beacon

大東文化大一は“蜂の一刺し”で先制も、延長後半の2ゴールで早稲田実が劇的な逆転勝利!

このエントリーをはてなブックマークに追加

延長後半10分の決勝弾に歓喜を爆発させる早稲田実高の選手たち

[10.16 選手権東京都予選Bブロック2回戦 大東文化大一高 1-2(延長) 早稲田実高]

 時計の針は、100分を指していた。正真正銘のラストチャンス。キッカーを託され続けた5番が丁寧に蹴り込んだボールを、執念のヘディングでゴールへねじ込んだキャプテンが、ベンチへと一目散に走り出す。「試合が終わりかけている時間帯という自覚はあったので、そこのところで試合を決定付けられる1点を獲れたというのが凄く嬉しかったですね。アドレナリンが出ちゃった感じです」(宮寺政茂)。

 延長後半で成し遂げられた大逆転劇。16日、第100回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック2回戦の大東文化大一高早稲田実高は延長までもつれ込む激闘に。延長前半8分に大東文化大一がFW福吉海斗(3年)の得点で先制したものの、早稲田実は延長後半7分にMF中田圭一郎(3年)、10分にDF宮寺政茂(3年)が続けてゴールを奪い、劇的に次のラウンドへと勝ち上がった。

 最初の決定機は前半開始2分の早稲田実。DF金指功汰(2年)が蹴った左CKから、MF関紀信(2年)が枠へ収めたシュートは、大東文化大一のGK大谷龍之介(3年)がファインセーブ。直後の右CKもDF若杉泰希(1年)のヘディングはクロスバー直撃。いきなり2つのビッグチャンスを作るも、ここで先制点を奪えなかったことが試合を難しくしていくことになる。

 一方の大東文化大一は、きっちりセットした守備から素早い攻撃を狙う戦い方を徹底。7分に左SB仲田洸大(2年)が放ったミドルは枠を越えたものの、16分にも仲田、FW浅島伶遼(3年)と繋いだボールを、MF上原航平(2年)が枠の左へ逸れるシュートまで。ボランチのMF北崎利海斗(3年)と浅島、フィールドでは2人だけの3年生を中心に、一刺しを窺う。

「Tリーグだとやっぱり受け身で引っ繰り返してというゲームが多くて、今日みたいにあそこまで攻めないといけないということが、実際は今までなかったですね。その中でも刺さなきゃいけない攻撃力の試合かなと思っていたんですけど、そこがちょっとうまく合わなかったなという感じです」と話したのは早稲田実の森泉武信監督。基本的に攻める早稲田実、守る大東文化大一という構図の中で、ゴールが生まれないまま時間だけが経過していく。

 とりわけ後半は早稲田実が一方的に押し込む展開。5分にMF戸坂修人(3年)がドリブルからシュートまで持ち込むも、大谷がキャッチ。直後の6分にも中田の右クロスから、FW久米遥太(1年)の決定的なシュートは大谷がファインセーブ。31分にはMF戸祭博登(1年)の左クロスに、飛び込んだ久米のフィニッシュは仲田が身体でブロック。35分にも中田が決定機を掴むも、大谷がビッグセーブ。大東文化大一も大谷、DF須永涼介(2年)とDF斉藤波斗(2年)のCBコンビを軸に、ゴールを死守。80分間で決着は付かず、勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦に委ねられる。

 緑の蜂の華麗な一刺しは延長前半8分。エリア内へ人数を掛けて押し込むと、浅島が粘って残したボールを、途中出場の福吉が豪快にゴールネットへ叩き込む。10番を背負った3年生ストライカーが、意地の先制弾。まさに『Sting Like a Bee』。とうとう均衡は破られた。

「まだ延長前半だったので気持ちは切り替えられたんですけど、延長は時間が短い中で、自分たちは逆転できる力をリーグ戦でもあまり示せている部分はなかったですし、引っ繰り返せるかどうか不安な想いは正直ありました」(宮寺)。攻めて、攻めて、ワンチャンスで失点。いわゆる負けゲームの流れを、しかし早稲田実は2人の3年生が引っ繰り返す。

 延長後半7分。右サイドからDF須藤侑介(2年)がクロスを上げ切ると、ファーサイドに走ったFW高橋智裕(2年)が懸命に折り返したボールを、中田は渾身のフィニッシュ。軌道はゆっくりとゴール右スミへ吸い込まれる。3人の交代選手で奪った同点弾。1-1。試合は終わらない。

 10分。左サイドで手にしたCK。スポットには金指が向かう。「コーナーの数は相当多い中で、なかなか合っていなかったので、そこはベンチワークとしても迷ったんですけれども、本人が『挑戦させてほしい』と言っていましたし、彼で1年間やってきている部分もあるので、そこは賭けでしたね。『今日のゲームの左サイドのコーナーは金指で行く』と」(森泉監督)。

 金指のキックは鋭く中央へ。「いつもはコーナーの入り方で自分がニアに行くところを、結構本数があったのでちょっと変えてみて、後ろから入る形にしたんです」という宮寺が高い打点で頭に当てたボールは、ゴールネットへ弾み込む。

「最後は子供たちが頑張ってくれたのかなと。普通はあのまま終わりますから。一般的にはジ・エンドだと思うので。そこはこっちも焦れずに、信じていました」と森泉監督。キャプテンの奇跡的な逆転弾は、そのまま決勝ゴール。大東文化大一の健闘が光った100分間は、それでもその鉄壁を打ち破った早稲田実が、準々決勝への挑戦権を得た。

「もうちょっと早く獲らないといけないゲームだったのは間違いないとは思います。やる方策として、ラストは相当縦に速くなったと思うんですけど、そこのところを嫌がらずに、しっかり団結するというところができたのかなという気はします」と試合後に話した森泉監督は、それでも「このコロナ禍では、日頃ないような助け合いの気持ちや、今までにはない友情というのがあるのかなという気がします。もうそういう気持ちしかないような最後の押し込み方なので」と言葉を続ける。

 この試合の前日。学校のグラウンドが使える日ではなかったため、早稲田大学が練習している東伏見のグラウンドを訪れると、大学生たちは快くスペースを貸してくれたという、「僕らはサブグラウンドでPKだけ練習しに行ったんですけど、『早実のために4分の1のスペースを空けろ』と言ってくれて、セットプレーとPKを30分間やったので、『PK戦になったらその大学生の気持ちも含めて絶対に勝つな』なんて思っていました」(森泉監督)。

 キャプテンの宮寺も、この難しい状況下での率直な想いを口にする。「正直ここに来れていないBチームともなかなか接点がない状況が続いて、今までだったら試合を見て何か感じ取れるものを、次の代に繋げてくれる場面が少ないというのをしっかり認識して、彼らがいない中でもビデオ越しからでも伝わるような熱量を伝えたいという想いを持ってやっていました」。

 その想いはもちろん大東文化大一も、早稲田実も同じ。森泉監督の言葉が印象深い。「ハーフタイムにも『来ていない人がいるんだぞ』という声が掛かっていたのは、“見えている友情”と“見えていない友情”があって、本当は近くにいた方がいいですし、そういうふうに捉えるしかないと思うんですけど、逆に今まで以上に熱いものもあるのかなと」。

 “見えていない友情“を信じて、100分間を戦い抜いた両チームの選手たちに大きな拍手を。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2021

TOP