beacon

昨季は全試合出場、新卒5年目の残留決断、今季途中のキャプテン就任、天皇杯制覇…荒木翔が語る甲府への思い

このエントリーをはてなブックマークに追加

チームを率いたキャプテンMF荒木翔

[10.16 天皇杯決勝 甲府 1-1(PK5-4)広島 日産ス]

 優勝決定とともに、涙があふれた。ヴァンフォーレ甲府を率いるキャプテンMF荒木翔は「まだ実感ないです」。今季残留を決意したクラブで、今季途中からキャプテンに就任。そして日本一と、怒涛の一年になった。

 J1勢をことごとく打ち破る快進撃は、最後まで止まることはなかった。強敵・サンフレッチェ広島を相手に前半26分に先手を打つ。左CKのショートコーナーからPA左でパスを受けたのは荒木。「スカウティングでショートコーナーからあそこのゾーンが空くのはわかっていた。顔上げた瞬間に、三平さんがめちゃくちゃ呼んでくれていた」。中央に折り返し、FW三平和司の先制ゴールをお膳立て。直後には力強くガッツポーズ。歓喜の雄たけびをあげた。

 左サイドで攻守に貢献した。ボール奪取からのカウンターでは鋭いパスを前線に通してチャンス創出。後半21分に途中交代となり、キャプテンマークを託してあとは仲間たちの奮闘を見守る。120分間の死闘を制し、クラブ初のビッグタイトルを手にした。

「まだ実感ないです。僕のサッカー人生において日本一になることが初めて。決勝戦を戦うのも初めてなので、試合前からそわそわしていたし、優勝したときもすごくうれしかった。自然と涙が出るような感じだったので、本当に優勝したんだなってそこでやっとわかった。そんな感じです」

 今季途中までキャプテンだった新井涼平がクラブを去り、今夏から荒木が急きょキャプテンに就任。クラブリリースでは「僕がキャプテンになったから何かが特別変わる事はないですが」と語りつつ「どんな時でもチームが上を向きポジティブな方向に進んで行けるように務めていきたいと思います」。難しい立場ながら謙虚にチームを支え続けた。

 その姿勢は試合後の表彰式でも垣間見えた。カップリフトの大役を、クラブ在籍20年目の大ベテランDF山本英臣に譲った。「僕が掲げるほどじゃないので。臣さんがこのクラブに貢献してきたことの数々を考えれば、やっぱり臣さんに上げてほしかったので、臣さんにお願いしました」。荒木にとってその存在は大きい。

「ピッチに立っているだけで安心感があるし、その一言でチームが蘇ることが多々あった。僕がこのチームに加入してから、あの人の存在はいまでもずっと変わらない。これからもたぶんずっと変わらないと思うので、そんな選手に僕もなれるように」

 荒木は国士舘大を卒業後、2018シーズンから甲府でプレー。初年度は出場機会は少なかったが、徐々に存在感を高めていき、21シーズンはチームで唯一リーグ戦全42試合に出場した。J1昇格は惜しくも叶わずも、その活躍でJ1クラブからのオファーは届く。しかし残留を決断した。「(契約更新を)発表したのが元日。本当にその直前まで悩んでいて、僕のサッカー人生の先を考えたときにステップアップという手もあった」。思いとどまったのは、甲府に長く在籍した選手たちの背中を見ていたからだ。

「臣さんだったり、涼平くんだったり、河ちゃんだったり、ずっとこのクラブにいた選手たちの姿を見ると、ひとつのクラブに長くいることもすごいなと思うので、そこに僕は価値を感じた。残りたいと思って、今年残らせてもらった」

 はにかみながらチームへの愛、山梨への愛を語った。「いろんな話がありましたけど、このチームが好きだし、このチームでやれることがたくさんある。あんまり表には出さないですけど、みんなが思っている以上に僕は相当山梨のことが好きなので。山梨のためにこれからも頑張りたい」。来季は山梨を背負い、アジアの大舞台ACLへ。パスポートの期限を心配する素振りを見せながら、笑顔を絶やさず会場を去った。

(取材・文 石川祐介)
●第102回天皇杯特集ページ

TOP