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伝統の“5番”を背負う市立船橋DF針谷奎人は「石田さんのようなプレーを見せたい」

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市立船橋高伝統の5番を背負うDF針谷奎人

[10.30 選手権千葉県予選準々決勝 習志野高 0-1 市立船橋高]

 伝統の5番を背負うことは、誇りであり、重責でもある。ただ、それは同時に、この番号を引き継ぐことを許された者だけが感じることのできる特権だ。「重いですよ。でも、ある意味『楽しむ』という感情になりました。本当に市船の伝統は5番なので、もちろん重圧も凄いプレッシャーもあるんですけど、それを跳ねのけて来たのが去年の石田(侑資)さんだったので、いろいろなアドバイスを聞きながらやっていきたいと思います」。

 市立船橋高のディフェンスリーダーが付ける背番号5を、2021年度に託された男。DF針谷奎人(3年=アーセナルSS市川出身)は覚悟を持って、積み重ねられた歴史と向き合っている。

 今シーズンはケガからのスタートだった。2月の練習試合で右ひざの前十字靭帯を損傷。戦線離脱を余儀なくされる。プレミアリーグの開幕には間に合わず、リハビリを繰り返す日々。その最中には青森山田高(青森)に0-9という、衝撃的なスコアで大敗した試合があった。「本当は焦っちゃダメなんですけど、『もう焦らなきゃ』という気持ちで、本当にリハビリを死ぬ気でやりましたね」。結果として身体の強化は図れたものの、歯がゆい想いで序盤戦を過ごしてきた。

 針谷が復帰しても、すぐにチームの結果が出たわけではない。リーグ戦でも思うように勝ち点を伸ばせず、迎えたインターハイ予選では習志野高に0-1で敗れ、準々決勝で敗退してしまう。「あの試合は復帰明けで出ていました。悔しさより、『なぜ負けたんだろう?』って。市船なんて決勝に絶対出ないといけないチームですし、本当にビックリしたというのが一番強かったです」。針谷がチームメイトの想いを代弁する。

 それだけにリターンマッチとなる、この日の習志野戦には並々ならぬ気合が入っていた。「試合までにインハイの話をされて、『これだけ悔しいことはないだろう』と波多さんから話を戴いたので、なおさらやる気が上がりましたし、相手よりも気持ちは強かったと思います。自分はやる気がメチャメチャ出ましたね」。立ち上がりこそやや押し込まれる時間帯も作られながら、そこを凌ぐと後半開始早々にPKで先制点を奪う。

 堅い。とにかく堅い。針谷とDF小笠原広将(3年)で組むセンターバックが、最後の局面ではことごとく相手の攻撃を弾き返す。「何より頼りになるのはディフェンスラインを統率できることで、全員を統率できる部分は尊敬しています。小笠原とは凄くコンビネーションがいいので、本当に組む相手が小笠原で良かったなと思います」。全幅の信頼を置くパートナーと飾った無失点勝利。インターハイ予選のリベンジをきっちり果たし、3年連続となる全国大会まではあと2勝となった。

 前述したように、下級生の頃から公式戦の出場機会を得てきた針谷は、昨年の5番を背負っていた石田侑資(現・ガイナーレ鳥取)に多くのことを学んできた。とりわけ参考にしているのはメンタル面だという。「自分は本当にメンタルが弱くて、走りの練習でも一番後ろになってしまうので(笑)、本当にメンタルという部分が一番学んだことでした。今回も『今日の習志野戦頑張れ!』と連絡が来て、『もちろん頑張ります!』って返しました」。先輩の“檄”もこの日の勝利に少なからず影響があったようだ。

 やはり針谷の復帰前と復帰後では、守備の安定感も確実に変化したように感じる。まるで一本の軸がチームの中央に通ったかのように。「以前は本当にチームが下を向いていたので、自分が復帰して、もっともっと盛り上げていったことで、逆にチームの雰囲気が上がったんじゃないかなと思っています」と本人も口にしつつ、残された2試合への強い意欲も隠さない。

「自分が“スカした”ようなプレーをしてしまうと、チームもそうなってしまうと思うので、スカすことなく、去年の石田さんみたいなプレーを見せたいなと考えています。来週に向けてしっかり照準を合わせて、さらに決勝で県優勝するために、もっともっと盛り上げていきたいですし、しっかりやっていかなきゃいけないなと思います」。

 苦しんだチームとともに、ピッチ内外で一歩ずつ成長してきたセンターバック。伝統の5番が、針谷の背中にしっかりと馴染みつつある。

(取材・文 土屋雅史)

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