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憲剛、代表戦から23時間後に劇的ゴール。「人生で初めて。気力です」

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[9.8 ナビスコ杯準々決勝第2戦 川崎F3-1鹿島 等々力]

 高々と左手の人差し指を突き上げた。1-1の後半34分、クロスのこぼれ球がゴール正面約22mのところにこぼれてくる。反応したのは川崎フロンターレの日本代表MF中村憲剛だった。「サイド攻撃が良かったので、こぼれて来るかなと思っていた」という憲剛は猛ダッシュで走り込み、右足を一閃。ゴール左下に豪快に突き刺した。これで2-1。2戦合計では3-3の同点に持ち込み、その後の“ミラクル突破”への流れを作った。

 「得点に絡むことだけ考えていました。劇的だった? 劇的だったと思います(笑)。(昨日の)今ごろはまだ向こうで(大阪で試合を)やってた時間ですよね。(中0日は)人生で初めてのこと。サポーターの皆さんが背中を押してくれました。コンディションとかそういうことじゃなく、気力です。勝てて良かった」

 本人の言葉にあるように、前日の日本代表のグアテマラ戦終了から、わずか23時間前後での劇弾だった。前日の試合が終わったのは午後9時35分ごろ。憲剛は後半38分から途中出場し最後までプレーしていた。この日は午後8時20前後の後半18分から途中出場した。試合後の取材を受けていたのが、午後9時40分前後。試合後でさえも、24時しかたっていなかった。本人が言う通り「初めて」の中0日の強行軍で出場し、貴重なゴールまで決めてみせた。

 「きのう、試合後に高畠監督から電話がありました。夜、11時くらいかな。『どうする?』って。代表で何分試合に出ていても、メンバーには入るつもりだったけど『スタメンで』と言われて、『まじっすか!?』と……。『それは無理ですね』と答えたんです。でもマジっぽかった(苦笑)」

 指揮官の電話のあと、深夜1時半に寝たが、早朝5時45分に目が覚めてしまい、予定より3時間早い、午前6時半ごろの新幹線で大阪から移動した。帰宅後、2時間の昼寝を経て会場入りした。本人は笑いながら話したが、「感じとしては(昼寝は)2分だった。寝たら、2時間たっていた」。それほど疲れていたが、チームのためにピッチに立ち、そして逆転勝利を呼び込むゴールを決めた。

 昨年に続くミラクル突破だった。昨年も準々決勝で鹿島と対戦。1戦目は鹿島が1-0で勝ち、2戦目も後半終了間際まで0-0と鹿島が優勢だった。だが、川崎Fが奇跡を起こす。ロスタイムにジュニーニョがゴールを決めて延長戦へ。その勢いのまま川崎Fが“逆転”に成功し、準決勝に進出する“奇跡”を果たした。憲剛は昨年、このジュニーニョのロスタイム弾の起点となったが、今年は自ら決めた。

 くしくも、この試合は日本代表のアルベルト・ザッケローニ新監督が視察に訪れていた。4日のパラグアイ戦で香川真司の決勝弾をアシストしたのに続く、アピールとなった。だが「アピールにはなってないかな。あまり動けてないし。仕事らしい仕事はできていない。ゴールを決めただけ。それより、もう一つ、階段を上がれたのが良かった」と憲剛は何よりも、チームの勝利を喜んだ。

 次戦、準決勝の相手は磐田となる。だが、10月に行われる日本代表の国際親善試合(8日、アルゼンチンが濃厚)と韓国戦(12日)に選出されたら、9月28日の第1戦は出場できるが、10月10日の第2戦は出場できない。「それはまだ分からないので」と言葉を濁したが、昨年、準優勝と涙を飲んだだけに、何とかもう一度、決勝に行き、そしてタイトルを取りたい気持ちが強い。そのためにも、第1戦に必勝する決意だ。川崎Fも日本代表も、憲剛が引っ張る。

<写真>川崎F・MF中村

(取材・文 近藤安弘)


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