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サッカーを楽しむ笑顔のドリブラー。前橋育英MF笠柳翼は全国の猛者を磨いた武器で切り裂いていく

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前橋育英高の10番を背負うMF笠柳翼

[11.23 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 1-0 桐生一高]

 サッカーを楽しむ心は、笑顔に現れる。ボールと会話をするようなプレーが、見る者の心を沸き立たせる。「もともとひたすらサッカーが好きでやっていたので、ドリブルは自分で生まれたスタイルかなと思います。個人としても代表やプロを経験させてもらった中で、余裕というわけではないんですけど、そこで楽しめているところがあって、自分が笑うことによってチームメイトもホッとするところがあると思うので、そういう効果も狙っています」。

 前橋育英高のナンバー10。MF笠柳翼(3年=横浜FCジュニアユース出身)は笑顔とともに、自身にとって初めてとなる冬の全国へ飛び出していく。

 厳しい試合になることは、わかっていた。桐生一高と対峙する群馬ファイナル。決して思うような流れではない中でも、笠柳はいい意味で割り切っていた。「前半はサイドで1対1で仕掛けるというのをチームとして決めていたんですけど、なかなかそういう場面まで行けなくて、我慢もありましたね。特に今回は延長も考えていたので、どうせパスが来ないなら、ちょっと“サポる”と言ったら言い方はおかしいですけど、後半勝負だなと思っていました」。一瞬で仕事をする自信はある。鋭い刃を懐に忍ばせ、その時を虎視眈々と狙い続ける。

 タイミングは来た。後半13分。「ボールが(徳永)涼から斜めに入ってきたんですけど、最初から仕掛けるというのは決めていました。仕掛けながら練太郎がうまくラインで動いていたので、あとは丁寧にインサイドでしっかり転がすというのを意識して、ワンタッチで決められるようなボールを出せたと思います」。完璧なスルーパスを通すと、FW守屋練太郎(3年)のシュートがゴールを貫く。

「自分がボールを持った時に、相手も『待ち構えているな』と思ったので、あそこでもう1つ“引き出し”があったのは良かったと思います。ちょっと練太郎にすべてを持っていかれた感はあるんですけど(笑)」。ドリブルが最大の武器ではあるものの、実はスルーパスの精度も相当高い。“引き出し”から取り出した第二の刃も、強烈に研ぎ澄まされていた。

 実は前日を過ごした宿舎での守屋の様子に、活躍する“雰囲気”があったという。「練太郎とは隣の部屋で、アイツのいつもはヘラヘラしているキャラなんですけど(笑)、良いスイッチが入っていて、前日から良い集中に入っていたので、『ちょっと今回は違うな』みたいな感じがありましたし、この会場に入ってくる時もキリッとしていて、今日は絶対何かやってくれるんだろうなとは思いました」。予感的中。そして、その躍動をお膳立てした笠柳の演出力も、もちろん見逃す訳にはいかない。

 この日の一戦には、先輩たちの想いも乗っていた。昨年度の選手権予選は3回戦で桐生一に2-3で惜敗。途中出場の笠柳は、ピッチで全国への夢が絶たれる瞬間を味わった。「今日試合に来る前に、去年の先輩たちには連絡を入れて、全員に勝ってほしいというのは言われました。でも、去年は硬すぎてダメだったので、『楽しめたら一番いいかな』と。櫻井辰徳さんには『緊張しても仕方ないから楽しめ。そういう時があったら笑え』とアドバイスももらったので、その通りにやって勝てたことは良かったと思います」。笑顔のリベンジ達成。お世話になった先輩たちに最高の報告を届けられたことが、何より嬉しかった。

 この春からは、長崎でプロサッカー選手の道を歩み出す。その前に迎える、今までのキャリアの集大成。それでも、この男のスタンスはいつもと変わらない。「個人としてはチームを勝たせられるような選手でありながらも、ドリブルとかスルーパスとか、そういうのは本当に見てもらいたいですね。特に子供たちはドリブルが好きな子が多いので、そこをしっかり見せて、みんなに憧れを持ってもらえたらなと思います」。

 ドリブルと、スルーパスと、何より大切なあふれる笑顔と。サッカーを楽しむ気持ちを全身から発散させながら、上州のタイガー軍団を牽引する10番。磨き続けてきた圧倒的な武器で、笠柳が全国の猛者を切り裂いていく姿が目に浮かぶ。

(取材・文 土屋雅史)

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