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[MOM3130]四日市中央工FW田口裕也(3年)_まさかのBチーム宣告から這い上がった伝統の背番号17

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FW田口裕也が2試合連続ゴール(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 高校選手権2回戦 松本国際1-2四日市中央工 フクアリ]

 1年前、同じ場所。使用したロッカーも一緒だった。蘇る屈辱。しかし四日市中央工高のエースFW田口裕也(3年/鳥取内定)は自らの実力で、最高の思い出の地へと変えてみせた。

 昨年度の高校選手権、フクダ電子アリーナで行われた初戦の秋田商戦に先発した田口だが、シュート2本を放ったものの、ゴールネットを揺らすことは出来ず。1点ビハインドの後半21分に途中交代を命じられた。

 自らの未熟さを痛感した大会になった。だがプロになるという夢を掴むため、そして選手権でリベンジする、そう強い決意を持って最終学年を迎えるつもりでいた。

 しかし新チーム始動日初日、考えもしなかったことが起こる。チーム全員で試合形式の練習を行ったが、そこでチーム分けが行われた。そこでまさかの事態が起こる。約30名ほどが呼ばれたAチームメンバーに田口は入ることが出来なかったのだ。

「不満があるやつは聞きに来い」。首脳陣からそう説明があった。もちろん不満がないわけはなかったが、それよりも「何も考えることが出来なくなった」。自然とこぼれる涙。いつの間にか、ベンチに座ったままでいるのは自分だけになっていた。

 そこに歩み寄ってきてくれたのが仲間だった。「俺必要ないみたいだから頑張れよ」。ぽつりと話した言葉に仲間は「絶対にお前は必要だ」と励ましてくれた。「あの時のチームメイトの言葉は本当に僕の中で大きかった」。

 Bチームの生活はしばらく続き、ショックから2週間ほど練習に参加できない時期もあったというが、新人戦の決勝をスタンド観戦した際に感じた悔しさ、「自分がいないのにこれだけいいゲームが出来るのか」という思いを、「自分が入ったらどうなるのか」とプラスに考えることで消化。4月の県リーグ開幕からAチームへの復帰が許されると、そこからは背番号17として試合に出続けた。

 首脳陣はBチームに落とすことで、田口の精神的な成長を期待していたという。伊室陽介監督も「お前がいなくてもいいんだぞ」と突き放したと当時を振り返る。「今年1年はサッカー人生で一番悔しい思いをして、一番悩んだ1年でした。悩んだけど、一番成長できた1年かなと思います」。田口自身も一回り逞しくなったことを自覚している。

 そんな中で迎えた最終学年の選手権。夢のプロ内定を11月に確定させて、J内定選手として大会に臨んでいる。求められる結果。田口は初戦の日大明誠戦で先制点を決めると、続く2回戦の松本国際戦では、1点ビハインドの後半2分、MF宮木優一(2年)のロングパスを胸トラップで受けてGKとの1対1を鮮やかに制し、貴重な同点弾を奪ってみせた。

「四中工の17番はチームを勝たせる選手でないといけない」。伊室監督から常に言い聞かされている言葉だ。優勝した91年度大会、伊室監督と同期の小倉隆史氏が背負ったことで、“四中工の17番”は一躍全国区となった。「付けさせてもらっている以上は恥じないプレーをしないといけない」。自らにプレッシャーをかけることで、最高の結果を出そうとしている。

 弱体化したとはもう言わせない。背番号17が最高の輝きを放つとき、四中工が完全復活を遂げる。

(取材・文 児玉幸洋)
●【特設】高校選手権2019

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