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宇佐美貴史インタビュー(後編)勝負の2012年へ「試合を見てるだけでは我慢できない」

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 今夏、G大阪からドイツの強豪バイエルンへ移籍したMF宇佐美貴史。決して出場機会に恵まれているわけではないが、普段の練習から各国代表選手とプレーすることで刺激を受け、一歩一歩、前進している。19歳で欧州のビッグクラブへ飛び込んでから半年。日本の至宝が今、何を思っているのか。ゲキサカが直撃インタビュー――。

―ドイツでの半年間を振り返ると?
「試合に出られていないので、うまくいっているとは言えないですよね。でも、こういう環境を想像していたというか、試合に出られず、もがく日々を覚悟のうえで望んでいた部分もありました。ここからどうはい上がっていくか。いいモチベーションでいます。全然あきらめていませんし、何回ベンチから外されても、アピールしてやろうと思っています」

―練習で学べるものも多いですか?
「見て学ぶという意味では、バイエルン以上の環境はないと思いますし、学ぶことしかないですね。プレーのイメージがどんどん湧いてくるようなプレーをする選手ばかりですし、そういうプレーを間近で見たり、間近でマッチアップしたり、今の自分にはプラスにしかなってないと思います」

―ピッチ外でもチームメイトとの付き合いは多いんですか?
「バイエルンはあまりないですね。みんなでご飯を食べにいこうみたいなのはないと思います。仲が悪いわけではないですよ。めっちゃ仲はいいんですけど。なんなんでしょうね。みんなインドア派なんですかね(笑)。(高木)善朗(ユトレヒト)とか、欧州の他のチームでやっている選手に聞くと、チーム全員でそういうのに行く機会もよくあるみたいなので、何でないんやろうって寂しいですね。そういうのがあれば、もっともっと距離も縮められるんですけど。ドイツ代表の選手同士だったり、第一言語が同じ選手同士だったりで固まっているんですよ」

―そういう状況のときはどうしてるんですか?
「いや、もう通訳と入り浸ってますよ(笑)。ウクライナ代表の選手はクロアチアの選手とロシア語でしゃべっていたり、リベリとファン・ブイテンはフランス語でしゃべっていたり、ブラジル人はポルトガル語でしゃべっていたり。だから、あんまりみんなで遊びに行こうとはならないんですよね」

―出てくる名前がすごい選手ばかりですが、彼らのチームメイトという感覚はありますか?
「麻痺してきてますね(笑)。家族とかに『お前、CLに出てんねんで』って言われたり、『リベリからおつかい頼まれるって』みたいなことを言われると、『あー』ってなりますけど、中にいると普通の人なので」

―おつかいを頼まれる?
「子供にあげるおもちゃなんですけど、日本のほうがいいものがあるらしいので。『海外にはないから買ってきてくれ』って。『お金払うから』と言われたんですけど。だから1万円分ぐらいのものを買って2万円分ぐらい請求しようと思っています(笑)」

 ドイツに渡ってからの半年間は決して満足のいくものではなかった。公式戦出場はブンデスリーガ、ドイツ国内杯、欧州CLにそれぞれ1試合ずつ途中出場したのみ。それでも、刺激に満ちた日々の練習が宇佐美をさらなる高みへ導こうとしている。

―リベリやロッベンら同じアタッカーの選手と自分を比べて、どこが違うと思いますか?
「リベリに関して言えば、一つの仕掛けにしても、速いスピードの中で次から次へとアイデアを出して、それをしっかり成功させています。抜き方一つにしてもそうですし、自信を持ってやっているなというのは見ていて感じますね。あの人は世界でもベスト3に入るぐらいの選手だと思っています」

―そういう選手たちと一緒に練習することで自分が成長したと感じられる部分はありますか?
「毎日、自分を見つめ直してやっていれば、実力が後退することのほうが難しい環境だと思います。とにかく腐らないというか、当然のことですけど、毎日の練習を大事にして、練習でアピールするにはどうすればいいのかを考えれば、自然に意識しなければいけないところも見えてきます。すべてが前進できていると思います」

―逆にここをもっと伸ばさないといけないと感じた部分は?
「日本では守備の課題、運動量の課題というのが言われているみたいですけど、それがあっても日本で試合に出られていたのは、自分の持ち味が他の選手になかったからだと思います。だから、それをこっちでもできれば、バイエルンでも絶対に使ってくれると思うんです。リベリもあれだけ攻撃ですごいから多少守備をさぼっても許されるわけで、もちろん守備もしないといけないですけど、自分も持ち味をもっと鋭くしていくことのほうを課題として見ています」

―足りないところを埋めるのではなく、強みを伸ばそうと?
「そうすれば絶対に自分が必要になると思うので。今の課題は、強みをもっと伸ばしていくことだと思います」

 欠点を補うのではなく、長所を伸ばす――。その言葉に宇佐美の確固たる自信が見える。勝負の2012年。自分の持ち味をさらに引き出してくれる“新兵器”とともに宇佐美はブンデスリーガ後半戦に挑む。
 『adizero f50 Powered by miCoach』(アディゼロ エフフィフティ パワード バイ マイコーチ)。adidas史上最軽量モデルの高速スパイク『adizero f50』は『miCoach SPEED_CELL TM』(マイコーチ スピードセル)を追加で搭載することで、プレー中のスピードや走行距離、スプリント回数などを計測・データ化。PCやiPhone / iPod touchを通して自分自身の特長を具体的な数値で確認できるようになった。

―新しいスパイクはどうですか?
「好きですよ。履き心地もいいし、軽いし、派手な色が好きなので。好きなポイントを全部抑えてくれています」

―今回のスパイクは、ICチップを入れることでプレー中のさまざまなデータを計測できるということですが?
「データとして自分で確認できるのはうれしいですね。どれだけの回数、スプリントをしていたかというのも分かりますし、逆に全然してなかった場合も、それがしっかり分かるのはすごく大きいです。もっとしなきゃとか、後半にできなくなっているなら体力を付けようとか考えることができますし、はっきり数字で出てくれるのはありがたいですね」

―スパイクによってプレーが左右されることはありますか?
「めちゃくちゃありますよ。自分は1足なら同じ1足をずっと履き続けています。選手によっては2、3種類のスパイクを持っていて、ちょっと濡れたら替えたりとかしていますけど、そういうことはまったくしないです。ずっと1足でやってます」

―スパイクに対して特別にリクエストしていることはありますか?
「刺繍を入れてもらうぐらいですね。履き心地の面では、しっかり足型を取ってやってくれていますし、問題ないので」

―どういう刺繍を入れているんですか?
「奥さんの名前と、漢字で『突破』と。あとは背番号と国旗も入れてもらっています」

 宇佐美のスピード、ドリブルの切れ味を引き出す「軽さ」という前モデルまでのコンセプトを維持しながら、さらに「頭脳を持ったフットボールスパイク」と形容されるまでになった新スパイクとともに、宇佐美はさらなる進化を遂げようとしている。その去就も取り沙汰される中、今、宇佐美が何を思い、どこを目指しているのか。2012年の決意を聞いた。

―出場機会を増やすためにレンタル移籍の可能性も報じられています。バイエルンに残るか、外に出るか。今はどう考えていますか?
「自分自身もまだ分からない状況にいますが、試合に出たいという気持ちは持っています。それがすべてですね。それを踏まえてどうなるか。バイエルンで試合に出られるようになれば、それが最高ですし、まずはそれを目指します」

―リザーブリーグでは点を取っていますが、リザーブリーグのレベルはどうなんですか?
「バイエルンのBチームはそこまでレベルが高くないので、ボールを保持して攻めるということができないんです。でも、逆にそれが自分にとってはプラスになるとも思っています。ガンバのときもそうですが、今までは周りがすごくうまくて、チームが常にボールを保持してできていたので、自分があまり動かなくてもボールが入ってきていました。でも、Bチームでは自分が動かないと、ボールがまったく入ってこないので、そういう意味では考えさせられますし、そういうことを感じられたことも大きかったですね」

―バイエルンのトップチームとBチームのレベルの差が気になりますか?
「Bで試合に出たくてドイツに来たわけではないので。やっぱりブンデスリーガで、1部リーグで試合をしたいという思いで来ていますし、そこで試合をしたいというだけです」

―2012年の5月には20歳になります。あらためて2012年、20歳の目標は何ですか?
「まずはバイエルンに来てからの半年よりも、いい半年にしたいですね。『したい』というより『する』という気持ちでいます。試合に出たいですし、試合を見ているだけではもう我慢できなくなってきているので。半年間で感じた悔しさを、全部晴らしていきたいですね」

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(取材・文 西山紘平)

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