beacon

追い込まれてからが、真骨頂。「毎回が決勝戦」の駒澤大高が東京二冠の実践学園を撃破!

このエントリーをはてなブックマークに追加

激闘は駒澤大高に軍配!

[10.24 選手権東京都予選Aブロック準々決勝 実践学園高 1-2 駒澤大高]

 誰よりも苦しんできたからこそ、誰よりも勝利の価値はわかっている。追い込まれた時にこそ、このチームの力はより発揮されることも歴史が証明してきている。「ここ数年で見ても一番苦しんできている子たちなので、本当に苦しかったと思うんですよね。それを本当に最後のこの大会にぶつけるというところ、そこはウチのチームしかできないことかなって思っています」(亀田雄人監督)。

 逆襲の駒澤、東京二冠王者を撃破。24日、第100回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準々決勝、関東大会予選とインターハイ予選で東京を制した実践学園高駒澤大高が激突した一戦は、前半にDF古田和也(3年)とFW加茂隼(2年)のゴールで2点を先行した駒澤大高が、実践学園の反撃をDF長友星澄(3年)が返した1点に抑え、西が丘への切符を勝ち獲っている。

「もう少しウチが押し込まれる想定でいたんですけど、そこは実践さんも慎重に入ってきたからだと思うので、ウチに力があったということではないと思います」(亀田監督)「勝たなきゃいけないというプレッシャーの方が大きかったかなと。先週の試合も昨日の練習も、なにかガチガチなんですよ。いかにボールを動かせるかがポイントだったんだけれども、前半は緊張なのか、立ち上がりが良くなかったですね」(実践学園・深町公一監督)。

 駒澤大高の勢いが、実践学園を上回る。シンプルな前へのアタックで、FW濱田雄斗(3年)のドリブルと加茂のパワーを生かしつつ、セットプレーを中心に相手ゴール前を窺い続けると、28分に試合が動く。駒澤大高が左サイドで得たCK。MF松原智(2年)が蹴り込んだボールは一旦跳ね返されたものの、こぼれを松原は「相手がプレスに来た中を外すような回転で蹴ろうと」インスイングでクロス。これが古田の頭にドンピシャで合う。

 高い打点から打ち下ろしたヘディングは、左スミのゴールネットへ。「自分はディフェンスラインの選手ですけど、セットプレーでは自分が獲るという気持ちもありましたし、チームを西が丘へ導きたいという想いは強かったです」という3年生CBの一撃。駒澤大高が先制点を挙げると、次の1点はその10分後。

 38分。得意のセカンド回収からMF新井璃久(3年)が短く付けたボールを、濱田は優しくスルーパス。「新井くんがボールを持って、濱田くんと3人で三角形を作って、ポケットの部分に“止まった動き出し”を入れました」という松原が左から折り返すと、加茂の左足ボレーがゴールを貫く。「クロスからのシュートというところは1つのポイントにしていたので」と亀田監督も話したクロスから追加点。駒澤大高が2点のアドバンテージを握って、ハーフタイムへ折り返す。

 小さくないビハインドを追い掛ける実践学園は、後半に攻撃の切り札のMF村田拓己(3年)とFW牧山翔汰(2年)を投入し、踏み込みたいアクセル。18分には牧山の左クロスをFW清水大輔(3年)が粘って残し、MF渡辺創太(3年)が飛び込むも、駒澤大高ディフェンスもシュートを打たせず。逆に20分には加茂のクロスから、新井が決定的なボレー。ここは実践学園のGK齊藤陸(3年)がファインセーブで凌いだものの、あわや3点目というシーンを作り出す。

 ラスト10分は実践学園の猛攻。32分にはDF池澤晏希(3年)が左へ送り、牧山のクロスのこぼれを渡辺がボレーで叩くも、ボールは枠外へ。直後には2枚替えでキャプテンのCB土方飛人(3年)を一列前に上げて、さらに圧力を掛けると、36分にはDF秋元朝陽(3年)の縦パスを受け、反転した長友が中央を切り裂きながらトーキックでフィニッシュ。軌道は右スミのゴールネットへグサリ。2-1。1点差。ピッチの空気が変わる。

 前に人数を掛けて、攻める実践学園。後ろを5バック気味にして、守る駒澤大高。40+5分。土方のフィードを長友が残し、走ったDF坂本壮央(3年)が懸命に放ったシュートは枠の左へ。それから程なくして、タイムアップのホイッスルが鳴る。崩れ落ちる青いユニフォームと、歓喜を噛み締める赤いユニフォーム。「最後は前に出ていく余力がなかなかなくなってしまったので、後ろの5枚を中心にみんな良く集中して、粘って守ってくれたかなと思います」と亀田監督も笑顔を見せた駒澤大高が実践学園を振り切り、ベスト4へと勝ち上がった。

 今年の駒澤大高は、とにかく苦しんできた。関東大会予選は2回戦で敗退。リベンジの想いを持って臨んだインターハイ予選も、初戦で暁星高に0-1で敗れた。T1(東京都1部)リーグでも11試合を終えてわずかに2勝と、残留争いに巻き込まれている。だからこそ、この最後の選手権で周囲を見返したいという強い想いを、チームで共有し続けてきた。

「もう毎回が決勝戦だと思ってやっていますし、本当に1個1個勝つだけだという気持ちでやっているので、それだけですね。この子たちは1回戦から勝てるかわからない不安もあったと思いますし、2回戦もインターハイで負けている暁星とやって、そこも勝てるかわからない恐怖心と戦って。とにかく今年のチームは勝ってきていなくて、勝つことをなかなか知れずにここまで来ているので、そういうところからこういう勝ち方ができて、今日は嬉しかったんじゃないかなって思います」(亀田監督)。

 駒澤大高と言えば、今までも圧倒的な人数と声量の応援で、劣勢を予想された試合も相手を飲み込んで勝ってきた歴史がある。この日のスタンドに赤い声援はなかったが、選手たちに気持ちはしっかり届いていたようだ。古田が力を込めて、こう語る。「みんなのおかげで獲れたゴールでしたし、学校でも応援してくださっている方々もいて、親もそうですし、メンバーにギリギリで入れなかった人も、ここに来れていない選手やコーチもいるので、そういう方は画面越しでの応援になったんですけど、みんなの気持ちを背負ってやりました」。

 チームの歴史を知る指揮官は、そっとこう教えてくれた。「今まで4回選手権に行っているうちの、2回はT1で残留争いをしていたチームなので、そういう時のことも少し話をして、『自分たちはできないんじゃないか』というような想いも払拭しながらやれるようにということでやっています」。

「大会が始まる時に、『東京を獲ることを本気で決めよう』と。『自分たちには無理なんじゃないかとか、そういうことは思わずに、そこを決めて戦おう。毎回毎回のゲームを決勝戦の気持ちで1個1個乗り越えていこう』ということでやっているので、1個1個のゲームをしっかり乗り越えて、やっていけたらなと思っています」

 追い込まれてからが、真骨頂。駒澤大高の逆襲はまだまだこれからだ。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2021

TOP