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前田が圧巻の2得点2アシストで名実ともにエースへ、「今日は遼一デー」

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[11.3 ナビスコ杯決勝 磐田5-3(延長)広島 国立]

 この男のためのファイナルだった。ジュビロ磐田のFW前田遼一が圧巻の2得点2アシストでMVPを獲得するとともに、チームを12年ぶり2度目の優勝に導いた。

 「タイトルを取ったことがほとんどないので、12年ぶりとかより、それがうれしい。そんなにいいプレーができていなかったので、最後にチームを救うことができてよかった」。普段は表情をなかなか変えない寡黙な男の顔に珍しく笑みが漏れた。

 「今日は遼一デーだった」とGK川口能活は振り返る。ナビスコ杯決勝史上最多となる8得点が生まれた壮絶な打ち合いは、前田の右足から始まった。

 前半36分、右サイドからのピンポイントクロスでMF船谷圭祐の先制点をアシスト。前半43分、後半3分の失点で逆転を許し、試合は1-2のまま終盤に入った。しかし、広島の初優勝かと思われた後半44分、MF上田康太の右CKからMF那須大亮がヘディングシュートを放つと、GK西川周作が弾いたこぼれ球を前田が素早く押し込み、土壇場で試合を振り出しに戻した。

 「セットプレーからのああいうヘディングシュートはGKも(処理が)難しい。こぼれは絶対にあると思っていた」。起死回生の同点弾。これで流れは完全に磐田に移った。

 延長前半12分、MF菅沼実のゴールで3-2と勝ち越すと、その2分後にはFW山崎亮平からの縦パスを前田がワンタッチで流し、ワンツーの形で抜け出した山崎が追加点。その後、1点を返されたが、延長後半4分、DF古賀正紘のロングキックを胸トラップで前に運んだ前田がPA内に切れ込み、左サイド角度のない位置から左足でゴールネットを揺らした。

 「ループを狙った? 違います。シュートを打ったら(相手の)足に当たって。ラッキーなゴールでした」。ボールはブロックに入ったMF森崎和幸の足に当たってフワリと浮き、ゴールマウスへ。本人は運が良かったと謙遜したが、シュートに至るまでの動きとフィニッシュの早さが生んだゴールだったのは間違いない。5-3。自らの左足でゴールラッシュを締めくくった。

 名実ともに磐田のエースとなった。00年の入団後、着実に出場機会を増やし、昨季はリーグ戦34試合フルタイム出場で20得点を量産し、日本人として7年ぶりの得点王に輝いた。FW中山雅志(現・札幌)、FW高原直泰(現・水原三星)という偉大なストライカーとともにプレーし、さまざまなことを吸収しながら成長を続け、たどり着いた個人タイトル。それでも「僕は2人と違って、まだ何も成し遂げてない。リーグで優勝したこともないし、W杯に出たこともない。いつか中山さんと高原さんに肩を並べられるように頑張っていきたい」と満足することはなかった。

 今季はクラブの象徴だった中山が退団。世代交代を推し進めるチームにおいて、前田への期待も昨季以上に高まっていた。今季リーグ戦は28節終了時点で13得点を記録し、得点ランク3位タイ。南アフリカW杯への出場はかなわなかったが、ザッケローニ新監督就任後、堂々の代表復帰を果たし、10月8日のアルゼンチン戦では途中出場ながら存在感を発揮し、同12日の韓国戦では約1年ぶりに先発出場した。そして、この日の2得点2アシスト。クラブに03年度の天皇杯以来、7シーズンぶりとなるタイトルをもたらし、偉大な先輩にまた一歩、近づいた。

 ザッケローニ監督も視察していた決勝の舞台。「アピールになった? どうですかね。まあ、はい」。言葉少なに語った前田だが、磐田のみならず、新生日本代表のエースとしても期待される男が手にした念願のタイトルは、個人としてもチームとしても、さらなる飛躍へとつながっていくはずだ。

[写真]2G2Aの活躍を見せた磐田FW前田
(取材・文 西山紘平)

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