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アジア制覇から一夜明け、ザッケローニ監督コメント

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 歓喜のアジア制覇から一夜明けた30日、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督がドーハ市内の宿舎で取材に応じた。
以下、ザッケローニ監督コメント

アルベルト・ザッケローニ監督
「寝ようと思って、他のことを考えようとしたけど、どうしても試合のことを振り返ってしまって、寝られなかった」

―あらためて決勝を振り返ると?
「これまでの戦いとは違うなと思っていたが、その通りの内容だった。決勝は単体で考えないといけない。優勝したのに不満や後悔を口にしたくないが、もう少しいいフィジカルコンディションで臨みたかったし、もう少しゴールチャンスをつくりたかったという思いはある」

―フィジカルコンディションが良くなかったのは大会前の準備不足が原因か、それとも大会中の疲れか?
「疲れですね。特に中盤の3人は疲れていた。練習もままならなかった」

―李忠成を起用したのは戦術的な狙いか、ひらめきか?
「半々ですね。前田は守備でもよくやってくれていたし、今大会3得点取っていた。オーストラリア戦も空中戦やセットプレーで前田が必要だった。相手の15番(MFジェディナク)を見てくれていたので、そこをどうするかを考えた。一方で、毎日、李の練習態度や振る舞いを見ていて、常に狙っているなというのも感じていた。実際、(決勝)韓国戦も投入する直前までいったが、不測の事態が起きて入れられなかった。やってくれるなという思いはあった。練習もしっかりやっていたし、燃えていた。だから、あのときのチョイスの判断材料としては15番をマークしている前田を外していいのかというところだけだった。そして、そこでリスクを負ってでも、そのカードを切った。チームのコンセプトである勇気を持ってやった」

―李に何と声をかけたか?
「何か言ったかもしれないが、覚えていない。選手は気持ちが入っていたし、言葉をかける必要はない。練習から気持ちが入っていたし、準備はできていた。モチベーションも高かった。Jリーグでも、広島で控えに甘んじていながらチャンスをつかんだ。いい素材だし、近代サッカーにおけるセンターFWだなという印象を持っている」

―近代サッカーのFWの資質とは?
「インターナショナルレベルのDFに対し、いいタイミングで裏を破れること。的を絞らせない、読みづらいFWだと思う。あとは簡単なシュートも決めてくれるといいですね。難しいシュートばかり決めるから(笑)」

―最初、アンカーに入れようとした今野が拒否したため、SBにした。言うことを聞かない選手だと思ったか、正直なやつだと思ったか?
「『拒否した』と言うと、ニュアンスが変わる。足も痛かったということで、あのタイミングで中盤のポジションになってプレーできるかどうかが疑問だったのだろう。拒否とは違う。あの時点で『それでもやれ』と言ったら、やっただろうし(笑)」

―ハーフタイムではなく、後半5分過ぎに交代しようとしたのは?
「後半立ち上がりの状況を見たかったので」

―このチームでは長谷部と遠藤が代えの利かない選手か?
「代えの利かない選手はいないと思っている。選考基準は前にも話したと思うが、タレント性と才能、グループの輪を乱さないこと、向上心を持っていること。そして、そのときのフィジカルコンディション。遠藤と長谷部はこのチームがどうあるべきかを一番早くに分かってくれて、それを他の選手に伝達してくれた。その意味で大切な選手。ピッチの中でも仕事をしてくれたし、ピッチの外でもロッカールームでもよくやってくれた。代表の経験も豊富だから、平均年齢の若いチームで彼らがベテランという存在になった」

―今回のチームが今後のベースになるのか?
「このグループで結果を出しているのだから、基本的にはそう考えている。繰り返すが、このチームの目標はアジア杯優勝には置いていない。コパ・アメリカ優勝にも置いてない。成長に置いている。経験を積ませるために、この大会に臨んだ。昨日の夕食で、選手には『よくやった』という話をして、ここまでの道のりを振り返った。権田、森脇という出場機会に恵まれなかったが、貢献してくれた選手の名前も挙げた。彼らは、試合に出た選手と同じように、今回の優勝に貢献してくれた。また、ベンチスタートの選手がここまで結果を出してくれる大会というのはほとんど記憶にないし、似たような状況を見たこともない。日本代表の監督になれたことを誇りに思うという話を選手にもして、アジア杯優勝は我々にとってスタート地点に過ぎないという話をした」

―4-2-3-1が今後も基本システムになるのか?
「日本の選手にはユーティリティープレイヤーが多い。技術が高いし、複数のポジションをカバーできる。この大会でも、伊野波はCBの選手だが、SBでプレーしたし、右でも左でもいける。昨日の今野もそうだし、それによって長友のポジションも変わった。岡崎も2列目なら右も左もできる。ユーティリティーな選手が多く、いろんなポジションができるから、システムもいろんなシステムを使えるのではないかと思っている。唯一、変わらないのは、勝つために試合をするということ」

―4-2-3-1が好きなのか?
「そうではなく、勇気とバランスを持ってプレーするのが好き。私のデビュー戦となったアルゼンチン戦でも岡崎、本田、香川、森本を起用した。遠藤も攻撃的な選手だと思うが、そういったリスクを背負ってでもアルゼンチンと戦った。目先の結果を追い求めるなら他の戦い方もあるかもしれないが、日本には攻撃的な特徴を持った選手が多いし、その意味で代表チームもそういう戦いをしないといけないと思っている。SBの2人も攻撃の方が得意だし、昨日の内田は守備より攻撃をしている時間の方が長かったのではないかと思う」

―選手によく声をかけてコミュニケーションを取っているが?
「もともとコミュニケーションを取るタイプで、選手のことを分かりたいし、お互いを分かり合いたいと思っている。もっとコミュニケーションを取った方がいいのかもしれない。通常、日本の監督と選手はもう少し距離感があるイメージを持っているが、私が選手との関係で気にしているのはいつも関係がクリアであること。選手のことをよく知った上で役割を与えるわけだから、彼らの性格なども分かってないといけない。どういう役割を与えるか、どうマネジメントするかを分かるためにも選手のことを知っておかないといけない。それプラス、これまでの経験を加味して、時には感覚で選手起用することもある。常に考えて使うのではなく、時には自分の感覚を信じて選手を使うこともある」

―香川をトップ下ではなく、左サイドで起用し続けた理由は?
「ドルトムントでやっているトップ下で彼の能力が生きることは分かっている前提で、使いようによってはスタートポジションが左の方が、トップ下以上に能力を発揮できると思っている。イタリア人の選手に香川と似た特徴を持っている選手がいる。左から中に入っていいプレーをする選手で、それはデル・ピエロだが、そのことは彼にも話した。試合の中での役割は、2人はよく似ている。大会開始直後は少し疑問があったかもしれないが、試合を重ねるごとに良くなった。オフザボールの動きが増え、ボールのないところで動くことで、DFに的を絞らせないことを理解した。そうすれば相手にとって読み切れないプレーができることを分かったと思う。ああいう風にしてギャップに入れば、相手はCBが見るのか、SBが見るのか分からなくなるし、状況によってはボランチが見ないといけないこともある」

―控え選手のモチベーションを下げないために心がけたことは?
「これといってはない。権田、森脇もチームの役割を果たしてくれたし、遠藤、本田、長谷部はそういった意味でリーダーシップを発揮してくれた。選手に伝えたのは、サッカーは人生に似ているということ。サッカーのキャリアはそれほど長くない。タイトルを勝ち取れるチャンスはそうそうないし、そこにいるわけだから、しっかり勝ち取らないといけないと話した。この大会に臨むにあたって、実績のある選手を日本に置いてまで来た。将来性のある若い選手にチャンスを与えようと思った」

―7月のコパ・アメリカの目標は?
「アジア杯と同様、成長すること。W杯予選に向けて準備していきたい。Jリーグでやっている選手、欧州でプレーしている選手もたくさんいる。その見極めもしていきたい。今は日本サッカーにとって大事な時期に入ってきている。海外からのオファーが殺到しているし、それもイタリアやドイツ、スペインという主要リーグからオファーが来ているのは素晴らしいことだ。日本のサッカーは近年、どこよりも成長している。サッカーに到達点はない。どんどん探求していかないといけない。日本の育成組織の素晴らしさもある。アカデミーやJクラブのユースの存在がその背景にある」

―アジアから世界に向かうとき、現在のベースに付け加えたいことは?
「ベースは勇気とバランス。それに加えて、相手の情報を踏まえてプランを立てる。中東のチームにはその対策が必要だったし、韓国も違ったタイプのサッカーをしてくる。それへの対策が必要だった。日本と似たサッカーをしてくるなと思った。決勝はこれまでとまったく違ったオーストラリアが相手だった。フィジカルの強い相手に対し、そこの修正もしなければならなかった。コパ・アメリカも、相手は違ったタイプのチームになる。それにどう対応していくのか。こうした異なる対戦相手とやることが選手の経験となり、代表チームの財産になる」

―大会中に先発を大きく変えなかったのは哲学か、それともチームのベースをつくりたかったからか?
「代表チームとして長期間と言える時期をもらえたので、チームのベースをつくろうという思いはあった」

―岩政を入れて今野をSBにしたとき、他にいくつのパターンを考えていたのか?
「オプションは多数あった。今野をアンカーにするか、実際にやった形か。内田のところに今野を入れて、内田を1つ前に上げるオプションもあった。ただ、相手の8番(ウィルクシャー)が前に来ていたから、そこを止めなければいけないと思い、ああいう選択をした」

―今野がアンカーに入っていたら90分で勝っていたと思うか?
「それは分からない。ただ、中盤に人数が必要だった。中盤を厚くしないと、というのはあった。向こうはフィジカルが強かったので、走力でカバーするか、人数でカバーするか、どちらかだった。対応が遅れるシチュエーションが多くて、その状況を打開したかった。間延びして、どこから当たりにいくのか、そのタイミングが外れていた」

―今大会で監督の評価も上がったと思うが、もし欧州からオファーが来たらどうするのか?
「ここにいられる間はいようと思っている」

―海外で試合を組む方が強化につながるが、協会に対してリクエストすることは?
「海外でやるというのは悪くない。当然、欧州に選手がたくさんいるので、欧州で合宿をやってもいい。ただ、チームのスケジュールはリスペクトしないといけない」

―イタリアの小さなクラブからキャリアアップしてきて、今、代表監督として当時の経験は生きているか?
「自分が培ってきた経験はずっと生かすようにしている。同じ選手は存在しないし、育成年代の監督から始めて、下のカテゴリーから徐々に上がってきた。そういう監督はイタリアでもめずらしい。セリアAに昇格したばかりのチームを率いたこともあるし、ビッグクラブを率いたこともある。世間を驚かせてやろうというチームもあれば、勝ちに慣れてモチベーションを落とし、そのモチベーションを再度上げる作業が必要なチームもあった。いろんなタイプを見てきて、それが自分の財産になっている。

 世の中にあるすべてのシステムを試したとも思っている。サッカーでは順位に目がいきやすく、監督のディテールを軽視しがちだが、そのへんの仕事はしっかりやってきた。3-4-3の監督と思われがちだが、そうでないときもあった。3-4-3は私にとって大切なものだし、それは良かったと思っているが、実際に使ったのはウディネーゼとミランのときだけ。プレシーズンからチームを見れたことで、そのシステムを構築できた。その後はプレシーズンからチームを持つことができなかったので、3-4-3はできなかった。唯一、使ったのはインテルでの6試合。選手の特徴をよく把握していたので、練習で試さなくてもできる自信があった。しかし、3-4-3をやるにあたってのキーマンがケガをして、インテルでの3-4-3も変更せざるを得なかった。これまでの経験を生かし、バリエーションとして、いろんな状況と環境に応じて修正しながら使っていきたいと思っている」

[写真]報道陣の取材に応じるザッケローニ監督

(取材・文 西山紘平)

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