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母校の指揮官として帰還した選手権で得た感覚。高知は目標までの距離を肌に刻み、次の戦いへと歩み出す

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最後までゴールを目指して戦い続けた高知高

[12.29 選手権1回戦 堀越高 2-1 高知高 駒沢]

 ピッチを見つめていると、不思議な感覚が襲ってきた。母校を率いている指揮官にとって、選手たちはすべてをぶつけてきた教え子でもあり、かわいい後輩たちでもある。全国の舞台で、強敵を相手に立ち向かっていく姿が、何とも頼もしく見えた。

「自分自身も選手権のピッチに立ったこと(第81回、第82回にGKとして出場し、ともに初戦突破)があって、本当にその記憶が自分が指導者としてこのピッチに立った時に甦って、何とか選手のためにじゃないですけど、『勝たせてあげたいな』という想いがありました」(高知高・大坪裕典監督)。

 2年ぶりに帰ってきたこのステージの経験を糧に、高知高(高知)は再び前を向いて、次の戦いへと歩みを進めていく。

「一言で言いまずと、本当に悔しかったです。選手たちは本当によく頑張ってくれて、自分たちで考えて判断するというところもたくさん見せてくれました」。オンライン会見に臨んだ大坪監督は開口一番、選手たちを称えながらも悔しさを滲ませた。

 堀越高(東京A)と対峙した初戦は、前半20分までに2点を先行される展開。だが、「逆転勝利もしてきたので、2失点しても全然大丈夫という気持ちはありました」とMF松井匠主将(3年)も話したように、怯むことなくアグレッシブに攻めた高知は、25分にMF松井貫太(1年)のミドルシュートがポストに当たった跳ね返りを、FW西田慎太郎(3年)がきっちり押し込み、1点差に。勢いを取り戻し、攻勢を強めたかのように見えたが、以降はなかなかアタックの糸口を掴めない。

「堀越さんは全体的に非常に良い立ち位置でサッカーをされていたというところで、なかなかプレスも行かせてくれないというシーンがたくさんありました」と大坪監督。ファーストプレスの位置が定まらず、堀越のビルドアップに対して有効なボール奪取の手立てを繰り出せず。時間ばかりが経過していってしまう。

 結局、後半のシュート数はゼロ。「足元の技術は全然相手の方が上でしたけど、やっているサッカーというのは自分たちもそんなに負けていなかったので、それを全国の舞台で出せるか出せないかというところの差で負けたのかなと思います」と口にしたのは松井匠。1点差ではあったものの、全国大会の難しさを痛感するような80分間を突き付けられた。

 高知は付属の中学校から一緒にプレーしてきた選手も多く、この日のスタメンに名を連ねた11人のうち、実に9人が高知中の出身者。とりわけ松井匠を含めた5人の3年生は、6年間に渡って同じグラウンドで一緒にボールを追い掛けてきた仲だ。

「一体感というのはウチのテーマでもありましたし、横の繋がりを大事にしていきながら過ごしてきた日々だったので、そこはもう本当に我々の武器ですね。一体感を持ってやってきました」と指揮官はチームワークに言及して胸を張り、「中学校からずっと一緒にやっているので、高校の3年間でやってきているチーム以上に、チームワークというのは強いのかなと思います」と松井匠も同調した。ただ、続けた言葉に本心が滲む。

「全国大会という舞台でサッカーができたのは凄く楽しかったんですけど、やっぱりもっとこのチームでサッカーをやりたかったなというのが自分の本音です」。

 この日のピッチに立った1,2年生には、3年生が築いてきたチームの伝統を受け継いでいく義務がある。右サイドハーフに入って、切れ味鋭いドリブルでチャンスに絡み続けた松井貫太はキャプテンの実弟。「たぶん兄弟で一緒にできる最後の舞台だったと思いますし、貫太も先発で出てくれたので、そういう意味でも一緒にプレーできたのは自分にとっては凄く良い経験でしたし、凄く楽しい経験でした」と松井匠。この日のピッチで感じたことを、これからの高校サッカーにぶつけていくことが何よりの恩返しになることも、きっと彼らは十分に理解していることだろう。

「自分たちができなかった全国ベスト4という目標に向けて、今まで通りではダメということはこれで分かったと思うので、今まで以上に練習から努力してもらって、自分たちができなかった目標に向かって、頑張ってほしいです」(松井匠)。目標までの距離が、少しだけ肌感覚で測れたことは間違いない。その距離を縮め、その場所へ少しでも近付くために改めて努力を重ねる日々が、もう今日から高知高の選手たちを待ち受けている。

(取材・文 土屋雅史)

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