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被シュートゼロは守備陣の勲章。青森山田GK沼田晃季がイメージし続けた「1本のビッグセーブ」

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青森山田高の守護神を務め上げたGK沼田晃季(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[1.10 選手権決勝 大津高 0-4 青森山田高 国立]

 日本一を手にした選手権ファイナルは、被シュートをゼロに抑えた上での完封勝利。いわゆるファインセーブの類はなかったものの、むしろその勝ち方こそが、守備陣全体で引き寄せた総合力の勝利だということができるのではないだろうか。

「決勝は相手のシュートがゼロというところで、フィールドの選手を褒めたいですし、シュートを打たせないためのコーチングだったり、ゲームメイクというところを自分も心掛けてプレーしていたので、そういう意味でも自分を評価してもいいんじゃないかなと思います」。

 難攻不落。青森山田高のゴールマウスに1年間立ち続けてきた不動の守護神。GK沼田晃季(3年=鹿島アントラーズジュニアユース出身)が仲間と築き上げてきた鉄壁の組織は、晴れ舞台でも抜群に堅かった。

「正直プレッシャーはメチャクチャあります」。率直な言葉に、本音が滲む。被シュートゼロ、失点ゼロを目標に掲げ続けるチームのGK。プレッシャーがないはずがない。ただ、沼田はその状況すらもポジティブに捉えていた。「でも、そこはお互いにカバーし合ったりとか、励まし合ったり、鼓舞しながら、1人1人が常に高いレベルを目指してやっているので、良い意味でみんなの刺激になっていると思います」。

 夏過ぎにはコロナ禍の影響で、なかなかトレーニングも満足にできない時期が続いたが、結果として守備陣はこの時間も有効に使っていた。「自粛期間が増えたので、お互いのコミュニケーションやすり合わせがよりできましたし、寮にいる時もサッカーの会話が増えたり、みんなで良い方向を向いてできたので、良い期間だったのかなと思います」。間違いなくチームの結束力は高まっていった。

 古川大海GKコーチから、ずっと言われ続けてきたことがあった。「選手権でベスト8やベスト4になれば、絶対にGKのビッグセーブが1本はあるから」。かつて青森山田を日本一に導いてきた廣末陸も、飯田雅浩も、先輩の守護神たちは大一番でチームを救うセーブを披露してきた。

 準決勝の高川学園高(山口)戦。2点をリードした前半37分。味方のバックパスが小さくなり、予期せぬ形で相手との1対1が訪れる。「後ろはリスクをなるべく負わずに、前にストレスなくプレーしようということを心掛けていたんですけど、あのシーンは正直想定外のプレーでした」。そう振り返る沼田は、それでも右足で的確にシュートを弾き出す。

 本人は「ビッグセーブかどうかは分からないですけど」とは口にしたものの、失点を許していれば1点差に迫られたシーン。結果的に国立競技場のピッチで唯一となった決定的なピンチでのセーブは、日頃から怠らなかった沼田の準備が生きたワンシーンだったことは間違いない。

 決勝の後半アディショナルタイム。ゴールキックを蹴る前に、「これで終わりかな」と感じていたという。高く、遠くまで蹴ったボールがピッチへと帰ってくる前に、主審のホイッスルが国立の空へ吸い込まれる。5試合で失点はわずかに2。準決勝と決勝では一度もゴールを破られることなく、守護神はチームメイトと日本一の歓喜を分かち合った。

 試合後。3年という時間をともに過ごしてきたGK鈴木尋(3年)と、ハイタッチを交わす。「この青森に来てからの3年間は、カテゴリーは違っても切磋琢磨しながらやってきたチームメイトなので、そこはこれからも『絶対に負けられない』という想いもありますし、同じピッチに立つことがあるなら、それはより光栄なことですし、お互い頑張っていきたいなと思います」。

 高校卒業後は、それぞれ別々の道を歩み出す。青山学院大学へと進学する沼田は、「大学に行ってからも、常に自分に対する厳しい目を持って、いろいろなことにチャレンジしたいという想いが今はあります」とこれからの未来に想いを馳せる。もし対戦相手として鈴木と再会する日が来たら、それはもちろん最高だ。

(写真協力=『高校サッカー年鑑』)


(取材・文 土屋雅史)

(※青森山田高の協力により、リモート取材をさせて頂いています)
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