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“のびしろ”は無限の可能性。市立船橋は習志野にインターハイのリベンジを果たして準決勝へ!

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MF武藤寛(8番)の決勝PKで市立船橋高が準決勝へ!

[10.30 選手権千葉県予選準々決勝 習志野高 0-1 市立船橋高]

 あの時の屈辱を忘れるはずがない。だが、指揮官はあえて焚きつけることはしなかったという。あるいは、する必要がなかったと言い換えられるだろうか。「逆にそれで力が入ってしまってという方が嫌だったので、因縁の相手だというのは選手たちが十分理解していましたし、そこはあえてこちらから刺激を加えるようなことは特にしなかったです」(市立船橋高・波多秀吾監督)。

 内なる炎を燃やして、リベンジ完遂。30日、第100回全国高校サッカー選手権千葉県予選準々決勝は、インターハイ予選準々決勝のリターンマッチ。習志野高市立船橋高の対峙は、後半5分にMF武藤寛(3年)が決勝PKを沈め、市立船橋が1-0で勝利。4か月前の雪辱を果たし、準決勝へと勝ち上がった。

 立ち上がりは明らかに習志野ペース。前半2分に右からDF細井響(3年)が蹴ったCKに、MF佐伯亮太(3年)が合わせたヘディングはゴール左へ外れるも、ファーストシュートを放つと、8分にもDF菅野瑚白(2年)のクリアを拾ったFW西川雪夏(3年)が、単騎でエリア内まで潜って放ったシュートは市立船橋のGKドゥーリー大河(2年)がファインセーブ。14分にも西川が前線からのプレスでボールを奪い、そのままドリブルからフィニッシュ。これは枠を逸れたものの、先制点への意欲を前面に滲ませる。

 ただ、「粘る時間帯が多かったと思うんですけど、そういう試合もプレミアで慣れているので」とFW青垣翔(2年)が話したように、市立船橋は苦しい時間帯を凌いで飲水タイムを挟むと、少しずつ長短のパスを交えて、自分たちの時間を作り出す。25分にはキャプテンのMF平良碧規(3年)が獲得した右FKをFW郡司璃来(1年)が蹴り込み、DF五来凌空(1年)のドンピシャヘッドは習志野のGK萩原智輝(3年)にキャッチされるも、1年生コンビで決定機を創出。さらに38分にはMF荒木廉生(3年)のパスから、CB小笠原広将(3年)が強烈なミドルを枠内へ。ここも萩原がファインセーブで阻止したが、市立船橋がリズムを引き寄せる格好で、スコアレスの前半は終了した。

 ハーフタイムに動いたのは習志野ベンチ。MF大井周悟(3年)とインターハイ予選の対戦時に決勝弾をマークしているFW山本龍之介(2年)を投入し、もう一度アクセルを踏み込むと、後半1分にはMF田代暖眞(2年)のラストパスに、上がってきた左SB飯田蒼也(3年)のシュートはわずかに枠の左へ。いきなりビッグチャンスを作り出す。

 しかし、その流れの中で絶好の先制機を掴んだのは市立船橋。3分。郡司がドリブルで運びながらスルーパスを通す。「最初はライン間で受けてからと思ったんですけど、スピードを持ってドリブルしてきたので、裏に抜けた方が良いなと思って走りました」という青垣がエリア内でGKと接触して倒れると、主審はPKを指示する。

 キッカーは武藤。「習志野にはインターハイで負けていて悔しい想いをしましたし、『その分を取り返してやる』という気持ちで今日の試合に臨んだので、その気持ちをコースというよりは思い切り蹴るという感じに込めて、めいっぱい打ちました」。ど真ん中に蹴り込んだボールが揺らしたゴールネット。5分。均衡が破れた。

 決してリズムは悪くないにもかかわらず、ビハインドを負った習志野。13分にはDF高橋拓也(3年)を最終ラインに送り込み、大型レフティのCB細井を最前線へ上げる勝負の采配に打って出たものの、「試合までにインハイの話をされて、『これだけ悔しいことはないだろう』と波多さんから話を戴いたので、なおさらやる気が上がりましたし、相手よりも気持ちは強かったと思います」と話したDF針谷奎人(3年)と小笠原のセンターバックコンビを中心に、市立船橋守備陣の堅陣は揺るがない。

 34分。習志野にFKのチャンス。左から細井が蹴ったキックに、宙を舞った佐伯がヘディングで叩くも、軌道はゴール左へ外れると、これがこの試合のラストシュート。「今まではああやって押し込まれたりすると、少し隙があったり、動揺が見られたりというところがあったんですけど、そこで集中力を保って、最後はゼロで抑えられたというのは、凄く成長できたんじゃないかなと思います」と波多監督も話した市立船橋が力強くウノゼロ勝利。インターハイ予選のリベンジに成功し、セミファイナルへと駒を進めた。

「結果をとにかく求めて、『結果にこだわってやろう』ということで、内容的には難しくなるということは予想できていたので、とにかくどんな形でも1点獲って、次のステージに進もうという話をしました」と波多監督。結果にこだわる姿勢は、苦しい今シーズンを戦っていく中で、よりチーム全体が意識してきた部分だ。

 プレミアリーグでは青森山田高に0-9で大敗し、ここまで12試合を消化してわずかに1勝。前述したようにインターハイ予選では習志野の前にまさかの準々決勝敗退。夏まではとにかく結果が出なかった。だが、市立船橋がそれで終わっていいチームであるはずがない。

「やっぱり山田に負けて、インターハイに負けて、ものすごくチームが悪い方向に向かってしまっていて、プレミアもなかなか勝てずにというのが続いていた中で、波多さんに『悪い意味で歴史が変わってしまうぞ』と言われて、そこで本当にキャプテンの平良を中心に気付き始めて、みんなの意識が変わったり、サッカーのやり方も変えたりしたことによって、徐々に勝ちが積み重なってきたので、まずは本当に気持ちの面が一番変わったなと思います」とは針谷。選手とスタッフが一体になって、何かを変えようとともにもがいてきたことで、彼らが思い描く“完璧”にはまだ遠いかもしれないが、“完璧”ではないなりに結果を出す術は少しずつ身に付き始めている。

 指揮官が残した言葉が印象深い。「まだまだ“のびしろ”のあるチームだと思っているので、球際とか、切り替えとか、運動量とか、これまで以上に積み上げながらも、今日の勝ちを経験したことで、さらに1つ1つレベルアップしていけるのではないかなという期待を持っています」。

 苦しい時間を過ごし、ある意味でピッチの中でも、ピッチの外でも変化を余儀なくされたことで、未完成という“のびしろ”を手に入れた市立船橋。その余白にどんな色が描き込まれていくのか。それを一番楽しみにしているのが、彼ら自身であることは言うまでもない。

(取材・文 土屋雅史)

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