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焦らず、騒がず、逆転勝利。好チームの早大学院に競り勝って、大成はカナリア軍団との決戦へ挑む

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先制を許した大成高はMF中村浩太(7番)が逆転ゴール!

[10.24 選手権東京都予選Bブロック準々決勝 大成高 2-1 早大学院高]

 1点をリードされて帰ってきたハーフタイム。指揮官は選手たちの表情を見て、逆転への手応えを確信したという。「とりあえず選手たちの顔を見た時に、誰一人焦っていなかったです。だから、『僕も同じ気持ちだよ』と。『ゆっくり、ゆっくり、料理をしていこう』という話をしたので、ゴールは絶対に獲れると思っていました」(大成高・豊島裕介監督)。

 焦らず、騒がず、盤石の逆転勝利。24日、第100回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準々決勝、ここ3年で2度のファイナリストになっている大成高と、近年は常に好チームを作り上げている早大学院高がぶつかった80分間は、前半13分に早大学院がFW松野雄太朗(3年)の得点で先制したものの、後半にFW原輝斗(3年)とMF中村浩太(2年)のゴールで逆転した大成が、セミファイナルへと勝ち上がった。

 最初にゴールネットが揺れたのは、開始早々の前半2分。大成は左CKのこぼれを、キッカーの中村が再び中央へクロス。飛び込んだFW田中ハーディー啓秀(3年)のシュートはゴールへ到達したものの、主審が下したのはオフェンスファウルの判定。先制点は認められない。

 すると、完璧な形から早大学院がスコアを動かす。13分。相手のゴールキックを跳ね返すと、拾ったMF正垣創太(2年)のポストプレーから、MF安達真彦(3年)が繋いだパスをMF丸山隼門(1年)は縦へ。走った正垣の左クロスに飛び込んだ松野のシュートは、懸命に飛びついた大成のGKバーンズ・アントン(3年)もわずかに及ばず。綺麗なサイドアタックから先制点を奪い取る。

 以降も早大学院は右からDF笹木大史(3年)、DF中原健太(3年)、DF日高凌大(2年)で組んだ最終ラインを中心に、堅い守備からシンプルなアタックを徹底。時には右のMF塩田陸都(3年)、左の丸山も引き込んで5バック気味で守りながらも、重心を後ろに置き過ぎない絶妙の守備陣形を構築。ドイスボランチのMF森本大翔(3年)とMF野口直暉(3年)も攻守に奔走し、バランスを保つ。そして、そのイレブンを後押しするのが、凄まじい声量で仲間を鼓舞するベンチメンバー。前半は早大学院が1点をリードして、ハーフタイムへ折り返す。

 ただ、ビハインドを負った大成に焦りはなかった。「失点した時間がまだ早かったので、一瞬焦ったりはしたと思うんですけど、まだまだ行けるという雰囲気でした」(中村)「『失点は気にせずにまずは1点』という感じで、みんなで話し合っていましたし、相手はもう足が止まりかけていたので、『後半から一気に行けば点を獲れるぞ』という声も出ていました」(原)。

 そのメンタルが結果に繋がったのは後半12分。右サイドで獲得したCK。中村が高いボールを中央に蹴り込むと、ゴール前で生まれた混戦の中、冷静に状況を見極めていた10番が輝く。「相手もみんなボールウォッチャーだったので、本当にそこだけ空いていて、打てば入るなと思って、打ちました」。こぼれ球を蹴り込んだ原のシュートがゴールネットへ突き刺さる。1―1。大成が粘り強く追い付いてみせる。

 守護神も躍動する。15分。早大学院は左からキャプテンの笹木がロングスローを投げ込み、野口が残したボールを安達がシュート。DFに当たったボールはゆっくりとゴールへ向かったものの、「身体がサッと動いた感じですね。今日は何もできていなかったので、1つ見せ場を作らないとなと思って一生懸命でした」と振り返るバーンズは右手一本で掻き出す超ファインセーブ。世代屈指の実力を見せ付ける。

 すると、24分に生まれたのは凄まじいゴラッソ。大成も右サイドからDF多和田鳳月(2年)がロングスローを放り込み、キャプテンのMF高山築(3年)が懸命に落としたボールを、中村は右足一閃。自ら「コースは狙い通りなんですけど、完璧に行きすぎました」と口にした軌道は、ゴール左スミへ文字通り吸い込まれる。「決めた瞬間はマジで頭が真っ白になりました」という7番の逆転弾。スコアは引っ繰り返った。

 早大学院も諦めない。28分には原が単騎で抜け出した大成の決定機は、GK彌永素駿(3年)が抜群の出足で間合いを詰めてビッグセーブ。勝利への可能性を繋げば、35分にもMF上村和輝(3年)が迎えた大成のチャンスも、中原が全身を投げ出してブロック。必死に次の1点を目指して、戦い続ける。

 40+5分のラストチャンスは早大学院のFK。左から安達が鋭いボールを蹴り入れるも、飛び出したバーンズが力強くキャッチすると、6分のアディショナルタイムを経過して、吹き鳴らされたタイムアップのホイッスル。「簡単に勝てる試合なんて1試合もないということはずっと春先から言っていて、今日は彼らにとって本当に試練だったと思うんですけど、しっかりと乗り越えてくれましたね」と豊島監督も選手を称えた大成が逆転勝利を収め、2年連続で西が丘へと駒を進めた。

 過去3年の選手権予選では2度の決勝進出を果たし、一昨年はインターハイで念願の全国出場を経験するなど、間違いなく都内における大成の立ち位置は、以前と大きく変化している。「先週も試合が終わった後に『ウチはチャレンジャーなので』と明大さんからも言われたんです」と話した豊島監督は、こう言葉を続ける。

「ただ、僕の中ではそう思われているのはわかるんですけど、全然まだ足りていなくて。僕たちが今ここにいますけど、やっぱりずっと昔からいる帝京さん、関東第一さん、久我山さん、駒澤さん、実践さん、成立さんをはじめとしたチームが、ずっと東京では君臨しているじゃないですか。そのテーブルにはまだ登れていないと思っていて、本当に端っこの方にようやく登れたかもしれないですけど、中央まで行くにはまだまだ足りないですよね」。

 準決勝の相手は帝京高。インターハイ予選では準々決勝で0-2と敗れた相手であり、指揮官にとっては高校時代に選手権で全国準優勝を味わった母校でもある。「母校が強いというのは嬉しいんですけど、東京でこうやって指導者をしている以上、この壁は絶対に超えないといけないと思いますし、自ら『帝京さん、全国に行ってください』という気持ちは持てないですよね」。

「まずは夏のリベンジと、僕らは今年の目標として全国でベスト8というのを掲げていることを考えた時に、相手が帝京とは言っても、僕たちからすれば通過点にしなきゃいけないと思っているので、彼らも帝京とやれることに凄くワクワクしているはずです。この2週間を大事に、7日の日に『大成スゲーな』という声が出るように、とにかく良い準備をみんなでしていきたいと思います」。見上げてきたテーブルの中央へ、少しでも近く。

 11月7日。西が丘。大成と帝京のセミファイナル。激戦必至。

(取材・文 土屋雅史)
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