「即時奪回」の西原が勝ちたい思いと粘り強さで宜野湾上回り、31年ぶりの全国へ!:沖縄
[11.13 選手権沖縄県予選決勝 西原高 2-0 宜野湾高 黄金森公園陸上競技場]
第100回大会を迎える全国高校サッカー選手権の沖縄県予選は13日、黄金森公園陸上競技場で決勝戦が行われ、西原高が2-0で宜野湾高に勝ち、31年ぶり4回目の栄冠に輝いた。
両者の決勝までの勝ち上がりを振り返ると、西原は初戦となる2回戦・八重山高戦で13-0で快勝し、続く宮古高戦も7-3とゴールを量産。準々決勝では新人戦、インターハイと合わせて県三冠を狙った那覇高を相手に4-1で勝利した。そして準決勝は浦添高を6-2で退け、4試合で総得点30を奪った。敵陣からの人数をかけた積極プレスでボールを奪いきってショートカウンターを仕掛ける「即時奪回」で走るサッカーを強調するチームである。
対する宜野湾は、2回戦の名護商工高戦を20-0で初陣勝利。JFA公認S級コーチライセンスを持つ石川研監督が指揮するKBC学園未来高沖縄との一戦では1-0で僅差をモノにした。準々決勝の興南高戦は2点を先制するも追いつかれて延長戦までもつれるなか、4-3で振り切り辛勝。この経験を糧にして臨んだ準決勝は、昨年大会覇者・那覇西高を相手に驚愕の4-0のワンサイドゲームを演じ切った。選手全員が複数のポジションでプレーできるほどのテクニックと戦術眼を持ち、プレー中は選手の判断で頻繁に立ち位置を変えながら相手に的を絞らせず、自らで生み出したスペースを利用して攻める「ポジショナルプレー」で見ている者を魅了するサッカーを演じてきた。
西原・玉城真哉監督と宜野湾・平田敦志監督はともに2017年から指揮している。5年目を迎えチームが成熟した頃合いでの直接対決は、小雨が舞うなか14時にキックオフされた。
序盤から敵陣でのサイド付近から相手を挟み込む西原がボールを奪えば、宜野湾は空いたスペースに潜り込む。互いにその瞬間が訪れた時、チーム全体の推進力が一気に上がるという明確な姿勢が見られるなか、「俺が決めるんだという気持ちを見せろ」と玉城監督の檄にアタッキングサードへの侵入回数を増やす西原が15分に好機演出。準決勝の浦添戦で右膝前十字断裂の大怪我を負った八幡華修(3年)の思いも背負って右SHに立った呉屋彰乙(3年)が深い位置までドリブルで運びクロス。GKがかすめたボールをMF山田涼太(3年)がゴール前でヘディングシュートを放つがクロスバーを超え、先制とはならなかった。
しかし、気を緩めることなく攻め続ける西原は19分に再び決定機。宜野湾の最終ラインからの縦パスをDF重田統哉(3年)が敵陣中央でカットすると、相手のチャージをものともせず、ドリブル突破し、PA手前左からミドルシュート。ボールはゴール右隅のネットを揺さぶり、試合を動かした。
追う立場となった宜野湾は、スタイルを変えずに相手を引きつけながら空いたスペースを狙う姿勢。加えて自陣で左右へボールを流し、前から来る相手の体力の消耗も図った。それでも足を止めない西原はプレスバックで相手の自由を奪い、そして空いたスペースに対しても出足鋭くカバーし、宜野湾の思い通りにはさせない。
拮抗状態が続くなか38分、西原が再び牙をむく。自陣でパス交換する宜野湾からDF登録の左SH比嘉亮介(3年)がボール奪い、カットインから対角線上にミドルシュート。左ポスト直撃も跳ね返ったボールはそのままゴールへ吸い込まれ、2点差をつけて折り返す。
「ボールを持ったらもっとテンポを上げて、平良を中心に動き出すんだ」とハーフタイムに発破をかけたのは宜野湾の平田監督。指揮官が表現する「フロントボランチ」を担う平良隼(3年)がインサイドハーフ、トップ下、さらにCBの間に立ちビルドアップの起点となってゲームメイクを図り、前向きさを失わないようにと鼓舞した。すると徐々に100m11秒台の俊足FW黒木晴也(2年)が右サイドの深いところまで進入し「元GK」の感覚を生かして相手の嫌がるコースへ再三クロスを供給した。しかし、西原GK仲村太希(3年)も負けじと冷静に対応しゴールに鍵をかけた。
前半から走り続けた西原は、運動量とプレス強度の低下が目立つようになりセカンドボールが拾えず、自陣で我慢強く守るシーンが目立つようになる。対して宜野湾は、練習を重ねてきたセットプレーからゴールをもぎ取ろうと終始敵陣に圧力をかけ続け、ハイプレスからボールの奪いどころを限定し、攻撃姿勢を強めていった。そして、足がつったDF仲間愛静(3年)に代わって同じポジションに立った仲間翼(3年)が平良からキャプテンマークを引き継ぎ、大声で味方の背中を押した。
ロングスローから稲嶺がシュートを放てば、GKと一対一の場面を作った黒木、さらには相手のクリアボールを拾ったMF西表重就(3年)がそれぞれエリア内で決定機を作るなどじわじわとゴールに迫る宜野湾。対して気力を振り絞り、スーパーサブのFW池原青海(3年)を投入してロングカウンターを狙う西原という構図が鮮明となっていくなか、時計の針は80分。そして、アディショナルタイム3分内にも黒木が抜け出しチャンスを迎えた宜野湾だったが再三好セーブを見せる仲村の威圧にゴールを奪えず、熱戦の終演を告げる笛が響き渡った。
試合後、小さくガッツポーズを見せた玉城監督は「全国は人生観が変わる場所。選手たちにその舞台を踏ませてあげたい」と常々話していた。かつて南風原高で1回と那覇西で4度の選手権出場に導いた名将にとっても5大会ぶりのとなる選手権出場は、第100回大会という節目において至上命題であった。「本当に折れずに頑張った。勝ちたいという思いと粘り強く戦ったことが結果につながった」と、玉城監督は昨年は2年生主体で臨んだ選手権予選決勝で那覇西に敗れた悔しさを晴らした選手たちの健闘を称え、積み上げてきたチーム力を実感する。
全国への出場を強く望みながらも、夢絶たれた選手が西原には数多く存在する。J2琉球に所属するFW上原慎也もそのひとりで、悲願達成を果たした後輩たちに「凄いことをしてくれたと思いますし、沖縄のチームが全国の舞台で戦う機会がそう多くないなかでチャレンジ心を燃やして戦ってほしい」とエールを送る。そして主将として先輩の思いを背負ってきたDF玉城俊輔(3年)は「悔し涙を流す先輩たちの姿を見てきたなかで自分たちの代で目標が叶ったことは嬉しく思いますし、歴史に残る100回大会の出場校として恥じないよう頑張ります」と宣言した。31年ぶりに立つ檜舞台。西原は臆すること無く胸を張ってピッチを駆ける。
(取材・文 仲本兼進)
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第100回大会を迎える全国高校サッカー選手権の沖縄県予選は13日、黄金森公園陸上競技場で決勝戦が行われ、西原高が2-0で宜野湾高に勝ち、31年ぶり4回目の栄冠に輝いた。
両者の決勝までの勝ち上がりを振り返ると、西原は初戦となる2回戦・八重山高戦で13-0で快勝し、続く宮古高戦も7-3とゴールを量産。準々決勝では新人戦、インターハイと合わせて県三冠を狙った那覇高を相手に4-1で勝利した。そして準決勝は浦添高を6-2で退け、4試合で総得点30を奪った。敵陣からの人数をかけた積極プレスでボールを奪いきってショートカウンターを仕掛ける「即時奪回」で走るサッカーを強調するチームである。
対する宜野湾は、2回戦の名護商工高戦を20-0で初陣勝利。JFA公認S級コーチライセンスを持つ石川研監督が指揮するKBC学園未来高沖縄との一戦では1-0で僅差をモノにした。準々決勝の興南高戦は2点を先制するも追いつかれて延長戦までもつれるなか、4-3で振り切り辛勝。この経験を糧にして臨んだ準決勝は、昨年大会覇者・那覇西高を相手に驚愕の4-0のワンサイドゲームを演じ切った。選手全員が複数のポジションでプレーできるほどのテクニックと戦術眼を持ち、プレー中は選手の判断で頻繁に立ち位置を変えながら相手に的を絞らせず、自らで生み出したスペースを利用して攻める「ポジショナルプレー」で見ている者を魅了するサッカーを演じてきた。
西原・玉城真哉監督と宜野湾・平田敦志監督はともに2017年から指揮している。5年目を迎えチームが成熟した頃合いでの直接対決は、小雨が舞うなか14時にキックオフされた。
序盤から敵陣でのサイド付近から相手を挟み込む西原がボールを奪えば、宜野湾は空いたスペースに潜り込む。互いにその瞬間が訪れた時、チーム全体の推進力が一気に上がるという明確な姿勢が見られるなか、「俺が決めるんだという気持ちを見せろ」と玉城監督の檄にアタッキングサードへの侵入回数を増やす西原が15分に好機演出。準決勝の浦添戦で右膝前十字断裂の大怪我を負った八幡華修(3年)の思いも背負って右SHに立った呉屋彰乙(3年)が深い位置までドリブルで運びクロス。GKがかすめたボールをMF山田涼太(3年)がゴール前でヘディングシュートを放つがクロスバーを超え、先制とはならなかった。
しかし、気を緩めることなく攻め続ける西原は19分に再び決定機。宜野湾の最終ラインからの縦パスをDF重田統哉(3年)が敵陣中央でカットすると、相手のチャージをものともせず、ドリブル突破し、PA手前左からミドルシュート。ボールはゴール右隅のネットを揺さぶり、試合を動かした。
追う立場となった宜野湾は、スタイルを変えずに相手を引きつけながら空いたスペースを狙う姿勢。加えて自陣で左右へボールを流し、前から来る相手の体力の消耗も図った。それでも足を止めない西原はプレスバックで相手の自由を奪い、そして空いたスペースに対しても出足鋭くカバーし、宜野湾の思い通りにはさせない。
拮抗状態が続くなか38分、西原が再び牙をむく。自陣でパス交換する宜野湾からDF登録の左SH比嘉亮介(3年)がボール奪い、カットインから対角線上にミドルシュート。左ポスト直撃も跳ね返ったボールはそのままゴールへ吸い込まれ、2点差をつけて折り返す。
「ボールを持ったらもっとテンポを上げて、平良を中心に動き出すんだ」とハーフタイムに発破をかけたのは宜野湾の平田監督。指揮官が表現する「フロントボランチ」を担う平良隼(3年)がインサイドハーフ、トップ下、さらにCBの間に立ちビルドアップの起点となってゲームメイクを図り、前向きさを失わないようにと鼓舞した。すると徐々に100m11秒台の俊足FW黒木晴也(2年)が右サイドの深いところまで進入し「元GK」の感覚を生かして相手の嫌がるコースへ再三クロスを供給した。しかし、西原GK仲村太希(3年)も負けじと冷静に対応しゴールに鍵をかけた。
前半から走り続けた西原は、運動量とプレス強度の低下が目立つようになりセカンドボールが拾えず、自陣で我慢強く守るシーンが目立つようになる。対して宜野湾は、練習を重ねてきたセットプレーからゴールをもぎ取ろうと終始敵陣に圧力をかけ続け、ハイプレスからボールの奪いどころを限定し、攻撃姿勢を強めていった。そして、足がつったDF仲間愛静(3年)に代わって同じポジションに立った仲間翼(3年)が平良からキャプテンマークを引き継ぎ、大声で味方の背中を押した。
ロングスローから稲嶺がシュートを放てば、GKと一対一の場面を作った黒木、さらには相手のクリアボールを拾ったMF西表重就(3年)がそれぞれエリア内で決定機を作るなどじわじわとゴールに迫る宜野湾。対して気力を振り絞り、スーパーサブのFW池原青海(3年)を投入してロングカウンターを狙う西原という構図が鮮明となっていくなか、時計の針は80分。そして、アディショナルタイム3分内にも黒木が抜け出しチャンスを迎えた宜野湾だったが再三好セーブを見せる仲村の威圧にゴールを奪えず、熱戦の終演を告げる笛が響き渡った。
試合後、小さくガッツポーズを見せた玉城監督は「全国は人生観が変わる場所。選手たちにその舞台を踏ませてあげたい」と常々話していた。かつて南風原高で1回と那覇西で4度の選手権出場に導いた名将にとっても5大会ぶりのとなる選手権出場は、第100回大会という節目において至上命題であった。「本当に折れずに頑張った。勝ちたいという思いと粘り強く戦ったことが結果につながった」と、玉城監督は昨年は2年生主体で臨んだ選手権予選決勝で那覇西に敗れた悔しさを晴らした選手たちの健闘を称え、積み上げてきたチーム力を実感する。
全国への出場を強く望みながらも、夢絶たれた選手が西原には数多く存在する。J2琉球に所属するFW上原慎也もそのひとりで、悲願達成を果たした後輩たちに「凄いことをしてくれたと思いますし、沖縄のチームが全国の舞台で戦う機会がそう多くないなかでチャレンジ心を燃やして戦ってほしい」とエールを送る。そして主将として先輩の思いを背負ってきたDF玉城俊輔(3年)は「悔し涙を流す先輩たちの姿を見てきたなかで自分たちの代で目標が叶ったことは嬉しく思いますし、歴史に残る100回大会の出場校として恥じないよう頑張ります」と宣言した。31年ぶりに立つ檜舞台。西原は臆すること無く胸を張ってピッチを駆ける。
(取材・文 仲本兼進)
●【特設】高校選手権2021
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