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“代役”から這い上がった日本一。青森山田MF田澤夢積は努力で掴んだ“夢”のさらなる続きを見据える

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青森山田高の左サイドで輝き続けたMF田澤夢積(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[1.10 選手権決勝 大津高 0-4 青森山田高 国立]

 あるいは、1年間で最も成長した選手かもしれない。シーズン開幕当初は左サイドハーフの控えという立ち位置だったが、自らの力でポジションを不動のものに変えていく。今回の日本一に輝いた選手権でも、全5試合を通じて主役級の活躍を披露したと言っていいだろう。

「ずっと目標にしてきた三冠を達成できたので凄く嬉しいです」。

 夢を少しずつ積み上げていって、最終的には大きな夢を掴んでほしいという両親の願いが込められた名前の通り、青森山田高MF田澤夢積(3年=青森山田中出身)は高校生活で思い描いた“夢”を堂々と手繰り寄せた。

 大きな転機になったのは今シーズンのプレミアリーグEAST開幕戦。MF小原由敬(3年)の体調不良による欠場を受け、黒田剛監督にも「小原の代役として連れてきた」と明言されていた田澤は、しかし得意の左足でゴールをマーク。「どんどんアピールして、スタメンを奪ってやるんだというくらいの気持ちでやっていました」と自ら振り返ったこの一戦が、すべての始まりだった。

 徐々に定位置を固めていく中で、試合に出る選手としての自覚も芽生えていったという。「Aチームでやるということは私生活でも自分たちがしっかりしないといけないですし、そういうところではサッカー面だけじゃなくて、私生活でも見本になれるようにというか、自分たちがしっかりやらないと、下の学年もやってこないと思うので、『見本になる』ということは意識してやってきました」。立場は、人を変えていく。人間性での成長は、この1年間で自分でも感じてきた。

 攻守に渡るハードワークも光った。左サイドでとにかく上下動を繰り返す。相手陣内深くまで切れ込んだかと思えば、最終ラインまで戻って守備に奔走する。ドイスボランチを組むMF松木玖生(3年)もMF宇野禅斗(3年)も事あるごとに、「“藤森夢積”のプレスバックと攻撃参加」の重要性を口にする。右サイドハーフのMF藤森颯太(3年)と田澤、“藤森夢積”の存在感はチームの中で日に日に大きくなっていった。

 三冠へのラストピースとなった選手権でも、2回戦の大社高(島根)戦では左サイドを巧みに抜け出すと、左足で豪快なシュートを右スミのゴールネットへ突き刺す。憧れているアントワーヌ・グリーズマン顔負けのファインゴール。「やっぱり国立競技場は凄く大きくて、迫力があって、緊張もあったんですけど、早い時間でチームメイトが点を獲ってくれたので、結構落ち着いてプレーできたかなと思っています」と振り返った大津高(熊本)との決勝でも、左サイドからのグラウンダークロスでFW名須川真光(3年)のゴールをアシスト。4万人の観衆の前で、その磨いてきた武器の威力を遺憾なく発揮してみせた。

 青森県青森市出身。中学時代から在籍してきた青森山田で、日本一を勝ち獲ったチームの一員として地元出身者が躍動したことの意味も、もちろん十分に理解している。「こうやって青森県出身の選手でも試合に出て、日本一に貢献できるんだぞというところは、青森県の人たちに見せられたのかなと思います」。田澤の姿を見て、次は自分が日本一にと決意を新たにした青森県のサッカー少年、サッカー少女も少なくないだろう。

 高校卒業後は、先輩も多く在籍している新潟医療福祉大学へと進学する。「大学に入ってからもプロを目指して、4年後とは言わず、早くなれるなら、少しでも早くプロになりたいと思います」。

 選手権での日本一、シーズン三冠という“夢”を叶えたいま、田澤は次に見据える大きな“夢”に向かって、新潟の地で新たな一歩を踏み出していく。



(取材・文 土屋雅史)

(※青森山田高の協力により、リモート取材をさせて頂いています)
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