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甲府DF浦上仁騎「あの人と一緒にやれてメリットしかない」歴史的アシスト導いた“レジェンド”の教え

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ヴァンフォーレ甲府DF浦上仁騎

[10.5 天皇杯準決勝 甲府1-0鹿島 カシマ]

 国内最多21冠を誇る鹿島アントラーズを破り、史上初めて天皇杯決勝への切符に手を伸ばしたヴァンフォーレ甲府。歴史を動かした決勝ゴールの場面には、長年にわたってクラブの伝統を築いてきた生けるレジェンドの教えが活きていたという。

 0-0で迎えた前半37分、それまで劣勢が続いていた甲府は、いったん試合のテンポを落ち着かせるように最終ラインにボールを戻した。左サイドにはフリーの味方が待っており、DF浦上仁騎が大きなキックモーションを開始。オープンなエリアに向かってロングフィードを蹴り出すかのように思われた。

 ところが、浦上が狙ったのは鹿島の右CB関川郁万の背後だった。そこに呼吸を合わせるようにFW宮崎純真が走り抜け、一気に最終ライン裏のスペースを陥れると、完璧な足裏トラップからしなやかにGKクォン・スンテをかわし、落ち着いた右足シュートでゴール。鮮やかな速攻で甲府が先制点を奪った。

 その後は鹿島がほぼ一方的に攻め立てたが、両チームともにスコアを動かすことはなく、甲府が史上初めてカップファイナルへの出場権を獲得。宮崎の一撃はクラブの歴史を大きく動かす値千金のゴールとなった。

 試合後、アシストした浦上はミックスゾーンに姿を現すやいなや、渾身のロングキックに込めた思いを明かした。

「練習が終わってからあの形のキックは練習していたので、こういう舞台で得点につながるパスを出せたことは自信になる。あそこで宮崎選手もよく決めてくれた。本当に嬉しい」

 左サイドに蹴ると見せかけ、一気に最終ライン裏を攻略するのも目論見どおり。「シンプルにサイドに蹴るキックと、外を見ながら右のCBに落とすキックは練習していた形。宮崎選手には常に狙っておいてと言っているので本当に狙い通りだった」と胸を張った。

 その光景は今季からチームの指揮をとっている吉田達磨監督も間近で見ており、してやったりの一撃だったようだ。

「鹿島さんは目の前にボールを入れれば強いので、裏を狙うのはセオリーだった。仁騎と純真がいいタイミングでコンタクトして、ここしかないタイミングで蹴ったし、ここしかないタイミングで抜け出した。オフザボールの勝負で一瞬勝った。DFからしたらやられちゃいけないシーンだったと思うけど、彼らの工夫というか、目線とか、体の開き具合とか、キックのモーションが外に向かっていた。それでボールが中に来た。練習が終わった後にやっているので、それがこの舞台で出せたということだと思う」

 日々の取り組みが常に成功をもたらすとも限らないのが厳しいサッカーの世界。それでも浦上は力強く語った。「本当にサッカーって非常に難しくて、シーズン通してずっといい時なんて決してなくて、苦しい時もある。そういう時にやめないこと、逃げないこと、常に自分にベクトルを向けないと成長はない」。そうした姿勢が天皇杯準決勝という大舞台で結実した。

 また浦上は加えて、自身のキックに大きな影響を与えていた立役者の存在も明かした。

「山本選手という甲府のベテラン選手がいるんですが、キックがすごく上手いので教えてもらったりしていて……」

 名前が挙がったのは2003年から甲府でプレーしているDF山本英臣。175cmの上背ながらボランチだけでなく最終ラインも担い、J1・J2通算で550試合以上の出場歴を持つ42歳のレジェンドだ。今季はベンチに控えることが多く、この日も出場機会はなかったものの、その教えは紛れもなくピッチ上に受け継がれていた。

「ボールを置く位置、視線、体の向きを山本選手から教えてもらっていて、そこに自分の感覚をうまく擦り合わせながらやっている。山本選手には僕には到底真似できないキックがいっぱいある。あの人と一緒にやれているのは僕にはメリットしかないし、盗めるものは盗みたい。それを今日出せてよかった」

 これも甲府が築いてきた一つの伝統の姿。常勝軍団として恐れられている鹿島をカップ戦で破った快挙の裏には、選手たちが日々積み上げてきた努力の成果と、クラブを長年背負ってきたレジェンドの存在があった。

(取材・文 竹内達也)
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