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2度の大怪我で立てなかった選手権のピッチ。日体大柏FW北嶋大地は待望の数分間、大学経て偉大な“父超え”へ

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日体大柏高FW北嶋大地は大学サッカーを経て偉大な“父超え”を目指す

 偉大な父を超えるFWに、なる。関東高校サッカー大会準優勝の強豪、日体大柏高は選手権千葉県予選2回戦で優勝校の流通経済大柏高と対戦。先制したものの、1-2で逆転負けし、全国大会への道が断たれた。

 FW北嶋大地(3年=柏レイソルA.A.TOR'82出身)は、その瞬間をピッチの外で迎えた。入学当初から注目されていたストライカーだが、1年時は腰椎分離症に悩まされ、2年時の7月に前十字靭帯を大怪我。長いリハビリを経て今年3月に復帰したが、その3日後に同じ箇所を負傷し、約8か月間の離脱となっていた。

 チームメートたちが千葉県予選を突破することができれば、全国大会には出場することができる。「全国に行けば、自分も出られる。みんなが出ると信じてリハビリを続けてきました」。だが、チームは強豪対決で惜敗。父も活躍した全国大会はおろか、予選のピッチにも立つことができないまま北嶋の選手権は幕を閉じた。

 北嶋の父は、柏などで活躍した元日本代表FW北嶋秀朗氏(現大宮ヘッドコーチ)だ。市立船橋高(千葉)時代の第73回、第75回大会の選手権で日本一を勝ち取り、主将として戦った第75回大会は得点王にも輝いている。選手権通算16得点は当時の最多記録。文字通り、“選手権の申し子”だった。

 中学時代、日体大柏高のグラウンドで活動する柏レイソルA.A.TOR'82に所属していた北嶋は、父の母校ではなく、新しい歴史を築くため、台頭続ける日体大柏への進学を決めた。家族もその決断を後押し。インターハイ出場歴を持つ日体大柏を初の選手権へ導き、プロ入りすることを目指して高校3年間をスタートした。

 日体大柏の根引謙介監督は、柏で北嶋の父とチームメート。その息子について、「得点感覚は素晴らしいですよ。ゴール前の動きは本当にお父さんそっくりです」という。本人も自身のストロングポイントについて、「一番はゴール前の駆け引きです。お父さんのコピーまでは行かないですけれども、クロスに対して駆け引きしながら一瞬でマーク外して飛び込んで行くところとか、ゴール前でズラしてシュートとか、ゴール前での繊細さとか、ゴールへの貪欲さは誰よりもあるというのは自信あります」と自己分析する。

 1年時冬の“裏選手権”ことNEW BALANCE CUPでは、強豪校相手に2得点。タラレバではあるが、今年、関東大会準優勝の日体大柏に北嶋がいれば、千葉県予選の結果は異なるものになっていたかもしれない。スタッフもそのことを残念がっていたが、北嶋は前向きだ。

「自分が入学した時に思い描いていた目標の通りには行かなかったんですけれども、長いケガを通して色々な人の支えが自分の力になるということとか、懸垂とかもできなかったのがリハビリを続けて今は10回できたり、信じてやり続けることによっていつか結果が付いて来るというのは学べたことなので、ネガティブなことばかりではないなと思いました」

 とても容易には受け入れることができなかったであろう2度の大怪我。高校では自身の夢を実現すること、周囲の期待の声に応えることができなかった。それでも、北嶋は挫けず、目標へ向けて歩み出している。日体大柏卒業後は関東大学リーグ2部の強豪大学へ進学予定。現在は大学4年間で怪我せずに、活躍するための体作りをトレーナーとともに行っている。

「大学の4年間は、プロになれるための4年間にしたいと思っているので、1年生から試合に絡めるように結果を意識して、結果を出すことができるようにシュート精度やチームに貢献することを一番にやっていきたいと考えています。そして、家族や仲間に一緒に苦しい思いをさせてきてしまったので、4年後、恩返しできるようにしたい。(理想は)プレーで気持ちを見せれるというか、一番は父を超えるFWですね。背中でチームを引っ張ったり、ゴールを決めたり、一番はお父さんを超えることなんで、超えていきたい」

 父に2度目の大怪我を報告した際、目標とする存在は電話の向こう側で1分間沈黙するほどだったという。父の無念も伝わってきた。それでも、「(父からは)今できることをやっていくことと、サッカーと自分を切り離すというか、リハビリに集中することを言われました」。復帰を急ぐよりもリハビリに集中すること。北嶋はその言葉通りに慌てずにリハビリを続け、より身体を強くし、11月半ばにチーム練習へ部分合流した。

 仲間たちとパス&コントロールや鳥かごをすることの楽しさを噛み締めながらの毎日。その北嶋は11月某日、片野慶輝総監督から背番号29のユニフォームを手渡されていた。周囲も認める努力でピッチに戻ってきた北嶋は、12月5日に開催される千葉県1部リーグ・木更津総合高戦に数分間限定で出場する予定なのだという。「最後、数分間ですけれども、そこでもゴールは狙っているので、貪欲にやっていきたいと思っています」。もちろん、自分の身体を優先することが第一。その上で、北嶋はこの数分間、そして大学での日々に全力で、前向きに取り組み、いつか“父を超えるようなFW”になって家族や仲間たちに恩返しする。

(取材・文 吉田太郎)
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