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「雲外蒼天」のスローガンを掲げる日章学園が県内最大のライバル・鵬翔に競り勝って3年ぶりの全国へ王手!

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ライバル同士の激闘は日章学園高鵬翔高に競り勝ってファイナルへ!

[10.29 高校選手権宮崎県予選準決勝 日章学園高 2-1 鵬翔高 串間市総合運動公園陸上競技場]

 やはりこのカードは、いつだって壮絶な試合になる。お互いに意識し合うライバルだけに、求めるのは内容より結果。キックオフの笛が鳴った瞬間から、なりふり構わず勝利だけを目指し続ける。そして、今回もそのピッチに充満した熱量は、タイムアップを迎えるまで至るところで火花を散らしていた。

「いろいろ準備してきたことができないとか、最終的にはセカンドボールを拾うとか、相手より走り勝つとか、鵬翔高校さんと試合をする時は、いつも鵬翔高校さんもスイッチが入りますし、我々もスイッチが入るので、今日も本当にタフなゲームだったんですけど、それでも子供たちが一生懸命頑張ってくれたので、勝てて良かったです」(日章学園高・原啓太監督)。

 究極の意地の張り合いは赤と黒の勇者に軍配。29日、第101回全国高校サッカー選手権宮崎県予選準決勝、3年ぶりの全国を目指す日章学園高と、6年ぶりの頂点を狙う鵬翔高の激突は、DF藏屋明徹(3年)のスーパーボレーと宮崎内定のMF金川羅彌(3年)のPKで2点を先行した日章学園が、鵬翔の猛攻をFW永冨裕汰(2年)の1点に抑え、昨年度準決勝で敗れた相手にリベンジを達成。ファイナルへと勝ち上がった。

 いきなりの決定機は前半5分の鵬翔。MF中村心(2年)のパスから、左サイドをドリブルで運んだMF高野良斗(2年)が枠内へ収めたシュートは、日章学園のGK小林俊雅(3年)がファインセーブ。こぼれに詰めたMF古川幸一郎(2年)のフィニッシュは、「去年は同じ準決勝という舞台で0-3で負けてしまっていたので、今年は圧倒して、『何もさせないぞ』というぐらいの気持ちでやりたかった」と話す日章学園のキャプテン、DF工藤珠凜(3年)が気合のブロックで回避したものの、まずは鵬翔が惜しいシーンを創出する。

 ただ、少しずつペースを掴んだのは「前半の中盤から自分たちのサッカーができていきましたね」と工藤も語った日章学園。右のMF川越廉斗(1年)、左のFW松下貴要(3年)と両サイドハーフで時間を作りながら、馬力のある2トップのFW田上遼馬(2年)とFW石崎祥摩(3年)を生かす形に活路を。25分には川越が裏に落とすと、田上のボレーは枠を越えるも好トライ。29分にも石崎のパスから、川越のカットインシュートは鵬翔のGK脇黒丸翔太(2年)にキャッチされたが、積極的に滲ませるゴールへの意欲。

 すると、先にスコアを動かしたのはやはり日章学園。34分。左サイドから金川が蹴り込んだFKがこぼれると、ここに反応したのは藏屋。ボレーで叩いたボールは右スミのゴールネットへ文字通り突き刺さる。「外れてもいいから打とうという想いで、もうとにかくふかさないことだけを意識して抑えて打ったら、良いコースに飛んでくれたので『ウソ?』って思いました」と笑った右サイドバックのゴラッソ。良いリズムそのままに日章学園が1点のリードを手にして、最初の40分間は終了した。

 後半も日章学園の攻勢は続く。「点が入ってからボールを下で回すことができて、良いテンポになっていきました」とは1年生の川越。右から藏屋、DF新穂海斗(3年)、工藤、DF芝清人(3年)が並んだ4バックからボールをきっちり動かし、次のゴールチャンスを窺うと、12分には絶好の追加点機。右サイドを上がった藏屋のピンポイントクロスを、ファーの田上が頭で折り返したボールが相手のハンドを誘い、PKを獲得する。金川は冷静なキックを中央にグサリ。2-0。両者の点差が2点に広がる。

 小さくないビハインドを負った鵬翔の上永智宏監督は、攻撃的な選手を相次いでピッチへ送り出す勝負の采配に打って出ると、その交代カードが引き寄せたワンプレーで流れは変わる。23分。相手GKとDFラインがややもたついたルーズボールを、途中出場のFW山中大然(1年)がかっさらったところに、小林がたまらずファウル。今度は鵬翔にPKが与えられる。キッカーは高野。だが、右スミを狙ったキックはポストに弾かれてしまう。

 それでも、鵬翔は折れない。25分は直後の右CK。PKを失敗したばかりの高野が完璧なキックをファーサイドへ送り届け、フリーで飛び込んだ永冨のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。2-1。示された青と水色のプライド。残された時間は15分。まだ試合は終わらない。

 30分。日章学園のカウンター。途中出場のFW高岡伶颯(1年)が単騎で抜け出すも、飛び出した脇黒丸がビッグセーブで凌ぎ、「3点目で相手を仕留めるチャンスがあったんですけどね」と原監督も渋い顔。32分は鵬翔。左サイドをFW前田瞳馬(2年)が切り裂き、山中が繋ぐと、高野のシュートは枠の上へ逸れるも、ファイティングポーズは下ろさない。

36分も鵬翔。ここも前田を起点にMF福留綾人(3年)が右クロスを上げると、ニアに飛び込んだ高野のシュートは工藤がブロック。37分も鵬翔。高野の縦パスを永冨が丁寧に落とすも、前田のシュートはわずかに枠の左へ。「相手の特徴の裏へのボールも入ってきて、そこの対応がちょっと難しかったので、押し込まれる場面が多くなったと思います」(工藤)。押し込む鵬翔。耐える日章学園。アディショナルタイムの掲示は5分。いよいよ勝負は最後の300秒へ。

「今日のディフェンスラインの4枚が去年の鵬翔戦の負けを経験していて、プライドというか、気持ちでカバーできる部分で、キャプテンを中心に最後まで全員でやれたのかなと思います」(藏屋)「メンバーに入っていない3年生もいるので、自分が出ているからにははできる限りのことはしようと思っていましたし、去年一昨年と予選で負けているので、『今年は負けさせてはならない』とみんなが思っていたことが出たのかなって」(川越)。

 主審の長いホイッスルが青空に吸い込まれる。ファイナルスコアは2-1。「鵬翔さんの勢いもあって、非常に苦しい試合だったんですけど、子供たちがいつも言っている『切り替え、球際、運動量』の部分で身体を張ってくれたので、何とか次の決勝に進めることができてホッとしています」と原監督も安堵の表情を浮かべた日章学園が激闘を制し、全国切符へ王手を懸ける結果となった。

 日章学園はここ2年続けて、冬の全国に出場できていない。「先輩たちの姿を見てきたので、やっぱり憧れの青写真を自分も描いて高校に入ってきたんですけど、選手権というのはそんなに甘い世界ではなかったです」とは工藤。つまり今年の3年生は選手権の晴れ舞台を経験していないわけだ。

 だからこそ、この日も最上級生の奮闘は際立っていた。「ミーティングでも『3年生の想いが大事だ』という話をしましたし、向こうは1,2年生が多かった中で、逆に我々は3年生が多かったので、『技術云々ではなくて、3年生の想いの差だけは出そう』ということでピッチに送り出しました。最後はそういう面で乗り切ってくれたんじゃないかなと思います」という指揮官の言葉は、偽りのない本心だろう。

 毎年その年のスローガンを決めているという日章学園。2022年のそれは『雲外蒼天』だという。「『雲外蒼天』というのは、結果がなかなか出ない時も、継続して努力し続ければ結果が出るという意味があるので、過去2年間のことも踏まえて、自分たちだけではなく、今までの先輩たちの想いも背負いながら、自分たちの代でしっかり結果を残そうという意味を込めて、このスローガンを決めました」と明かした工藤は、続けて言葉に力を込める。

「準々決勝、準決勝と苦しい内容の試合をチーム全員で乗り切ったからこそ、決勝の舞台に立てるので、試合に出る選手だけではなくて、サポートしてくれる部員全員の想いと、保護者の皆さんの想いと、スタッフ全員の想いと、チームを支えてくださった方々の想いを胸に、本当の意味で一丸となって、大会前から掲げてきた『内容、結果ともに圧倒して優勝する』ということを決勝戦で実現して、宮崎県内に自分たちの力を知らしめたいと思っています」。

 継続した努力の成果は、宮崎の蒼天の下に結実するのか。全国へと返り咲くために必要な勝利は、あと1つ。



(取材・文 土屋雅史)
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