[12.3 J1第34節 浦和1-3柏 埼玉]

　最高のフィナーレだ。“ラッキーボーイ”たちから今年一番の笑顔があふれた。DF橋本和とMF茨田陽生の若手2選手が、優勝を決める大一番で大仕事をやってのけた。橋本が決勝点、茨田がダメ押し弾を決めて優勝に導いたが、何と2人ともこれが記念すべきJ1初ゴール。今年の柏は若い選手の頑張りが目立ったが、象徴的な締めくくりで優勝をつかんだ。

「今までおしいところまでいって取れていなかった。ほんま、持ってないなあと思っていたけど、最後の最後でちょこっと、いいのが出た。シュートのときは、ボールがこぼれてくる予感はあった。シュートはとにかく、枠の中に入れることだけを考えていました」

　前半38分、橋本が2-0とする貴重なゴールをきめた。右サイドで得たCKのチャンス。MFレアンドロ・ドミンゲスのボールがニアで競られ、中央の橋本のところへこぼれてきた。「その前のプレーで、自分のところにこぼれて来たときにボールに触れなかった。その反省があった。もう1回来るかもしれないと準備をしていた」。橋本はゴールに背を向けていたが、オーバーヘッド気味に左足を振り抜き、ゴールネットに突き刺した。ムードメーカーのJ1初ゴールが、結果的に決勝点となった。

「ホント、ラッキーでした。入るとは思っていなかったので、本当にうれしいです。CKからの流れでゴール前にたくさん選手がいたので、それに当たって入ればという感じでした」

　茨田のゴールも大きかった。浦和にリズムを奪われていた時間帯の後半31分、相手の意表をつくロングシュートで試合を決める一発を決めた。右CKのチャンスで、レアンドロのキックは相手DFにクリアされたが、ゴール正面やや右、距離にして約30mあった中、茨田は右足を振り抜いた。ボールはGK加藤順大の前でバウンド。意表を突かれたシュートに加藤はファンブルし、そのままゴールネットに吸い込まれた。この日、不動のボランチだったMF栗澤僚一に代わって3試合ぶりに先発を果たしたが、大一番にも動揺せずにネルシーニョ監督の起用に応えてみせた。

　そして、新妻にも最高のプレゼントを届けた。茨田は先月に一般女性との入籍を発表したばかり。この日の浦和戦には、その新妻が応援に駆けつけていた。ゴール後は、左手の薬指にキスをしながら喜びを表した茨田。「試合後に電話をしました。優勝できて良かったです」とはにかんだ。

　ゴールは、最後の最後で生まれたが、2人の活躍はこの日だけではなかった。柏は今季、若手とベテラン、そして助っ人がうまく融合して栄冠をつかんだが、2人は大きく台頭した若手だ。25歳の橋本は開幕当初こそ控えに回っていたが、夏場に入って左SBのレギュラーを獲得した。これが柏の転機の一つとなった。

　MF大津祐樹のドイツ移籍で左サイドからの攻撃が心配されたが、橋本の成長で、それまで左SBのレギュラーだったMFジョルジ・ワグネルを左MFに上げることができた。ワグネルはもともと攻撃が持ち味の選手。攻守両面で一層、柏のチーム力が上がった。橋本は7月31日の仙台戦から最終節までリーグ戦16試合連続で先発し、計25試合に出場。柏の左SBを不動のものとした。

　20歳の茨田は今季開幕の清水戦に先発。序盤は4試合連続で先発した。その後は控えに回ることが多くなったが、ボランチに2列目と中盤ならどこでもできる才能があり、落ち着いたパスさばきと豊富な運動量が評価された。勝っていても負けていても、試合を落ち着かせるために途中から起用され、ネルシーニョ監督の期待に応えてきた。今季はリーグ戦27試合に出場と大きく飛躍した一年となった。

「他の試合でも決めるチャンスはあったけど、最後にあの2人が決めたのは、今までしっかりやってきたからだと思う。それと、こういうのが最後に出せるのはチーム力が付いたんだと思う」とMF大谷秀和。FW北嶋秀朗も「2人がここで決めたのは、これまでの努力があったからだと思う。若手の頑張りに刺激を受けた」と称えた。努力を惜しまず、ひたむきにプレーしてきた2人に、サッカーの神様が最高の結末を用意した。

(取材・文 近藤安弘)