beacon

「ありがとう」…ピッチに立てなかった高川学園主将・奥野奨太の最後の選手権

このエントリーをはてなブックマークに追加

3位の賞状を手にする高川学園高奥野奨太主将(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.8 選手権準決勝 高川学園0-6青森山田 等々力]

 第100回の全国高校サッカー選手権の開会式で、選手宣誓を務めあげた高川学園高(山口)の主将、DF奥野奨太(3年)。大会前に行われたプリンスリーグ参入戦で負傷し、その左ひざにはテーピングが巻かれていた。

 開会式の翌日に行われた1回戦・星稜戦では、出場こそなかったがベンチ入りメンバーに。試合後には、「キャプテンのためにも絶対に勝たないと」(林晴己)、「1分でもピッチに立たせたい」(中山桂吾)、とチームメイトが口を揃えていた。しかし、星稜戦を最後にベンチ入りはかなわず、青森山田高(青森)との準決勝では、ベンチの後ろで試合終了の笛を聞いた。

 昨年度の選手権で、昌平高に80分から2点を奪われ、PK方式の末に涙をのんだ高川学園。先発フル出場し、PKの1番手のキッカーとして成功させた奥野は、3年生となって主将に就任。「昌平戦を忘れるな」を合言葉に、チームは日本一を目指して練習に励んだ。

 そして満を持して迎えた選手権直前に、主将であり、左SBのレギュラーである奥野は離脱を強いられた。「奥野がケガをしたのは、ダメージがあった」と江本孝監督は、1回戦・星稜戦後に素直に認めた。その一方で、「ケガをしたことによって、サブの選手が奮起してくれた。奥野の代わりといってはなんですけど、山崎が最後まで頑張り続けたのは、チームにとってもいい流れになった」と前を向いた。

 今大会の高川学園は、セットプレーが大きな注目を集めたが、そのキッカーを務めたのが、奥野に代わって左SBに入ったDF山崎陽大(3年)だった。2回戦・岡山学芸館、3回戦・仙台育英、準々決勝・桐光学園と、3戦連続で決勝点を演出したのは、山崎の左足だ。

 準々決勝・桐光学園戦でMF西澤和哉(3年)がゴールを挙げたCKは、ニアサイドに3人、中央に1人、ファーサイドに3人が別れるものだったが、これは奥野のアイディアだったという。

 たとえピッチに立てなくても、チーム一丸となって戦い、同校最高成績に並ぶベスト4入りを果たした高川学園。奥野に代わって全5試合でキャプテンマークを巻いたMF北健志郎(3年)は、「大会前に奥野が怪我をして、チームとしてもうまくいかない時期が本当に長く続いて、そんな中で大会がはじまった」と、苦しかった胸の内を明かす。

 それでもチームが勝ち上がっていく。「準決勝が決まって、(奥野を)日本一のキャプテンにする」と北は誓っていたが、残念ながら果たされることはなかった。「奥野に『申し訳ない』と伝えたんですけど、奥野は『ありがとう』と言ってくれた」。日本一という目標には届かなかったが、チームの想いは背番号13に届いたはずだ。

(取材・文 奥山典幸)

●【特設】高校選手権2021
▶高校サッカー選手権 全試合ライブ&ダイジェスト配信はこちら

TOP