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「シンちゃんと一緒に…」脳腫瘍でサッカー選手としての未来を突然奪われた仲間とともに大分高が県内3冠で全国へ:大分

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「シンちゃん」を囲んで記念撮影

[11.17 高校選手権大分県予選決勝 大分4-0(延長)柳ヶ浦 昭和電ド]

 第98回全国高校サッカー選手権大会の大分県予選決勝が17日に昭和電工ドームで行われ、大分高柳ヶ浦高を延長戦の末に4-0で下し、2年連続11回目の全国大会出場を決めた。組み合わせ抽選会は18日に都内で実施される。

 2年連続で同じ決勝の組み合わせ、今夏のインターハイ予選決勝でも対戦した“ライバル対決”は、前半から緊張感のある試合になった。そして今夏の対戦同様、80分間では決着がつかず、勝敗の行方は延長戦にもつれ込んだ。

 ただ大分高の小野正和監督が「選手層の厚さで勝ち切れた」と振り返ったように、延長戦に入ると交代で入った選手がいきなり結果で応える。延長前半3分、MF瀬藤聖人(3年)の出したスルーパスに延長に入って投入されていたFW大神颯汰(3年)が反応。ワンタッチでGKと1対1を作ると、ループシュートを決めて先制に成功する。

 勢いづいた大分はその後、延長前半7分に瀬藤、延長後半4分に途中出場のMF森山悠太(3年)、同6分に再び大神が決めて突き放す。試合後半にエースFW芝崎翼(3年)が足をつって交代したことで攻め手を失った柳ヶ浦とは対照的に、多彩な攻撃パターンで畳みかけた。

「今回の選手権はシンちゃんのためというのが一番強かった」

 大分イレブンは「シンちゃんのために」と団結していた。シンちゃんとは3年生部員の大竹志之介(おおたけ・しんのすけ)。大分中時代から一緒にサッカーを続けてきた仲間だ。だが大竹は今、車椅子なしには生活できない状態になっている。


 大竹は大分中時代はボランチとして活躍。中3時には富山県で開催された全国中学生サッカー大会にも出場。青森山田中との対戦では試合出場も果たした。ただその夏、大竹を異変が襲った。体調不良を訴えたことで病院で検査を受けると、脳に腫瘍があることが分かった。

 チームメイトへの報告は親伝手だったというが、同年冬には手術は避けられないほどにまで悪化。突然奪われた未来。中学時代から10番を背負ってエースだったFW菊地孔明(3年)は「『嘘だろ』みたいな感じ。本当に信じられなかった」と当時を回想する。

 ただ仲間はそのまま「シンちゃん」と一緒に戦い続けることを決めた。大竹を受け入れたサッカー部は、“51番”のユニフォームを用意。試合前の写真撮影では、中学時代に同じくボランチでプレーしていたMF重見柾斗(3年)が51番のユニフォームを着て写真に収まることが日課となった。


 さらに重見は今季より、中学時代に大竹が背負っていた「本当のシンちゃんの番号」である背番号6をつけてプレー。この日も試合前に無料通話アプリLINEを通じてメッセージを貰っていたと明かした重見は、「自分がシンの分まで戦わないといけないと思った」と力に変えていたという。

「シンちゃんのために」を合言葉に戦った今季の大分高は、県内3冠を達成。今季の“大分県絶対王者”として全国大会に進む。「自分たちはサッカーが出来るだけで感謝しなければいけない。3冠はあいつへの恩返し。一緒に全国に行ける?それが一番嬉しいです」(菊地)。

 夏のインターハイでは3回戦で惜しくもPK戦負けを喫したが、全国でやれるという手ごたえも得たという。目標は大分高の歴代最高成績である4強超え。イレブンは「まずは初戦突破」と足元を見据えながら、正月の快進撃に備える。

(取材・文 児玉幸洋)
●【特設】高校選手権2019

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