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夏制覇で生まれた精神的な甘さ…初戦2失点で火ついた五條、一条との延長戦制して初優勝:奈良

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初優勝を果たした五條高

[11.16 選手権予選決勝 五條3-2(延長)一条 奈良橿原]

 16日、第98回全国高校サッカー選手権奈良県大会の決勝が奈良県立橿原公苑陸上競技場で行われた。全国出場をかけた一戦はインターハイ予選決勝と同じカードとなったが、初優勝を目指す五條高が延長戦の末に4連覇を狙う一条高を3-2で下し、選手権初出場を決めた。

 立ち上がりから流れを掴んだのは五條だった。インターハイ予選決勝と同じように攻守ともに積極的な姿勢をみせ、前線からのプレッシングでボールを奪い、サイドを突破。前半12分には、DF井本郁弥(3年)の右CKをMF池田達哉(3年)がヘディングで押し込み、先制点を奪った。

 前半は決定機が少なかった一条は「中盤で競り合いになって、相手にボールを奪われることが多かった。後半はこぼれたボールを自分たちが回収し、スピーディーに前線に持ち込む」(澤井匡生監督)ことを徹底。後半の立ち上がりからセカンドボールを拾えるようになると、早々に同点に追いついた。

 後半2分、一条はMF山田跳馬(3年)からのパスを受けたMF松山知樹(3年)が右足を振り抜き、ゴールネットの隅に突き刺した。ここから一条の勢いはさらに増し、19分にはMF岩本涼太(3年)からのパスを受けたMF梅景俊輔(2年)がGKの股を抜く技ありシュートを決めて、2-1と逆転に成功した。

 残り時間が少なくなっていく中、五條はサイドから再三ゴール前にボールを入れるも、一条に弾き返されて同点ゴールが遠い。それでも諦めずに攻め込むと、後半37分に左CKでゴール前に蹴ろうと準備していた井本に対して、勢いよくコーナーに向かって走ってきたMF豊田魁人(2年)がボールを要求。

「水を飲みに行っていて様子を見たら、練習で自分がゴールを決めたことがあるシチュエーションと同じだと気付いた」(豊田)ことから機転を利かせ、井本にゴール前に入れるのではなく、ショートコーナーを選択させた。たった一度きりの練習での経験から豊田が放ったミドルシュートは、そのままゴールに吸い込まれ、劇的な同点弾で延長戦に持ち込んだ。

 そして、決勝点は延長前半4分に生まれた。先制点と同じく、五條が井本からの右CKに池田が頭を合わせてゴールを奪い、3-2と勝ち越し。その後は一条の猛攻をしのいで、五條が初優勝に輝いた。

 インターハイ予選でも一条を下して13年ぶりの奈良県大会優勝をつかんだ五條だったが、夏以降もうまく行ったわけではなかった。全国大会出場を機に「選手たちは自信を持つことができた」(吉岡一也監督)反面、「なんとなく『奈良県リーグでは大丈夫だろう』と思ってリーグ戦に臨んでしまう精神的な甘さ」(池田)も生まれてしまった。

 一条がリーグ戦で手堅く勝ち点を積み重ねていくのに対し、五條はリーグ後期に黒星をつけるなど、うまくいかない試合が増えた。結局リーグ戦では一条が無敗で優勝し、五條は香芝高と並んで一条に勝ち点9も離され、得失点差により2位でフィニッシュ。選手権予選が始まっても、一条が決勝まで4試合22ゴール無失点で勝ち上がってきていたのに対し、五條は1回戦で大淀高に2ゴールを先に奪われていた。

 だが、そこでようやく目が覚めたようで、「選手たちの『絶対に奈良県大会を優勝して、選手権に出るんだ』という気持ちに火がついた」(吉岡監督)という。その大淀との初戦では、2点ビハインドの状況から合計5ゴールを奪取。選手権予選を戦っていく過程で、徐々に夏のようなたくましく戦えるチームの姿を取り戻していき、夏冬連覇へとつなげた。

 試合後には「五條に来てから20年」の思いが込み上げ、涙ぐむ姿も見せた吉岡監督。これまで「選手たちが高校卒業後もサッカーを続ける中で生かせるように」と、信念を持ってドリブルに力を入れ、指導してきた。「やっとたどり着くことができた選手権での全国の舞台」で、「これまで練習してきたことを目一杯発揮したい」と意気込んだ。まずは、初戦突破で「初出場で初勝利」を目指す。

(取材・文 前田カオリ)
●【特設】高校選手権2019

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