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一体感を纏った赤き名門の奮戦。たゆまぬ努力を積み重ねてきた浦和南は堂々の準優勝

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宇山もマネージャーも笑顔。浦和南高が纏うチームの一体感は際立っていた

[11.14 選手権埼玉県予選決勝 浦和南高 0-1(延長) 西武台高]

 緊迫した展開の延長前半。負傷した選手の治療で試合が止まったタイミングで、MF宇山友貴(3年)が出血を止めようと、急いでピッチサイドに駆け寄ってくる。その動きを察知した3年生マネージャーが素早くティッシュを手渡したが、宇山はうまく受け取れない。明るく笑うマネージャーにつられて、思わず宇山も表情を崩す。

 時間にして10秒前後だったが、このシーンに浦和南高のチームが纏う雰囲気が凝縮されていたような気がした。

 試合前もそうだった。浦和南のベンチサイドのゴール裏。ジャージ姿の選手たちが集まって、何かを始めようとしていた。ど真ん中に張られている『赤き血のイレブン』という大きな横断幕の両サイドに、1枚ずつ新たな白い横断幕が加えられていく。よく見れば、それはこの日のメンバー1人1人の名前とキャッチフレーズが書かれたもの。楽しそうに、手際よく、短時間で完成させた“選手紹介”の一番左には、3人の3年生マネージャーの横断幕もしっかり陣取っていた。



 戦い方も徹底されていた。粘り強く守り、少ない手数でゴールを狙う。前半14分には宇山の左CKから、MF坂本空翔(3年)のヘディングがクロスバーを叩けば、40+1分にはDF戸部悠太(3年)が45メートル近い無回転FKを枠へ飛ばし、あわやというシーンを創出する。

 ディフェンス陣も手堅く守る。右からDF安田航大(3年)、戸部、キャプテンのDF坪井優太(3年)、DF井上喬介(3年)と3年生が並んだ4バックを中心に相手のアタックに食らいつき、最後はGK黒田海渡(3年)がゴールの前に立ちはだかる。MF小川赳生(3年)とMF奥村青葉(3年)のドイスボランチは、セカンドボールの回収に奔走する。

 両サイドハーフの宇山と坂本もプレスバックを怠らず、前線で構えるMF大里直也(3年)とFW立沢太郎(2年)も、相手に生まれる一瞬の隙を見逃さないように集中力を高める。「内容的に押されるのはわかっていたので、シナリオ通りに進んでいましたけどね」とは野崎正治監督。押し込まれる展開に、焦りも、迷いも、なかった。
 
 試合は0-0のまま、延長戦に突入。ベンチに戻ってきた選手の足を、控えの選手たちが丁寧にマッサージする。マネージャーはそれぞれの仕事をこなし、野崎監督を筆頭としたスタッフ陣は集まって延長への策を講じる。1人1人が今できることに向き合い、役割をまっとうしていく。全員で作った円陣から、力強い声が響く。気合と笑顔を伴って、11人の選手たちはピッチへと戻っていった。

「あそこまでは完璧な流れだったので、あと少し耐えたかったです」。坪井は涙を浮かべながら、そのシーンを振り返った。延長後半7分。クロスからのヘディングで先制点を奪われる。

 最後のロングスローにはGKの黒田も相手ゴール前まで上がっていったが、残された時間で追い付くまでには至らず。「サイドのスペースを与えないというところでしたけど、最後はそこを剥がされて見事なクロスからヘディングという形でやられましたから、西武台さんの力を称えたいですね」。野崎監督は潔く、相手を称えた。

『赤き血のイレブン』で知られる全国制覇3度の名門。県内にもファンは少なくない。今回の選手権は100回の記念大会。もちろん選手たちは、先達たちが築き上げた伝統も歴史も、周囲からの大きな期待も、十分に理解している。ただ、何よりもこの仲間とサッカーを続けたい。その想いがこの日のピッチに立つ赤きイレブンからは、立ち上っていた。

「勝ちたかったなというのが一番です……。メンバーに入れなかった人や1、2年生も応援してくれて、その人たちに勝利を届けたかったです……」。キャプテンの坪井は声を振り絞る。苦しい時間はベンチの仲間を、スタンドの仲間を見た。それだけで力が湧いてきた。だからこそ、勝ちたかった。

 銀色のメダルを掛けて臨んだ、準優勝の集合写真。もちろん選手たちに笑顔はない。ただ、涙もなかった。30人の選手と3人のマネージャーは、しっかりと前を見据えてフレームに収まる。左胸に一文字、“南”と縫われた伝統の赤いユニフォームが、緑の芝生によく映えた。

 西武台の守屋保監督が紡いだ言葉が印象深い。「選手を努力させるというのは、指導者としては大変なんですよ。そんな簡単にどんな子も同じ方向を向くということはないんです。でも、この選手権に向けてしっかりとチームを作ってきて、やっぱり決勝まで上がってくるという野崎先生の指導力は本当に長けているなと思います」

「限られた選手の中で、どれだけ子供たちと向き合って、一緒になって、やっているのかなと。だから、簡単には崩れないですよね。土台を本当に1つずつ1つずつ積み上げてきていますから。努力する、それでもレギュラーになれない、でも、頑張るという選手がいることで地盤が固まってきますよね。そういう面でも自分は学びたいという所が大きいです」。

 全員でたゆまぬ努力を積み重ねてきた“若き血のイレブン”に、最大限の拍手を。



(取材・文 土屋雅史)

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