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[MOM3715]関東一MF若松歩(3年)_「ゴールに貪欲ではない」謙虚なアタッカーがさらった“新国立第1号ゴール”

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新国立の第1号ゴールを決めた関東一高MF若松歩(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.28 選手権1回戦 関東一高 6-0 中津東高 国立]

「自分は(新国立)第1号ゴールというのはまったく意識していなくて、自分のところからチャンスを作るということを意識していました」。そう語った笑顔が清々しい。得てしてこういう男の元に、幸運は転がってくるものだ。

 今回で100回目を迎えた記念すべき高校選手権。そのオープニングマッチ。新しく生まれ変わり、これから数々のドラマが積み重ねられていくであろう新国立競技場の第1号ゴールは、関東一高(東京B)の謙虚なアタッカー、MF若松歩(3年=東京ベイFC U-15)が鮮やかにさらっていった。

 開始早々から関東一の勢いが鋭い。持ち味の丁寧なコンビネーションと長いボールを織り交ぜながら、中津東高(大分)陣内に攻め込む。前半8分にはキャプテンのDF池田健人(3年)から前線にフィードが入り、こぼれを叩いた若松のミドルはGKにキャッチされたものの、アグレッシブな姿勢を打ち出し続ける。

 すると、スコアが動いたのは13分。右サイドで得たCK。ファーサイドに集結する関東一の選手たちの中で、「自分はキッカーだったんですけど、ボールがこぼれた時にこぼれ球を処理する役割に回ったんです」という若松は、エリアの外で冷静に状況を見極めていた。

 レフティのMF肥田野蓮治(3年)が右サイドから蹴り込んだキックは、ニアから中央にこぼれてきた。「あのタイミングでこぼれてきたので、『決めれるな』と思って」若松が右足を振り抜くと、ボールはそのまま右スミのサイドネットへ突き刺さる。

「『ゴール、ゴール』という気持ちではなくて、自分からチャンスメイクして、チームに貢献できればいいかなと思っているので、ゴールに“貪欲”ではないんですけど、タイミングやポジショニングで相手よりも上回れたから、今日はゴールが決められたと思います」。

 肥田野。FW坂井航太(3年)。FW本間凜(2年)。チームには自分こそが点を獲ってやろうというメンタルとキャラクターを持ち合わせたアタッカーが揃っている。結果的に彼らもきっちりゴールを記録したものの、第100回大会の、そして新国立競技場のファーストゴールを、「ゴールに貪欲ではない」と口にする若松が手にしたあたりに、サッカーの面白さが現れた気がした。
 
 先制以降も、左サイドは関東一にとって攻撃のポイントに。「相手をワンツーで剥がしたり、仲間を上手く使いながら左サイドを崩して、クロスを上げたり、チャンスメイクをしたりというところは意識していました」と語った若松のプレーが、チームに推進力を生み出していく。2点目と3点目はいずれも左からのアタックが起点となり、4点目は若松のクロスから最後は本間が押し込んだ得点。自身のゴールのみならず、得意のチャンスメイク力も晴れ舞台で十二分に披露してみせた。

 去年の高校選手権は右サイドバックでスタメン出場。この日は左サイドに位置していたが、システムが変わればシャドーや最前線でプレーすることも。「今は左のサイドハーフで、去年は右サイドバックをやっていて、練習試合の中でも右サイドハーフだったり、左サイドバックだったり、いろいろなポジションをやらせてもらって、どのポジションに入っても対応できるというのは自分の強みだと思っています」と本人も語るように、若松のポリバレントさは関東一の戦い方に大きな幅を持たせている。

 確かに多くの得点を重ねるタイプではない。だが、選手権予選2回戦の狛江高戦でも、実は左からのクロスに対して豪快なボレーでゴールを叩き込んでいる。最近はサイドでプレーすることが多くなっているが、以前はFW登録だった試合もあったように、時折顔を覗かせるアタッカー気質が結果に繋がることも、以前から少なくなかった。

 サラッと口にした一言に、秘めた矜持が滲む。「自分はシュートには自信を持っているんです」。いわゆる必殺仕事人。一撃で獲物を仕留めるタイプ。ペナルティエリアへ侵入してきた若松に、ディフェンダーはご注意を。

(取材・文 土屋雅史)

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