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「さよならは言いません」、巻がサポーターとの“再会”誓いロシアへ

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[7.31 J2第20節 千葉5-0大分 フクアリ]

 必死に涙を我慢し、愛するサポーターにあふれる感謝の言葉を伝えた。アムカル・ペルミ(ロシア)への完全移籍が決まり、明日ロシアへ出発するジェフユナイテッド千葉のFW巻誠一郎が試合後のセレモニーで1万3122人のサポーターの前で挨拶した。

 「昨年J2に落としてしまい、僕自身責任を感じていた中で、移籍を決断することがいいことなのか、J1に上がるまでチームを見届けてからチームを去るべきじゃないかとずっと悩み続けました」

 出場機会に恵まれず、クラブからは事実上の戦力外通告を受けた。アムカル・ペルミからオファーが届くと、契約を残す今季中の移籍を促すかのように、クラブ側の引き留めもなかった。それでも悩んだのは、常に自分を支えてくれた千葉サポーターの存在があったから。そして、最終的に移籍の決断を後押ししたのもサポーターの言葉だった。

 「練習場にまで足を運んでくれて、熱いメッセージを下さる人もいた。『チャレンジしておいで』と背中を押すメッセージばかりだった。そこで本当にチャレンジしていいんだなと、長年夢に思ってきた舞台にチャレンジしていいんだなと思わせていただいた」

 8月7日には30歳の誕生日を迎える。年齢的には最後のチャンスかもしれない。

 「(サポーターから)『この年齢でのチャレンジでどこまでできるか僕らの巻を見てみたい』と言ってもらえた。うれしかったし、心強かった。みんなの期待をロシアで爆発させたい。初めてのチャレンジで、30歳という年齢でどこまでできるか、僕自身も疑問に思っているところはあるけど、今までやってきたことがどれだけ出せるか、どこまで通用するか、海外に1人で行って、どういう自分が見れるのか、ポジティブな考えで頭はいっぱいになっています」

 駒澤大から03年に千葉に入団して以降、7年半を過ごしてきたクラブへの愛着はだれよりも強い。「僕がこのクラブとともに刻んできた一瞬一瞬、1ゴール1ゴール、1プレー1プレーが最高の思い出。僕の中ではマンチェスター・ユナイテッドやバルセロナに負けない本当に価値ある素晴らしいクラブです」と言う。

 ゴール裏の横断幕には「巻の心にいつもサポーターがいたように僕等の心にも巻がいた。苦楽を共に歩んだこの絆は永遠に」と書かれていた。いつかもう一度、このクラブで、このサポーターのためにプレーする。だからこそ、別れの言葉は1回も口にしなかった。「さよならは言いません。さよならではなく、また皆さん会いましょう!」。挨拶の最後をそう締めくくった。

 「僕の魂で寒いロシアを熱くしてきたいと思います。必ず成長して、この場所に帰ってきます。これだけ多くのサポーターが僕を支えてくれて、愛してくれていると思っている。僕もそれ以上の愛情で、サポーターに恩返しできるように頑張りたい。移籍金を上げる? 高くなって帰ってきます」。真っ赤な目を細め、最後は笑顔で、思い出の詰まったフクアリをあとにした。

<写真>セレモニー後、ゴール裏のサポーターから花束を受け取り、記念撮影

(取材・文 西山紘平)

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