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技巧派集団の一芸名人。國學院久我山FW福山耕平のスピードと執念が土壇場でチームを救う!

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FW福山耕平(20番)は土壇場の同点弾で國學院久我山高を救う

[10.24 選手権東京都予選Aブロック準々決勝 修徳高 1-1 PK2-4 國學院久我山高]

 敗色濃厚だったチームは、終盤の同点弾で何とか息を吹き返す。途中出場のスピードスターの執念が、厚かった相手ゴールを強引にこじ開けた。「技術はそこまで自信はないですけど、スピードだけは誰にも負けたくないなという想いはあります」。

 技巧派集団として知られる國學院久我山高の一芸名人。FW福山耕平(3年=杉並ソシオジュニアユース出身)の磨いてきた武器が、敗退の危機からチームを救い出した。

 修徳高と対峙した準々決勝。なかなかリズムの出てこない展開を強いられた國學院久我山は、後半に入ってリードを許してしまう。それでもチャンスを作り切れない流れの中で、ようやくアップエリアにいた福山にベンチから声が掛かる。

「ここ最近で調子が上がっていたというのもあって、『出場のチャンスがあるかな』とは思っていたので、準備はしていたんですけど、緊張はヒドかったですね。でも、裏の抜け出しもそうなんですけど、なかなかボールが入らないかなと思っていたので、ワイドに開いてどんどん仕掛けていこうかなというのは意識していました」。後半28分。左ウイングの位置に福山は解き放たれる。

 残された時間は5分とアディショナルタイムのみ。苦しくなった國學院久我山に35分、決定的なチャンスが訪れた。キャプテンマークを巻いたDF森次結哉(3年)がフィードを送ると、20番が相手DFラインの背後に落とされたボールへいち早く追い付いてみせる。

「綺麗な形ではなかったんですけど、1回シュートを打ってキーパーに弾かれたところを、もう足で触れる形ではなかったので、無我夢中でヒザで押し込んだみたいな感じですね」。必死に打ったシュートは一旦GKにファインセーブで防がれたものの、そのままこぼれ球に身体ごと突っ込むと、ヒザに当たったボールはゴールネットへ転がり込む。

「もう本当に何も覚えていないくらい、気が付いたら無我夢中で走っていました」。言葉にならない声を上げて、さっきまで一緒にウォーミングアップをしていたチームメイトの輪の中へ、全力で飛び込む。土壇場で生まれた福山のゴールが、スコアを振り出しに引き戻した。

 延長でも双方に得点は記録されず、セミファイナルへの挑戦権はPK戦で争われることに。お互い1人ずつが失敗して迎えた3人目。先攻の國學院久我山は、福山がスポットに向かって歩き出す。「PKは最近何度か練習していたというのもあるんですけど、この間のT1(東京都1部)リーグでも自分でPKを取って、1本決めていたので、そこで自信が付いたというのもありますし、キーパーを見て蹴れるようになったというのもありますね」。

「なんか自分でも驚くぐらいキーパーのことが見えていました」。ゆっくりとした助走から、冷静にGKの動きを見て、その逆側へ丁寧にボールを流し込む。完璧なキックでこの日“2点目”をゲット。2人目以降は全員が成功した國學院久我山に、勝利の女神は微笑む。相手のPKを2本ストップしたGK村田新直(3年)はもちろんだが、福山の貴重な“2点”も大きな勝因だったことは言うまでもない。

 試合が終わって少し経ってから、ようやく勝利の喜びと安堵がこみ上げてきたという。「やっぱり西が丘に行くというのは、久我山としては大前提なのかもしれないですけど、3年生としては大きな意味もありますし、後半で先制されて、全体的に気落ちして、ベンチでも『コレはまずいかな』というのがあったので、本当に勝てて良かったです」。仲間とまだサッカーを続けられる実感も、同時に湧いてきたようだ。

 自分に課されている役割は理解しているし、納得もしている。「自分は周りよりも技術は劣っていると思うんですけど、やっぱりチームは久我山らしいサッカーをしながら、自分が入ったらスピードを生かして、スーパーサブ的な感じでこれからもゴールに絡めたらいいなと思います」。

 一芸に秀でているものは、強い。自らの武器でチームに違いをもたらせるアタッカー。福山の登場は、國學院久我山がアクセルをさらに踏み込む合図に他ならない。

(取材・文 土屋雅史)
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