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[Fリーグ]北海道の新たな象徴・室田祐「0-0でも、ヒールリフトは狙っていた」

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 ガラリとチームコンセプトが変わった。エスポラーダ北海道のことだ。Fリーグ2010の開幕戦、名古屋オーシャンズを相手に、彼らは2-2のドローゲームを演じている。その時、前半のキックオフから彼らは貝のように引きこもり、名古屋に攻撃を加速させるスペースを与えなかった。そしてボールを保持すると、前半からGKをFPにするパワープレーに出る。リスクを冒すことなく、ただただ5人でボールを回して、時間を費やした。

 この年の名古屋は、世界最高の選手とも言われるFPリカルジーニョを獲得したばかりで、この試合が彼のお披露目でもあった。彼のプレーを一目見ようと、フットサルでは異例ともいえる5,000人以上の観衆が会場に集まった。しかし、試合でポルトガル代表のスターは持ち味を出すことが許されなかった。与えられたスペースは小さく、時間も短かったからだ。北海道の作戦勝ちではある。だが、同時にあまりにも消極的な戦いぶりは、多くの批判も集めた。

 あれから3年が過ぎ、Fリーグは2012シーズンの開幕を迎えた。当時、何よりリスクを冒すことを嫌ったチームは、決定的に変わっていた。その象徴が、加入して3年目となるFP室田祐希だ。

 第2節のアグレミーナ浜松戦では、前半2分にキックインから豪快なボレーシュートで、先制点を挙げる。その後も、華麗なテクニックを持つドリブラーは、対面するDFに挑みかかるようなドリブルをしばしば見せた。そして、最大の見せ場は試合終了間際に訪れる。高い位置でボールを奪い、GK山本浩正と1対1になると、ヒールリフトでGKの頭上を抜くシュートを狙った。シュートは惜しくもGK山本に弾き出されたが、圧倒的な技術とそれを実践した勇気に、会場からは拍手が送られた。

 第1節の浦安戦(3-3)に続き、試合のマン・オブ・ザ・マッチに選出された室田祐は、試合を振り返り「勝ち点3をしっかり取れて安心しているというか、すごく嬉しいです」と笑顔を見せた。昨シーズン、北海道は開幕戦で花巻に2-3で敗れ、10チーム中9位に低迷した。「開幕戦で敗れてから、チームが悪い方向に行った」と振り返る室田祐は、1勝1分けに終わった今シーズンのセントラル開催でのスタートについて「良い結果だと思います。頑張ってプレーオフ進出を目指してやっていきたい」と語った。

 結果以上に気になったのが、北海道の試合運びだ。チームとしての戦い方が変わったことを認める室田祐だが、自身のスタイルは変化していないと明かす。

「(チームの)戦い方は変わりましたね。でも、最初のシーズンから自分の中では『仕掛けて行く』という意識を持ってやっていたので、自分はあまり変わらずにやってきました。チームの意識が変わったことで、仕掛けるプレーが、よりやりやすい状況にはなったと思います。でも、シーズンを重ねて、自分に余裕が出てきたこともあったのかもしれません」

 チームメイトのFP水上玄太は、「ドリブルのセンスはずば抜けていますね。(DFに)体に触れられてしまうと、細いため弱い面もあるのですが、体に触れさせないくらいの感覚とスピードがあります」と、室田の能力を高く評価する。

 過去2シーズン、自身の長所であるドリブルを、どういう状況でなら出せるかを常に考えながら、Fリーグの舞台で場数を踏む。そして迎えた3シーズン目、チームが彼のスタイルに合った戦い方を取り入れた。なるほど、2試合続けてマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのも、うなずける。

 とはいえ、仮にスコアが開いていなかったら、最後の場面はヒールリフトではなく、インサイドキックなどでゴールを狙ったのではないのか。室田祐は、これも涼しい顔で否定した。

「多分、(試合が拮抗していた)前半でもGKと1対1の場面があったら、ヒールリフトをやっていたと思います」

 かつてファルカンやリカルジーニョら、世界的なテクニシャンに話を聞いた。彼らは異口同音に、こう言った。

「ああいうトリッキーなプレーをするのは『自分はこんなプレーができるんだぞ』ということを示すためでも、もちろん相手を挑発するためでもない。それが得点につながる最善の選択だと思っているからやっているんだ」。

 若手の台頭に久しいFリーグで、4月に20歳になったばかりのテクニシャンは、どのような成長曲線を描いていくか。

(取材・文 河合拓)

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