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62歳と60歳の名将対決は“年下”の指揮官に軍配。“相手の怖さ”を知った西武台が延長の劇的決勝弾で11年ぶりの全国へ!

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西武台高は劇的に延長戦を制して11年ぶりの全国へ!

[11.14 選手権埼玉県予選決勝 浦和南高 0-1(延長) 西武台高]

 試合後。取材エリアで報道陣の囲み取材に応えている西武台高の守屋保監督に、浦和南高の野崎正治監督が近付き、激励の声を掛ける。還暦を超えた1学年違いの名将同士の想いが、ほんの少しだけ交錯する。

 守屋監督の言葉が印象深い。「野崎先生が学年で1つ上ですので、この試合が始まる前に『昭和の時代のサッカーはこれが最後になるといいですね』ということをちょっと伝えたんですけど、僕らは昭和の時代を高校サッカーをしながら100回に向けて歩いてきたので、『良い試合ができればな』という想いをこめて、そういうことを話しました」。

 時代を超えた意地の激突は、“年下”の指揮官に軍配。14日、第100回全国高校サッカー選手権埼玉県予選決勝、3年ぶりの戴冠を狙う浦和南と、11年ぶりの全国出場を目指す西武台の埼玉ファイナルは、延長後半7分にDF安木颯汰(3年)が決勝ゴールを挙げた西武台が劇的勝利。堂々の埼玉制覇を成し遂げている。

 浦和南は潔く割り切っていた。「西武台の長所でもあるカウンターとセットプレーを消すようにしっかり分析してきました」と話したのはキャプテンのDF坪井優太(3年)。前にはそこまで人数を掛けず、長いボールからのセカンド回収に活路を見出す。ただ、それでも先に迎えた決定機は前半14分。左からMF宇山友貴(3年)の蹴ったCKに、ニアでMF坂本空翔(3年)が合わせたヘディングはクロスバーにヒット。あわやというシーンを作り出す。

 西武台もきっちり割り切っていた。「相手にコーナーキックとスローインをどうしても与えたくなかったので、前半は4-3-1-2でトリプルボランチにして、蹴ってこられたセカンドボールを3人で拾うと。前半は単調な試合になってもしょうがないだろうなと割り切りました」と守屋監督。中盤にMF丸山実紀(3年)、MF岡田瑞紀(3年)、MF山本匠馬(3年)の3枚を並べ、こちらもセカンド回収を意識の最上位に。38分にはMF和田力也(2年)のロングスローから、DF河合陸玖(2年)が枠へ収めたシュートは浦和南のGK黒田海渡(3年)がファインセーブで回避する。

 40+1分は浦和南が意外なセットプレー。右サイド、ゴールまで約45メートルの位置で得たFK。誰もが中央へ放り込むと思った矢先に、CB戸部悠太(3年)は無回転キックを直接枠内へ。ぐんぐん伸びたボールは西武台のGK淺沼李空(3年)が何とか弾き出すも、どよめくスタンド。浦和南もしっかり脅威を見せ付けながら、前半はスコアレスで折り返す。

 後半も基本構図は変わらない。攻める西武台。守る浦和南。「前半は重すぎちゃったなというのはあります。後半になったら自分たちの怖さも見せようと、そういう試合に今度は持っていく方向で、『積極的に仕掛けて行け」と話しました」と守屋監督も言及した西武台は、5分に和田が粘り、FW市川遥人(3年)のクロスからFW細田優陽(3年)がヘディングを枠へ飛ばすも、黒田がキャッチ。16分にも途中出場のFW松原海斗(3年)が単騎で運び、持ち込んだシュートは浦和南の左SB安田航大(3年)が間一髪でブロック。ピンチを凌ぐ。

 40+3分には西武台に絶好の先制機。左サイドで安木のリターンを受けた細田がエリア内へ潜り、そのままシュート。しかし、ここも黒田がファインセーブで仁王立ち。失点を許さない。「“ゼロゼロPK”狙いでもと言っていたんですけど、そこまでは完璧な流れでした」(坪井)。0-0。全国切符の行方は延長戦へ委ねられた。

 浦和南は粘る。「メンバーに入れなかった人や1、2年生も応援してくれて、その人たちに勝利を届けたかった」と坪井。エリア内で身体を張り、最後の局面ではシュートを打たせない。時計の針は着々と進み、PK戦での決着が色濃くなってきた延長後半7分。「自分のところからアシストやゴールは狙いたいなと思っていました」という黄色の左サイドバックが、魅せる。

 右サイドでキャプテンのDF原田蓮斗(3年)がスローインを入れると、走った丸山が正確なクロス。「上がってきたら飛び込む位置には毎回走り込んではいるので、自分は押し込むだけでした」と振り返る安木がヘディングで叩き付けたボールは、左スミのゴールネットへ弾み込む。「アレは安木の負けたくないという日頃からの気持ちだとか、嗅覚というんですかね。彼の勝手な嗅覚だと思うんですけど(笑)、こういう試合になると破天荒なことも重要だと思うので、それはそれで彼の持ち味じゃないかなと思います」と指揮官も笑顔を浮かべた“破天荒“な左サイドバックの決勝弾。西武台が劇的に延長を制して、11年ぶりの全国出場権を勝ち獲った。

 浦和南との決戦を前に、守屋監督は“怖さ”の大事さを選手たちに説いたという。「ある程度これだけ長い時間戦ってきているので、私は野崎先生の“怖さ”を知っていると。その怖さを子供たちにもしっかり伝えるべきだということを、今回試合が決まった時に非常に考えました。たとえば『海をヨットで世界一周しようとした時に、波の怖さだとか、ハリケーンの怖さを知らないと、やっぱり一周はできないよね』と。『山を登る時に、がけ崩れの怖さだとか、いろいろな怖さを知らない限り、御することができない』と。そこで今回は徹底的に、相手の怖さを知って戦おうとしたんです」。

「インターハイ予選の時に、『浦和東に勝てるだろう』という気持ちもあって、去年の選手権予選の準決勝も『武蔵越生には負けないだろう』と思って、この2つの負けが自分たちの中にあったので、『しっかり怖さを認めよう』と。どのチームに対しても、そこはしっかりリスペクトして、その怖さを自分たちで自由に扱える、高波も自由に扱える、がけ崩れもある程度自分たちで予測して、しっかりと対応できるようにしていこうというのが今日の試合で、PK戦まで僕らは想定しました。自分の横ではPK戦のメンバーまで揃えて準備をして、キーパーも代えるつもりでいましたので、今回はそこまで準備はしたつもりで、『それで負けるんだったらしょうがないだろう』と腹を括った決勝だったということですね」。

「守屋先生がああいう言葉を掛けてくれたことで、『ああ、やっぱりチャレンジャーの気持ちで行かないといけないな』と思いました」。そう語ったキャプテンの原田には、さらに響いた言葉があった。「守屋先生が今日の試合前のミーティングの最後に『負けて泣いてくるなよ』と言葉を残したんです。それで『あ、これはヤベーな』と引き締まりましたね。カッコ良かったです」。お父さんのようだと慕われている指揮官のメッセージは、子供のような年齢の選手たちを確かに奮い立たせていたようだ。

「僕は大山(照人)先生、松本暁司先生、野崎先生、こういった昭和時代の方々とサッカーで争ってきました。自分も35、6歳ぐらいの頃にはどこも怖くなかったんです。でも、怖さを知らないから簡単に負けるんですよ。敵の怖さを知ることって大事なんです。怖い人がいると超えたいと思うんですよね。怖さを知っているから、この人より成長してやろうと。野崎先生が怖いから、野崎先生を超えてやろうとか、目標ができますよね。怖さを持っていかないと、良い意味でその目標を超えられないんだろうなと思います」(守屋監督)。

 経験豊富な温かみのある“昭和時代”の監督に率いられた、元気でエネルギッシュな“令和時代”の選手たち。世代を軽やかに超えた一体感を纏う、明るくポジティブな西武台が、100回目となる全国の舞台に帰ってくる。

(取材・文 土屋雅史)

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