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最後の最後で手にしたレギュラーポジション。左SBを務め上げた青森山田MF小野暉の未来は明るく“ひかる”

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青森山田高の左サイドバックを鮮やかに演じきったMF小野暉(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[1.10 選手権決勝 大津高 0-4 青森山田高 国立]

 最後の最後で手にしたレギュラーポジション。意外な場所を任されたものの、何より大切なのはチームの勝利。慣れない守備を必死に覚え、周囲の要求をこなしていくうちに、しっかりと“青森山田のサイドバック”になってしまうのだから、そのポテンシャルには恐れ入るばかりだ。

「本当に想定外でした。もちろん選手権での優勝を目指していましたけど、自分が試合に出て優勝するというのは、春からのことを考えると思っていなかったので、それは凄く嬉しく思います」。

 チームきってのムードメーカー。青森山田高の新・左サイドバック。MF小野暉(3年=青森山田中出身)は日本一を勝ち獲った確かな実感の中で、仲間との歓喜に身を委ねていた。

「本来であればサイドハーフで出たかった気持ちはありますけど、3年目でやっと来た試合に出るチャンスなので、そこに対する想いはありますね」。12月。プレミアリーグEAST制覇を達成した試合後。“左サイドバック”の小野は笑顔でこう語っていた。

 シーズン開幕時からレギュラーを務めていた右のDF大戸太陽(3年)、左のDF多久島良紀(2年)と両サイドバックが相次いで負傷離脱。選手権の県予選決勝から左サイドバックに指名されたのが、切れ味鋭いドリブルと左足の精度が際立つアタッカーの小野だった。

 これまでも時折起用されることはあったものの、基本的には未知と言っていいポジション。ただ、もともとポジティブな小野には、新たな挑戦を楽しむ余裕があった。「中山(竜之介)も自分も別にあの2人と同じことをするわけではないので、自分たちの色を出して、チームにどう貢献できるかを考えてプレーしています。自分はクロスに特徴がありますし、まだアシストもできていないですけど、そういう結果でチームに貢献できたらなと思います」。

 大津高(熊本)との選手権決勝。3-0とリードして迎えた後半33分。左サイド深くまで侵入し、中央を見据えた小野が磨き続けてきた左足を振るうと、DFをかすめた軌道に、ニアへ飛び込んだFW渡邊星来(3年)が合わせたヘディングは鮮やかにゴールネットを揺らす。公式記録にアシストは付かなかったものの、チームにとってシーズン最後のゴールを演出したレフティは、両腕に力を込めて自身の“結果”を噛み締めた。

 改めて口にした言葉が興味深い。「決勝はシュートゼロということで、自分もシュートを打たせないことを徹底してやってきたので、それはバックラインとしては凄く嬉しく思います」。もうそのメンタルは守備者のそれ。きっと決勝で初めてチームを見た人は、 “急造”だということになんて気付かないほどに、小野は『青森山田のサイドバック』をやり遂げてみせた。

 人知れず抱えていた想いもあった。「中学校では全中5連覇を懸けた戦いで負けてしまって、自分たちの代の大会ではずっと優勝が獲れていなくて、(松木)玖生も言っていたんですけど、『自分がいると優勝できないんじゃないか』『自分たちの代は勝てないんじゃないか』という気持ちが自分にもありました。でも、春から掲げた3冠が今こうやって実現できて、本当にみんな頑張ってくれましたし、チームメイト全員に感謝したいです」。しかも、最後はメインキャストとして実現した“3冠”。大いに胸を張っていい。

 はしゃぎ過ぎた表彰式。「だいぶ気持ち良くなっていたので、そのせいで声も嗄れちゃいました。のどが痛いですね(笑)」と笑った小野は、選手権日本一、高校年代3冠を達成した選手として、山梨学院大学でまた新たな挑戦に身を投じていく。「(宇野)禅斗と玖生だけがプロに入ったんですけど、自分は大学でもサッカーを続けるので、ここからプロに行けるように頑張っていきたいです」。

 一撃必殺の左足と、誰をも笑顔にしてしまう天性の明るさ。確かな武器を携えた小野の未来がどんな形で“ひかる”のか、今からとにかく楽しみだ。

(写真協力=『高校サッカー年鑑』)


(取材・文 土屋雅史)

(※青森山田高の協力により、リモート取材をさせて頂いています)
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