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[選手権]敗者から勝者へ、広島皆実DF二井野が國學院久我山FW澁谷へピッチ上で送った言葉

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[12.31 全国高校選手権1回戦 國學院久我山高1-0広島皆実高 味フィ西]

 敗者から勝者へ思いのこもった熱い言葉が送られた。試合終了直後のピッチ。敗れた広島皆実高(広島)のDF二井野巧(3年)は涙を流したり、倒れこむわけでもなく、おもむろに國學院久我山高(東京A)FW澁谷雅也(2年)の元へ歩み寄っていった。味方が泣き崩れるなか、広島皆実のCBは身振り手振りを交えて、相手エースへ必死に話しかけていた。

 二人の間の会話とは――。試合前から警戒していた澁谷を二井野を中央に置く3バックで無得点に抑えた広島皆実高だったが、試合は0-1で敗戦。2年連続での初戦敗退となった。試合直後、二井野は敗戦の悲しみにくれるよりも、味方に話しかけるよりも先に、相手エースの澁谷へ「相手DFの裏にいて、抜け出そうと狙っているけど。相手のCBをSBより前に押し出して、DFラインの一番後ろをSBにすれば、もっと裏が上手く取れる」と“アドバイス”していたのだ。

 相手選手から受けたまさかのアドバイス。「普通、敵のチームにアドバイスとかしないですよね……びっくりです。素直にありがたいと思いました」と澁谷は驚きの表情で振り返り、「本当にあの人の分も背負って戦っていきたい」と強く誓った。

 初対面の二人だったが、試合中からささやかな会話を繰り返していたという。「今日の試合楽しみにしてたよな」と言い合い、「あれファウルだった?」とやり取りもした。面識はなかったものの、たった80分間を本気でやり合ううちに距離は縮まった。

 二井野は「澁谷は裏に出てきたけれど、自分はつきやすくて。裏に来られても怖くはないというか、ついていけた。次の試合に活かしてほしいと思って、自分がされたくない裏の取り方を伝えました」とアドバイスを送った理由を明かす。

「今日の試合で澁谷は0点だったけれど、あいつの長所のドリブルや、今日伝えた点の取り方で澁谷のプレーの幅が広がれば嬉しい。点を量産して、久我山が上位にいったら、自分が勝ち進んでいるわけではないけれど、“分身”のような気持ちになるので」と敗退の決まったCBは優しく微笑んだ。

 会話を終えた二人は最後に「楽しかったな」と笑みを交わした。「次は取ってくれよ!」「任せろ!」。敗者から勝者へ思いは託された。二井野の思いを背負って、澁谷は必死にゴールを目指す。

(取材・文 片岡涼)
(写真協力『高校サッカー年鑑』)
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