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[MOM1292]山梨学院GK古屋俊樹(3年)_PK戦劇的勝利を呼び込む折れない心!!

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 山梨学院高 0-0(PK7-6)岐阜工高 駒沢]

 PK戦において、2本ぶんのアドバンテージというのは、大きすぎるほどに大きい。岐阜工は監督も選手も誰もが「勝ったと思ってしまった」というが、それはいたしかたないだろう。劣勢だったチームが、PK戦になると逆に優勢になるという流れも珍しいことではない。逆に敗戦を覚悟した山梨学院の選手も少なくなかっただろう。違ったとすれば――孤独にゴールマウスに立ち続けていたGK古屋俊樹(3年)だけだったかもしれない。

 試合中から仲間を鼓舞し続けた。「調子が悪くて点が取れなかったとしても、0失点で終わって勝気いる。そういう試合があることも想定していました。そういう試合で、点が入らなくても0失点ならOK。とにかく守備だ、と」。岐阜工を押し込んだ後半戦、なかなかゴールが奪えない。どこか嫌な流れが会場に漂い出した後半25分だった。「我慢比べだぞ!!」というスタンドに響く大声を発した。その研ぎ澄まされた集中力はPK戦になってもかわらない。決められれば負けが決まる4人目のキック。左に鋭く跳んでセーブしてみせた。「自分が止めて相手が固まっていくのが分かった。絶対に止めるという自信しかなかった」。いわゆるゾーン状態に突入していた。

 なぜここまで気持ちが途切れなかったのか。これには理由がある。古屋は1回戦の時、ベンチにも入れず応援席で応援していた。山梨県大会決勝、ペナルティエリア外で相手シュートに反応して手が出てしまい退場処分を受けた。その結果、選手権1回戦は出場できなかったのだ。「県大会決勝から選手権までの1カ月半の間、みんなに励まされながら準備してきました。絶対に出場させてやる、と。そして1回戦に勝ったから次はお前の番だと言ってくれた。そんなみんなのためにも恩返しがしたかった」。

 押し込んだ展開でのPK戦というのは、逆に分が悪く感じられるもの。しかしそんなネガティブな思いは浮かんできすらしなかった。とにかくみんなに恩返しをしたい一心だった。PK戦の間も味方に自信を持つよう声をかけ続けた。3人目のキッカー、DF安西亜蘭(3年)には、ボールを叩きつけるような強い態度でメッセージを送った。「彼は弱気なところがあるし、かたくなっていたので。技術よりメンタルだぞ、と」。結局キックは枠を外してしまうのだが、極限の状況においてもチームメイトを見渡し気遣える余裕が古屋にはあった。

 試合に際して大事にしているのは「一体感」。一人ではなくみんなで守ってみんなで攻める。まさに山梨学院が体現している姿そのものだ。PKの練習はトーナメントシーズンに入ってから相当数積んできた。この試合の勝利は、その個人練習の賜物といっていい。だが、それだけで得られた結果だとも思っていない。みんなのサポートがあったから心が折れなかった。みんなへの恩があったから執念が燃えさかった。美談ではなく、結果をもたらした真実。2015年1月2日は、古屋俊樹にとってサッカー人生のみならず人生そのものにおいても宝といえる経験をした日として今後輝き続けるかもしれない。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)
(取材・文 伊藤亮)
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