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選手権は通常開催へ! 高体連・蔵森技術委員長「選手たちは是非頑張って欲しい」

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第99回全国高校サッカー選手権は通常開催を目指す。前回大会は静岡学園高が24年ぶりとなる全国制覇(写真協力=高校サッカー年鑑)

 頑張ろう高校生! 新型コロナウイルスによって、多くの人命が失われ、経済、文化、そしてスポーツも大きな影響を受けた。サッカー界も大会の中止が相次ぎ、チーム練習もストップ。だが、緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常が戻り始めている。Jリーグは6月27日にJ2とJ3、7月4日にはJ1が再開予定。高校サッカーでは、第99回全国高校サッカー選手権の開催の可否について気になるところだ。ゲキサカでは、(公財)全国高等学校体育連盟サッカー専門部の蔵森紀昭技術委員長(成城学園中学校高等学校)にインタビューを実施。蔵森委員長は、同大会を主催する (公財)全国高等学校体育連盟、(公財)日本サッカー協会、日本テレビ・民間放送43社を中心に選手権の通常開催へ向けた話し合い、準備をしていることを明かし、高校生プレーヤーたちへエールを送った。

以下、蔵森技術委員長インタビュー

―インターハイや甲子園、文化部の全国大会が中止となっている状況ですが、現状、全国高校サッカー選手権開催について、高体連サッカー専門部はどのように考えられていますか?
「現在は、通常通り開催するということを前提に準備をしています。もちろん、これからの情勢によって最悪の事態が起こることも我々は想定していますが、そうならないように色々な段階的な部分も考えながら、基本的には開催するという方向性でいます。これは個人的な考えになるのですが、選手たちの立場に立った時に皆さん引退という言葉を使われるけれど、アマチュアスポーツに引退はありません。受験などによってサッカーをちょっとお休みするという発想はあって良いと思いますが、これで引退ではなくて、サッカーは未来に繋がっているという認識をして欲しいです。ただし、高校サッカーの節目は当然あるので、そういう意味では選手たちにとって良い節目を作ってあげたいです。そのために、この選手権を何が何でも開催して、『区切りをつけられない』『節目を迎えられない』という選手たちを何とかしてあげたいなと思っています」

―選手権開催へ向けた会議はいつ頃から行われていたのでしょうか?
「コロナ禍が大きくなってきた時に、我々運営側としてはまず前回の第98回大会を無事に終えることができて良かったという思いがありました。日本高校選抜欧州遠征の活動が中止になってしまったことは非常に残念でしたが・・・。2月下旬頃には、日本の経済活動や学校の多くに影響が出ていましたが、あと1か月感染拡大が早かったら第98回大会は予期せぬ形で巻き込まれていたかもしれないと。3月に入り、日本中の学校の活動などが止まった際に、インターハイとセットで選手権のことも我々は話を進めてきました。インターハイについては、どうしても全種目という動きがある中で、中止という決断に。色々なイベントがなくなるにつれて、我々の選手権開催への使命感は強くなっていきました。具体的に言うと、高体連の役員だけでなく、JFA、日本テレビ、スポンサー関連と関係各所の方々とすでに3回、4回とリモートの会議を実施させてもらっています」

―何としても選手権だけは死守しようと。
「そうですね。その使命感は皆さんが持たれています。大会に関わっている皆さんから凄く熱のこもった話があったり、会議中に涙される方がいらっしゃったり、それくらい皆さんがこの第99回選手権に懸ける思いを持っているということが伝わってきました」

―開催へ向けての不安、否定的な意見もあったのでしょうか?
「それはありません。もちろん、心配事は尽きないですが、どうやったら開催できるのか、という議論です。お金がかかることもあります。ただし、皆さん前向きに、何かを捨ててでも対処して、試合の環境を守ろうと。楽観的な前向きではなく、細心の注意を払いながら、どうすれば開催できるのかを常に突き詰めている状況です」

―現在、開催への障壁となっている部分は何でしょうか?
「一言で言わせてもらうと、温度差です。これは、我々が開催したいと思っている熱と、もちろん開催へ向けて応援してくれるけれど、世間の方々との温度差があります。加えて、全国でも地域によって感染のレベルやコロナに対する警戒の温度差があると思います。首都圏開催をしようとしている地域が一番厳しい状況にありますから。皆さんにどう納得してもらいながら、どう開催していくのか。温度差のある中でどう我々の熱を伝えて行くかというところは凄く障壁があるかなと思います」

―予選を含めて、開催期間中に高校生の中で感染者が出ないことを全力で目指していく。
「Jリーグなどが再開し、スポーツ界はここからの数か月間で色々な経験を積んでいくと思います。それを見て、プロスポーツでできることと我々ができること、そういったところを履き違えないようにしながら、上手く選手権に繋げていきたいという思いがあります」

―決して、ウイルスを甘く見ている訳ではない。
「我々は感染者1人2人出しても何とかやれれば良いなんて考えは全くありません。安全にどうやって開催していくか。矛盾していると思われるでしょうけれど、その中でどの辺りを通って行けば良いのか。状況が変わればどんどん変化させなければいけなくなるので、我々がやるべきことは、いくつものルートを今のうちに準備しておくという作業になるかと思います」

―想定外のことが起こらないように、万全の準備をしておく。
「当然、不安視される声がいくつもあるかと思います。状況によってしっかりと対応策を示すということがプレーしている選手、チームに安心して大会に臨んでもらうために必要です」

(公財)全国高等学校体育連盟サッカー専門部の蔵森紀昭技術委員長(成城学園中学校高等学校)が第99回全国高校サッカー選手権通常開催への準備を進めていることを明かした。(写真は2020年1月。写真協力=高校サッカー年鑑)

―高体連として、選手権予選、全国大会を行う上でコロナウイルス感染予防への取り組み、指示として考えていることがあれば。
「これをやっておけば完璧ですという具体的な策はありません。現状はチーム、選手の取り組みの中で、(手洗い・うがいなどの予防策を)習慣化して身につけてもらいたいです」

―第2波が起こった時の対応も簡単なことではない。
「全国大会だけであれば、冬なのでまだ先のことというイメージですが、そこへたどり着くための都道府県予選があります。加盟チームをたくさん抱えている都道府県は、予選の中でもかなりの時間を割くことになる。実際、タイムリミットはかなり迫っています。JFA含めて色々な協力を仰ぎながらスケジュールの確保に動いている状況です。我々が一番頭を悩ませているのは、大会を実施している途中でプレーヤーに感染者が出たり、代表校に全国大会直前で感染者が出てしまったりした時の対応です。その基準をどうするか。大会を開催していく上での土台となる対応策を現在、練っているところです」

―感染した選手を責任で押し潰す訳にはいかない。
「濃厚接触者が出たチームの扱いなどがプレッシャーになりすぎると、それを隠してしまい、クラスターを起こしてしまうような状況になってしまうかもしれません。それは絶対に避けなければいけない。参加するチーム含めて理解してもらいながら、考え方を統一してもらう必要性があると思います。非常に難しい問題です」

―開催を求める声が現場以外からあることも確か。
「これだけ色々な競技や大会が中止となっている中で、『何とか選手権が開催できる方向に持っていって欲しい』や『できるだけの協力をするよ』と言って頂いている方々が多いので、これこそ選手権の価値なのかもしれません。皆さんが認めてくれているのかなというところを我々は実感しているところです」

―高体連だけで実施することはできない。日本サッカー協会をはじめ、サッカー界全体やそれ以上のサポートも必要。
「この時期だからこそ、サッカー界は縦と横の繋がりが本当に素晴らしいなと改めて感じています。『高体連主催だから』と他人事のように言っている団体はなくて、会議、それ以外の場でも前向きに考えて細かいアドバイスをくれています。他の競技との違いというところで、サッカー界にはリーグ戦文化があります。インターハイがなくなった時に、サッカーは選手権もあるし、他競技にはないようなリーグ戦も残っていると。このリーグ戦はJFA主導でやって来たものに高体連や中体連、クラブユース連盟など色々な団体が一緒にスケジュールを調整しながらやってきたことでここまで成長して来ている。お互いが協力しながら作り上げたものがあるので、リーグ戦に対して我々は他団体同様に強い思いを持っていますし、他の団体も選手権に対して同じ思いを持って頂いている。ある意味、サッカー界は恵まれていると感じています。イベント会社さんが高校生のために合同トライアウトの企画を出して下さったり、節目の大会を行えるようにグラウンドを提供してくれる施設などがあります。サッカーに携わる方々が、高体連だけでなく、クラブユース、ジュニアユース、ジュニアと色々なカテゴリーのことを考えて行動してくれています。この状況の中、アイディアは色々なスポーツで出ていますが、実行に移せているのはサッカーが早いなという思いがあります。サッカー界では良くプレーヤーズファーストと言いますけれども、今回の色々な行動はこの理念を皆さんが持ってくれているからこそ。そのことを選手や指導者の方々も実感しているのではないでしょうか」

―高校生たちの将来を守ってくれている。
「今、高校で輝いているけど、小さな頃から知ってくれている方って多いんですよね。地元の方たちや指導者の方たちが長い目で選手を見続けてくれている。選手の成長のために、本当に縦と横の関係で色々な方が協力してくれていると感じます」

―インターハイが中止となった中でも、来年の日本高校サッカー選抜欧州遠征実施へ向けた動きがあるようですが?
「高校選抜は選手権が一つの大きな土台になっていますが、全国で開催されているリーグ戦やインターハイ、また代表活動などを我々技術委員がチェックして情報を共有しています。それが今年は全てストップしているので、私のところにも情報が入ってきていない状況です。ドイツのデュッセルドルフとも連絡を取り合っていますけれども、(日本高校サッカー選抜が毎年参加している)デュッセルドルフ国際ユース大会も実施する前提で準備を始めていて、日本高校サッカー選抜チームはすでに招待を受けているので、参加する予定でいます。そのためにも高校選抜編成の準備をしなければいけません。現在は材料がないので、全国のプレーヤーは横一線に並んでいます。これから行われる各都道府県予選でも、『こんな選手がいるぞ』という情報を集めながらピックアップしていくという考えです。逆に、選手の皆さんはどこでどうやって見られているか分からないので、『我こそは』という思いで素晴らしいパフォーマンスを見せて欲しい。そこから名前が上がってくる可能性は十分にあると思って頂きたいです」

何よりも大事なことは、新型コロナウイルスの感染が拡大しないこと。全国の高校生たちが一緒に乗り越えて、今冬も熱い戦いを繰り広げる。(写真協力=高校サッカー年鑑)

―日本代表がワールドカップでトロフィーを掲げるために高体連としても何ができるかを常に考えられています。この情勢で改めて考えさせられたこともあると思うのですが?
「縦と横のつながりという意味では、我々も高校サッカー選手権をより盛大に価値のある大会にしていきたいという思いを常に持ち続けています。決勝戦にあれだけのお客さんが来て盛り上げて頂ける、注目して頂ける大会だとしても我々は全然満足していません。もっとやれることはないかという欲を持っています。我々も先を見ています。選手権の舞台に立った選手たちが、最終的に日本代表のユニフォームを着て、ワールドカップでトロフィーを掲げてもらいたい。そこに繋げるためにはもっともっと、レベルを上げていかなければいけないという危機感に近い思いが強いです。日本のサッカーは確かに進化していると思いますが、世界のサッカーも同時に進化を続けています。世界との差を縮めるためには、育成年代の試合環境の質の向上が必要です。つまり、選手権の改革も急務だということです。トーナメントの大会におけるジャイアントキリングは確かに魅力的です。しかし、その裏側には大差がついてしまう試合がたくさん存在します。そういった試合を減らし、拮抗した試合を増やしていく必要があります。そのためには、上位リーグに所属するチームに対して予選をシードしたり免除したりする。そして、そこにリーグ戦を入れていくといったスケジュールの調整が必要だと思います。チームや選手にとっては、毎週気が抜けない公式戦が続くというわけです。年間スケジュールが過密となり、オフシーズンや暑熱の問題が叫ばれています。そのような問題も含めて、1年365日をデザインする必要があります。トーナメントとリーグ戦の両立が、日本代表が強くなるための一番の近道なんじゃないかと考えています」

―最後に、このような状況でも頑張っている高校生選手たち、そのご家族へのメッセージをお願いします。
「我々も最大限努力しながら準備していきます。それは全国の選手たちが同じような目線でしっかりと準備して頂いているという思いがあるからこそ。ですから、同じ思いを持って、諦めずにトレーニングを積んでいきましょう。もちろん、全国大会のステージに立てる選手は限られています。まだまだ思うような状況ではないかもしれませんが、諦めずにチャレンジして欲しい。今年はインターハイが中止になりました。悔しい思いをしている他競技のプレーヤーやクラスメートたちのためにもユニフォームを着て、その子たちの分も存分にプレーしてやるんだという思いを持って準備をして欲しいです。我々はしっかりと舞台を整えて、応援して下さっている皆さん含めて喜んでもらえるような、感動してもらえるような選手権にしたいと思います。そのためには選手の力が必要です。個人個人の思いを持って、是非頑張って欲しいと思っています」

高校生たちの将来を守り、さらに充実したものにすること。選手権は進化を目指し続ける。(写真協力=高校サッカー年鑑)

(取材・構成 吉田太郎、協力=全国高等学校体育連盟サッカー専門部)
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