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“優勝請負人”ネルシーニョ監督、初Vの次は常勝軍団へ「常に成長していく」

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[12.3 J1第34節 浦和1-3柏 埼玉]

 やはり優勝請負人だった。ドン底に沈んでいた“太陽”を再び天高く昇らせた。敵地の埼玉スタジアムでネルシーニョ監督は選手たちの手に支えられ4度、宙を舞った。昨年はJ2を戦った柏レイソルがJ1王者へ。“魔法”としか言いようがない指導力で、Jリーグ史上初となる昇格初年度のJ1制覇という偉業を果たした。

「今日で今年のJリーグが終わったが、2011年の我々は82%くらいの割合で首位にいた。ずっと優勝に近いところで戦ってきたという自覚がある。今日もシーズンを通してやってきたことを選手たちが出してくれた。2011年、この厳しいリーグのチャンピオンになれたことを誇りに思うし、2年間ついてきてくれた選手に感謝したいし、心からおめでとうと言いたい」

 1994年はV川崎(現東京V)のコーチとしてJリーグ年間優勝を経験したが、監督に昇格した95年は、第2ステージ優勝のみだった。指揮官としては初となる“Jリーグ完全制覇”。会見では選手たちに感謝の言葉を口にした。だがむしろ、選手たちが、そしてサポーターがネルシーニョ監督に感謝している。負け癖がついていたチームを大きく生まれ変わらせたからだ。2009年7月、J2降格圏にいた柏の監督に就任した。さすがに時間が足りず、そのまま降格という悔しさを経験したが、10年シーズンはぶっちぎりの強さでJ2を制覇。そして、この日の歓喜を迎えた。

 J2だった昨年からJ1で優勝争いができるチームを目指して整備してきた。様々な手を打ってきたが、大きかったのは、メンタル面の強化だった。選手たちに勝利への執着心を植え付けた。ネルシーニョサッカーを最も理解する選手の一人、MF栗澤僚一は「監督は勝つために何をすべきかというのを常に言っていた。目の前の試合だけを考えて、それに集中するように言う。戦術も常にブレないし、勝っても負けても同じ練習をしていた。先のことよりも、とにかく目の前の勝利についてすごく言っていた。ホント、それには妥協がなかった」と明かす。

 勝っても負けても日々、1勝の重みを説き、先発も控えも、メンバー外の選手にも勝利のために何ができるかを求めてきた。もともと才能があり、選ばれたプロの選手たち。口酸っぱく言われることで定着し、勝っていくことで自信も芽生えた。それはJ2だった昨季も同じ。練習メニューも、勝っても負けても、相手がどこでも変えなかった。「自分たちのサッカー」をすることだけにこだわった。栗澤は「1戦1戦ブレずに戦ったことが、今季1度も連敗しなかった要因だと思う」という。

 抜群のチームマネジメント力を発揮した。練習から常に競争を求め、チームに緊張感をもたらした。DF橋本和は「週の中日の紅白戦は、ほんまに緊張感があった。AチームとBチームに別れてやるんですけど、悪いとすぐに先発組からサブ組に変えられた。先発組に入っても、そこで気を抜くと外される。試合に出てる選手も出ていない選手も、同じような気持ちでやれたと思う」と力説する。

 指揮官の好き嫌いや、将来性といった期待感だけでレギュラーに据えることはない。若手もベテランも、過去の実績も関係ない。事実、大一番となったこの日の浦和戦。調子の落ちていたエースFW北嶋秀朗、不動のボランチだったMF栗澤僚一を先発から外し、起用もしなかった。DFパク・ドンヒョクにいたってはベンチから外した。代わりにFW田中順也とMF茨田陽生の若手を抜擢した。

「チームの必要に応じて、ゲーム内容に応じて選手を使っていかないといけない。いつも言っているが、レギュラーは18人じゃない。全員のキャラクター、能力を把握したうえでの決断だ」。シーズンを通して、この考えを貫いた。これは逆に控えの選手には、高いモチベーションとなった。CBの控えに回ることもあったDF増嶋竜也は「監督は本当に平等。良いプレーをすれば使ってくれる。それで気持ちを切らさずにやれた」。選手が、指揮官を信頼して付いて行く要因となった。

 ネルシーニョ監督は会見で、一番苦しかった時期は? と問われたが、「1シーズンを通して、どうしていいかわからないという時期はなかった。厳しいリーグなので、結果を残せない試合はあったが、やるべきことを見つめ直して選手たちと話して継続することができた。やるべきことははっきりしていたので、この時期、このゲームが苦しかったと強いて挙げるものはない」と胸を張った。指揮官も選手たちの力を信頼していた。

 この歓喜を1度で終わらせるつもりはない。次なる目標は、柏を常勝軍団にすることだ。ネルシーニョ監督は「来年、レイソルが今いるメンバーの95%くらい維持してほしい。放出せずに残し、クオリティーの高い必要な新加入選手を連れてくることだ。今年やってきたようにチーム内に競争があり、やるべきことを浸透させ、常に成長していく。勝利を求めて続けていくべきだ」とフロントに注文をつけた。名将の仕事はまだまだ終わらない。柏に再び黄金期をもたらす。
  
(取材・文 近藤安弘)

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