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1年間噛み締めてきた不甲斐なさ、悔しさ。鬱憤晴らし、リベンジ果たした初芝橋本が3大会ぶり優勝:和歌山

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3年ぶりの和歌山制覇を果たした初芝橋本高イレブン

[11.15 選手権和歌山県予選決勝 初芝橋本高 4-2 近大和歌山高 紀三井寺陸上競技場]

 11月15日、紀三井寺陸上競技場で第99回全国高校サッカー選手権大会の和歌山県大会決勝が行われた。勝ち進んできた初芝橋本高近大和歌山高が決勝で相まみえるのは、3年ぶり。互いに決勝までの3試合で失点を許すことなく、勝ち進んできた。

 初芝橋本は昨年、インターハイに出場。「ベスト8」という目標を掲げて沖縄に行き、有言実行。全国ベスト8の結果を携え、和歌山に帰ってきた。「次は選手権でも」と意気込む中、県予選の準々決勝で近大和歌山と対戦。一進一退の試合でPK戦にもつれ込み、敗退した。

 その時のことを今季のキャプテン・樫村宝(3年)は「何も思い浮かばない、本当に頭が真っ白になった」と振り返る。MF西淵啓斗(3年)もまた、「これまでの人生で味わったことがない、最大の」絶望を感じたという。全国で結果を残せていただけに、チームにとってその悲しみは、言い表しようがないほどに深かった。

 この日の試合前、阪中義博監督は「今こそ鬱憤を晴らすべき時」だと話し、選手たちを送り出した。

 晴らすべき鬱憤は、対戦相手である近大和歌山へのものではない。樫村や西淵だけでなく、昨年の選手権予選にメンバー入りしていた選手たちは、今年の夏になってもなお「あのとき自分がもっとできていれば」という強い後悔と自責の念を吐露していた。鬱憤を晴らすべき対象は、これまでの1年で自分たちが何度も何度も思い返しては噛み締めてきた不甲斐なさ、悔しさである。

 かくして、ピッチに立った選手たちは、「今季のこれまでで最も初芝橋本らしい」(阪中監督)、最高のプレーを体現する。

 全員がハードワーク。ボールを奪うと、すぐに攻撃に転じる。序盤から積極的に仕掛けた初芝橋本。1点目は16分、DF植仲一樹(2年)からのパスを受けた樫村が右足で豪快なシュートを叩き込んだ。28分には、ゴール前へ突破しようとしていた樫村がPA内で倒され、PKを獲得。樫村は平静を保ったまま左隅に流し込み、2ゴール目を挙げた。

 さらにその2分後には、GK藤澤周弥(3年)が出したロングキックをFW前田拳志(3年)が頭で前へ流すと、西淵が反応。一度は相手DFに阻まれるも、こぼれ球に「パスを出そうかとも思ったけれど、撃てば何かしらの事故もあるかもしれない」と瞬時に判断、左足を振り抜いた。そのシュートは“事故”を起こすのではなく、見事なコースでゴールネットに突き刺さり、3点目。大きくリードして前半を折り返した。

 後半は少しミスも見え、攻めあぐねる時間が続いたものの、19分、西淵からボールを受けたDF瀬浦翔大(3年)がドリブルで突破し、ゴール前中央へマイナスのパス。交代前のラスト1プレーだったMF大影朋輝(3年)が、浮き球に落ち着いて左足を合わせ、4点目を奪った。

 一方の近大和歌山も、やられたまま簡単に終えるようなチームではない。ゴール前での高さ、そしてそれを生かすキャプテン・浦貫介(3年)の精度の高いキックとロングスローを武器に、リーグ戦も含め、これまで多くの得点を挙げてきた。

 この日は、警戒されていた浦からのセットプレーではなく、流れの中で得点を挙げる。24分、MF小幡慎之介(3年)のクロスにFW藤木皇成(2年)がヘディングでゴールに叩き込んで1点を返すと、さらに2分後には、競り合いになっていたボールをMF濱田拓見(3年)が頭でゴール前に落とし、藤木が体勢を崩しながらも右足を合わせて2点目。14分とアディショナルタイムを残し、4点ビハインドから2点差まで詰め寄った。しかし、追いつくことができないままフルタイムとなった。

 3年ぶりの優勝を果たした初芝橋本の阪中監督は、この日の試合を振り返って、「ボランチの選手がしっかりとセカンドボールを回収し、ディフェンスラインの選手たちは集中して相手の攻撃に対応し、前の選手たちは得点に繋がるプレーをした。それぞれの選手が、それぞれの役割をきちんと務めてくれた」ことが勝因だとし、選手たちの奮闘を讃えた。

 選手たちは昨年のチームでも掲げていた“選手権ベスト8”を目標としているが、まずは10年前を最後に突破できていない1つめの試合を勝つことに注力する。全国への切符とともに与えられた「ボーナスステージ」(阪中監督)をより有意義でかけがえのないものとできるよう、チーム全員で一丸となって戦い抜いてもらいたい。

(取材・文 前田カオリ)
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