW本田”。本人は「次の強い相手でどうなるか、それはまだ未知数」と言うが、日本が「世界を驚かす」とき、その中心にいるのは間違いなくこの男だ。

<写真>景気付けとなる先制の無回転FKを決めた本田。ありがとう!!

(取材・文 西山紘平)

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