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世界一の「小さな魔法使い」なでしこJAPANの安藤梢を直撃インタビュー

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 女子W杯ドイツ大会で世界一に輝いた日本女子代表のFW安藤梢(デュイスブルク)が22日、佐々木則夫監督とともに都内のアディダス本社を表敬訪問した。アディダス社員から盛大な出迎えを受け、安藤は「いつもサポートありがとうございます。アディダスのユニフォームを着て、スパイクを履いて、優勝カップを掲げられたことをうれしく思います」とあらためて感謝の言葉を述べ、優勝を報告した。

 表敬訪問後、ゲキサカが安藤を直撃インタビュー。日本代表史上初となる世界制覇を成し遂げた女子W杯を振り返りながら、今後への意気込み、ともにドイツでプレーする男子の日本代表選手との交流など、さまざなことを語ってくれた。

―帰国して4日ほど経ちましたが、今の心境は?
「帰ってきてからの方が皆さんから声をかけてもらったり、メディアの方にも取り上げてもらって、ドイツにいたときは優勝したことが信じられない気持ちだったんですけど、帰ってきてから、すごいことをしたんだなと実感してきました」

―女子サッカーにかなり注目が集まっていますね。
「こういう風に取り上げてもらってますけど、今だけに終わらないように。9月には五輪のアジア予選がありますが、必ず勝って出場権を得て、来年のロンドン五輪でも金メダルを取りたい。勝ち続けることで一過性に終わらせないことが、本当の意味で人気が出てくることにつながると思っています」

―安藤選手はドイツでプレーしていますが、ドイツと日本のリーグの違いはどこに感じますか?
「まずはサッカーのスタイルが全然違います。ロングボールが主体ですし、一番違うところは球際の激しさ。日本ではレッドカードが出るような激しいプレーも、向こうでは当たり前なので。そこが違うかなと思います」

―ドイツでやっていたことがW杯での結果につながった?
「ドイツに行って良かったなと思える大会でした。自分が成長できたことを実感できた。普段から激しいフィジカルの中で練習や試合をしてきたことで、今回のW杯は自信を持って欧米の選手と戦えたと思います」

―ドイツでプレーしていた経験が活きたと感じる場面はありますか?
「大会中もですが、その前の準備段階のアメリカ遠征のときから、フィジカルがある選手とやっても、いつも通りのプレーというか、自信を持って、余裕あるプレーができました。

 特に準々決勝でドイツ代表と試合をしたときは、相手に4~5人のチームメイトがいたので、紅白戦をやっているような感じでした。背負っていたCBの選手やボランチの選手もチームメイトなので。相手が『イライラしているな』とか『怒ってるな』とか。そういうメンタル面も読めたりしました。他にもドイツ代表の選手の中には、普段のリーグ戦で戦っている選手もいて、自分では十分戦える相手と思っていたので、そういう気持ちの余裕もありました」

―ドイツでプレーする以前は欧州のチームと対戦するときに身構えてしまっていた?
「そうですね。なかなか日本にいると、強豪国と試合をする機会もなかったので。大きかったり、当たりが強いだけでひるんでしまったりすることもありました。自分の間合いに持っていけないという部分はあったと思います」

―実際に対戦したドイツ代表の選手は日本のどのようなところを評価していましたか?
「向こうの報道では、なでしこのことを『小さな魔法使い』と呼んでいました。(ドイツの)チームメイトは日本のショートパスの正確さに驚いていました。技術の高さや、小さくても当たり負けずに何度も立ち上がって、あきらめないで向かってくる姿勢に驚いていたみたいです」

―なでしこジャパンが今のスタイルで戦っていこうとなった転機はあったのでしょうか?
「自分たちがやってきたものを出し切ろうという感じでした。今まで積み重ねてきたものを全部出して、ぶつけようと。1試合1試合戦う中でチームに自信が出てきたし、勝つことで確立されていったと思います。特に(グループリーグ最終戦の)イングランド戦で負けたときは、自分たちのサッカーを出せずに負けてしまったので。どうして出せなかったのかをみんなで話し合いましたし、自分たちで話し合って改善して、次(準々決勝)のドイツ戦に勝ち切ったことで勢いも出たと思います」

―最近では宇佐美選手をはじめ、日本人でドイツでプレーする選手が増えています。ドイツ人選手と日本人選手の相性。なぜ日本人選手が次々とドイツに渡っていると思いますか?
「日本人の真面目なところがドイツに合うんじゃないかと思います。ドイツは欧州の中では時間も守りますし、真面目な方だと思うので。あとはサッカーのスタイルとして球際が激しかったり、ロングボールが多かったりする中で、日本人の技術やショートパスがアクセントになって活きているんじゃないかなと思います」

―ドイツでの女子サッカーは日本よりも確立された立場ですか?
「日本よりも女子の競技人口は多いんですけど、実際にドイツに行ってみて、ドイツという国はサッカーだけじゃないかというくらいサッカーの人気がすごいんです。でも、女子はW杯で2回も優勝しているのに、まだそれほど恵まれていない環境だなと感じました。なので今回のW杯にかけていて、今回のW杯が成功することがドイツはもちろん、世界的にも、これからの女子サッカーにとって大切なW杯なんだなと感じていました」

―ドイツでは日本代表のDF内田篤人選手(シャルケ04)との交流もあるそうですね。
「すごく仲良くさせてもらっていて、家も近いということで食事に行ったり、シャルケ04の試合を見に行かせてもらったりしています。メールは私も返すのが遅かったり、返さなかったりするので、みんなにすごく怒られるタイプなんですけど。内田くんはもっと上かなっていう感じです(笑)。今回のW杯では勝つたびにメールをもらいました」

―内田選手以外にも男子の代表選手と交流はありますか?
「吉田くんとか、長谷部くんとか、細貝くん、鄭大世くんとか。(本拠地が)近かったり、元レッズの方だったりするので。男子の代表選手から祝福のメールをもらえて、すごくうれしかったですし、モチベーションになりました。試合前にも『頑張って』っていうメールをくれて、男子の選手が『自分たちも頑張ろうって思えた』と言ってくれたのはすごくうれしく思いました」

―チームが一丸となったことが勝因と言われていますが、まとまった理由やきっかけはありますか?
「チームが一丸となるのはなでしこの良さで、自分もずっとなでしこでプレーしてきて、過去の先輩たちのときから、みんな本当にサッカーが大好きですし、環境が悪い中でもひたむきにサッカーに取り組んでいる。サッカーにかける思いはみんな一緒なので。試合に出られなくて悔しくてもチームのために、というところがなでしこをつくっていると思いますし、そういうところが先輩たちから受け継がれてきているのが大きいと思います。特に今回はGKの山郷さんや福元さん、経験があって出られない選手がしっかりした姿勢を見せてくれて、若い選手たちもそういう姿を見ることで一丸となれたんだと思います」

―W杯期間中にチーム内で流行ったことはありますか?
「私はやっていなかったんですけど、ネイルはみんなの中で流行っていました。あとはリラックスルームというのがあって、一つの部屋の中にDVDがあったり、ちょっとお菓子があったり、本があったりして。そこに行って、みんなでお笑いのDVDを見るのが楽しかったです」

―オンとオフの切り替えができていた?
「笑いも大切だと思うので(笑)。中3日の試合で張り詰めていたので、みんなでリラックスするときはリラックスしてという感じでした。自然とリラックスルームに人が集まって、みんなでお茶をしながら、大笑いして。時々感動的なテレビを見て、みんなで涙しながら見たりとか。仲良くやっていました」

―お笑いのDVDはだれかが持ってきたものなんですか?
「テクニカルコーチが用意したものとか、私もうっちー(内田)に貸してもらったものがあって、すごく好きなのがあったので(笑)。それを持っていったりして、大笑いしてました」

―具体的に何のDVDですか?
「私が持っていっていたのは『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』(※フジテレビ系『とんねるずのみなさんのおかげでした』の人気コーナー)ですね」

―チームメイトの中のムードメイカーはだれなんですか?
「みんなそれぞれ面白いんですけど。みんなで集まったときに面白いことを言うのは、宮間選手とか大野選手とか、あとは誕生日のときに踊ってくれたり、歌ってくれたりするのはカリナ(丸山)ですね(笑)」

―安藤選手自身がサッカーを始めたきっかけ、プロになろうと思ったきっかけは何ですか?
「サッカーは気がついたら始めていた感じです。3歳くらいのときにお父さんとボールを蹴って、楽しかったのがきっかけです。本当に好きで、自然と始めて、幼稚園からクラブでプレーしていました。栃木の先輩で手塚貴子さんという元代表の方がいて、小学生のころから憧れていたんですが、いつか自分も代表選手になって、世界と戦いたいという気持ちが芽生えていきました」

―いつごろからプロとしてやっていけるという自信が生まれましたか?
「ずっと小学生のころから代表に入りたいという思いでやってきたんですけど。高校生のときに初めて代表に呼んでいただいて、自分がまさか代表に入れるとは思わなかった。でも呼んでいただいて、実際に試合をしてみて、自分も世界で戦える選手になりたいと強く思うようになりました」

―W杯で優勝して、今は達成感が強いですか?
「いえ、むしろ気が引き締まるというか、優勝してすごいことをしたなとは思いますけど、アメリカも強かったですし、この大会では自分たちがツイていた部分もあったと思います。優勝するにはそういうところも大切ですが、他のチームよりもすごく力があって優勝したというのではなくて、拮抗した中で自分たちが優勝できたという感じなので。次の(ロンドン五輪の)アジア予選も厳しい試合になると思います。もう一度気を引き締めて、もっともっとレベルアップしていかなきゃいけないという思いの方が強いです」

―W杯とは違った難しさがアジアにはありますか?
「W杯はもう終わったことなので。世界と戦うのはいつ、どことやっても厳しい試合になります。今度は日本を倒そうと研究してくると思うので、自分たちもレベルアップしていかないといけないと思っています」

―今サッカーをしている、またこれから始めようと思っている子どもたちにメッセージをお願いします。
「自分も小さいときに『世界一になりたい』という夢を持って、ずっとサッカーを続けてきました。やり続けていたら本当に思いが叶った。夢を大きく持って、努力し続けると叶うんだよということを伝えたいです」

[写真]ゲキサカのインタビューに応じるFW安藤梢

(取材・文 片岡涼)
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