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「李月なら絶対に止められる」。仲間の信頼を実感した関東一GK笠島李月が圧巻のPKストップで静岡学園撃破の立役者に!

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2回戦に続くPKストップでジャイアントキリングの主役となった関東一高GK笠島李月

[1.4 選手権準々決勝 静岡学園高 1-1(PK3-4)関東一高 フクアリ]

 勝負のゴールマウスに向かう守護神は、笑顔を浮かべていた。みんなの想いも十分過ぎるほどに感じている。あとは、オレが止めるだけ。腹は据わっていた。

「『PK戦は楽しんだもん勝ちだな』って、尚志戦でPKを止めて勝った時に本当に思って、GKとしての勝負というのも楽しむこと、みんなに注目される中で楽しむことが、一番PKの面白みというところだと思います」。

 2回戦の尚志高(福島)戦に続くPKストップは、地道な日々の積み重ねで築き上げてきた信頼への答え。関東一高(東京B)が誇る努力の護り人。GK笠島李月(3年=FC杉野ジュニアユース出身)のビッグセーブが、チームの新たな歴史の扉を力強くこじ開けた。

 とにかく、攻められた。準々決勝の相手は4人のJ内定選手を擁する、全国屈指のタレント集団・静岡学園高(静岡)。戦前から劣勢が予想されたものの、ドリブルとショートパスを織り交ぜたアタックに、関東一は防戦一方。ほとんど自陣に押し込まれたまま、耐え忍ぶ時間が続く。

「クロスの対応が難しかったんですけど、高いボールには自信がありましたし、中のマークの付き方は『ボールを見過ぎない』というところを意識していて、中のマークが外れないように、ボールだけじゃなくて、他のところの指示をしっかりしていました」という笠島も、冷静に戦況を見極めつつ、必死にチームメイトへ声を掛け続ける。

 前半16分には、右からカットインしてきたFW川谷凪(3年)の強烈な左足シュートを、ファインセーブで弾き出す。26分にも左サイドから打ち込まれたFW松永颯汰(3年)の枠内シュートに、落ち着いてセーブ。丁寧に、丁寧に、1つずつ相手の攻撃に対応。前半は0-0で折り返す。

 後半20分。とうとう先制点を献上。以降も2点目を狙う相手の猛攻にさらされながら、水際で何とか押しとどめる。終盤の37分には静岡学園のエース、FW持山匡佑(3年)の決定的なシュートも、笠島がファインセーブで応酬。「相手のチャンスに連続失点がなかったところが一番良かったと思います」という守護神の活躍に、土壇場で攻撃陣も奮起。終了間際の40分。途中出場のFW坂井航太(3年)が劇的な同点弾を叩き込み、準決勝へと進むための切符はPK戦で争われることになる。

 圧倒的な得点力でここまで勝ち上がってきた静岡学園は、PK戦へともつれた試合がなかったため、各選手のキックに関するデータは分析しようがない。「PKの研究というのはあまりできなかったんですけど、2回戦の時も自分が止めて勝てたので、少し自信はありましたし、監督にも『自信を持ってやって来い』と言われました」と明かした笠島は、さらにこう言葉を続ける。

「GKというのは信頼が必要だと思うんですけど、サポートメンバーからも『李月なら絶対に止められる』という声を掛けてもらいました」。ゴールマウスに立てるのは、自分1人だけ。自信は、ある。この舞台を楽しむ余裕も、確かにあった。

 1人目のキッカーには、逆を突かれて決められた。頭の中を整理する。2人目のキッカーは磐田内定のMF古川陽介(3年)。相手の中でも一番のテクニシャンだ。待つ。見極める。左に来る!

「最初の1人目には逆を突かれちゃったんですけど、先に動かないで、しっかりボールを見て合わせるということを意識しました」。渾身のPKストップ。だが、派手なガッツポーズは繰り出さない。尚志戦と同様、「落ち着け」と言わんばかりに、手のひらを下に向けながら、チームメイトへ笑顔のサインを送る。



 静岡学園3人目のキックは枠を外れたが、歩調を合わせるように関東一3人目の坂井が蹴ったキックも、左ポストの外側へ逸れていく。その場に崩れ落ちる11番に、守護神がすかさず近付いていく。

「坂井が外した時は、相手が2本外していて、そんなに焦る場面じゃなかったので、『別に気にしなくても大丈夫だよ』という励ましの声というか、坂井はこれから大学でも4年間一緒に支え合っていく仲でもあるので、『オレが止めるから大丈夫だよ』という声を掛けました」。

 高校卒業後も拓殖大でチームメイトの関係が続く笠島の言葉に、坂井も「李月が『オレがいるから大丈夫』と声を掛けてくれたので、そこでチームのみんなに任せるしかないという気持ちになりました」と何とか前を向く。最後は5人目を託されたDF池田健人主将(3年)のキックが、ゴールネットを的確に射貫く。まさに奇跡と言っていい“逆転劇”。その中心で、仲間の信頼を盾に、自信という名のオーラを纏った笠島の存在が一際輝いた。

 次のステージは未知の世界と言っていい全国大会の準決勝。開幕戦を戦った国立競技場が待っている。

「大津高校は自分たちより絶対に格上のチームだと思っているので、相手に対しての対応をこれからチームでミーティングをして、共通意識を持って戦いたいですし、開幕戦でやった国立は一番最高の舞台だったので、もう1回そこに立てるということで、相手に引っ張られないように、自分たちらしい流れを作っていきたいなと思っています」。

 もちろん晴れ舞台だって『楽しんだもん勝ち』。聖地でも笠島の笑顔が咲き誇れば、自ずとファイナルへの道は開けるはずだ。

(取材・文 土屋雅史)

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