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[MOM2293]大阪桐蔭MF西矢健人(3年)_「苦しい状況でどれだけできるか」。成長した主将が先制弾

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攻守において貢献度の高かった大阪桐蔭高MF西矢健人主将

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.5 選手権大阪府予選準決勝 大阪桐蔭高 1-1(PK4-3)近大附高 キンチョウ]

 勝利が決まった瞬間、応援団がいるスタンドへと向かった大阪桐蔭高の選手たちから離れ、一人ゴール前へと向かったMF西矢健人(3年)の姿が気になった。向かった先は、敗れて涙を流す近大附高の選手たち。「今日の勝ちがゴールではない。僕が喜ぶのは全国を獲ってからでいいかなって。相手のおかげでここまで良い戦いができたし、相手のGKは1年生で、悔しさはよく分かる。僕も1年生の時は自分がミスしたせいで、5回戦で負けている。こういう辛い思いを乗り越えて、頑張って欲しいなって思った」。

 落ち込む近大附のGK石田哲朗(1年)にかけた言葉は、そうした思いを詰め込んだモノ。「この経験を活かせばもっと成長できる。あと2年あるから先輩たちのためにも頑張れ。失敗じゃないし、自分もこういう悔しい経験をしてきて、今がある」。

 今でこそ、他を思いやれる選手だが、「元々は自分がしっかりしていればいいという一匹狼みたいなタイプだったし、自分のことしか考えていなかった」。昨年までは「上級生ばかりの中で、自分がここにいて良いのかなと思っていた」ため、遠征先でも一人でいることが多かったが、主将を務めた今年はそうはいかない。「殻を破らないといけないと思っていた」と自分なりにもがいてきたのが今年の西矢だ。

 そうした変化は、試合の中でも見て取れた。「昨年や一昨年の先輩たちのためにも、勝って全国に行かないといけない」との思いで挑んだこの日は序盤から、持ち味の左足で、サイドに配球し、「下級生はガンガン行ける選手が多い」と評するMF清藤俊介(2年)やMF木村勇大(2年)の突破を引き出した。最初の見せ場は、前半21分。右から上がったクロスにPA手前で反応すると、「来たらしっかり振りぬこうと思っていた」とイメージ通りに放った左足シュートがゴールネットを揺らした。

 幸先の良いスタートを切ったものの、「1点獲ったことで、気持ち的に守りに入ってしまった」と気付かぬうちに、守りの色が濃くなり、後半は一方的に押し込まれる時間が続いた。それでも、何とか失点を回避し続けたが、「攻撃力がある素晴らしいチームだと分かっていたので、対策もしてたけど、最後の所で踏ん張り切れなかった」と悔やんだように、後半40分にはロングフィードからFW河村慶人(3年)にヘディング弾を決められ、延長戦に持ち込まれてしまった。

 気落ちしてもおかしくないシチュエーションではあったが、西矢は「相手が勢いに乗っていたので延長前半は我慢して、相手の動きが止まる延長後半からは行くときは行こうと考えていた」と冷静に状況を分析。狙い通り、延長後半から再び、前に出る回数を増やすと、延長後半1分にはPA手前で決定機を迎えたが、「あれを決められないのは、まだまだ」と振り返る通り、ミートし切れず、ボールはGKの正面に収まった。

 追加点は奪えなかったが、苦しみながらもPK戦で勝利。この2年間、立つことができずにいた全国の舞台にまた一歩前進できた。「苦しい状況でどれだけできるかを今年、キャプテンになってからの目標に課していた。チームが良くない時に人より走ったり、結果を残したり、想いをプレーで示そうと考えていた。昨年を超えて、昨年から止まった時間を動かすため、ゴールを決められて良かった」と安堵した表情を浮かべたが、冒頭の言葉通り、準決勝で勝つことが目標ではない。決勝でも、これまで悔し涙を流してきた先輩や、大阪桐蔭に敗れたライバル校の分まで、思いを込めたプレーを披露し、全国にたどり着くことが彼に与えられた使命だ。

(取材・文 森田将義)
●【特設】高校選手権2017

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