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[MOM2419]前橋育英FW榎本樹(2年)_「自分を見捨てずに…」叱られてばかりの2年生が恩返しV弾

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前橋育英は後半アディショナルタイムにFW榎本樹(2年)が劇的な優勝決定弾

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.8 全国高校選手権決勝 流通経済大柏高0-1前橋育英高 埼玉]

 頭の中は真っ白だった。0-0のまま突入した後半アディショナルタイム2分、前橋育英高(群馬)はPA左手前からMF田部井涼主将(3年)が左足でフワリとしたクロスを入れ、FW榎本樹(2年)が頭でそらしたボールをFW飯島陸(3年)がおさめた。飯島の左足シュートはDF三本木達哉(3年)が腹部でブロックしたが、こぼれ球に反応した榎本が右足を振る。渾身のシュートは三本木の股間を抜け、ゴール右隅に吸い込まれた。

「うれしすぎてあんまり覚えてないけど……」。劇的な決勝点のシーンについて榎本は「自分の前にボールが転がってきて、シュートを打ったら、たまたま相手の股を取った。ラッキーゴールだと思う」と振り返る。得点後はバックスタンドの応援席へ一直線。「試合に出られない3年生のためにも自分がゴールを決めないといけないと思っていた。喜びを一緒に分かち合いたかった」と、その理由を語った。

 悲願の初優勝を告げるタイムアップの笛が鳴ると、殊勲の2年生FWは感極まった。「笛が鳴った瞬間、すごくうれしくて涙が出た。初めてうれし泣きした」。涙の意味を問われると、「うれしいのが一番だけど、3年生にはいろいろ迷惑をかけて、申し訳ない気持ちがあった。ゴールで恩返しできてよかった」と打ち明けた。

「叱られることも多かったけど、自分を見捨てずに3年生はずっと言ってくれた。寝坊が多かったり、私生活もダメダメだった」。そう申し訳なさそうに話す榎本について田部井涼は「あいつが1年生のときから絶対に(トップチームに)上がってくると思っていた。背も高いし、足も速い。素質はピカ一だった」と、入学当初から目をかけてきた。

 エースの飯島が負傷を抱えたまま臨んだ夏の全国高校総体でブレイクした榎本は大会得点王にも輝いた。「インターハイで得点王になって、浮かれるところもあると思う。でもここで浮かれたらプロには行けないぞと」(田部井涼)。試合中、シャツを出してプレーしていれば、そのたびに厳しく注意した。それも榎本の才能を高く評価しているからこそ。田部井涼は「僕は(卒業して)いなくなるけど、時々連絡を取ろうかな」と冗談交じりに笑った。

 決勝で青森山田(青森)に0-5で大敗した前回大会の悔しさを飯島や4バックら多くの現3年生が経験していたことも今回の初優勝につながった。今度は榎本ら2年生が優勝の経験を生かし、来年度、連覇を目指すことになる。山田耕介監督を胴上げし、「やっと日本一の監督にできた」と喜んだ榎本は「でも、自分には来年もある。来年も日本一を取れるように。注目されるような選手になりたい。今日も流経の選手に(競り合いで)負けてばかりだった。3年になったら全員に勝てるようにしたい」と、日本一のチームの“エース”として迎える最終学年への決意を語った。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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