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真剣に目指してきた群馬県のチャンピオン。「3年間の伸びしろ」で勝負した健大高崎は夏の全国王者・前橋育英に惜敗

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健大高崎高は夏の全国王者・前橋育英高をギリギリまで追い詰めた

[11.3 高校選手権群馬県予選準決勝 前橋育英高 2-1 健大高崎高]

 相手は日本一のチームなんてことは百も承知。それでも自分たちだって、この大会に勝つために練習を積んできた。真剣に目指してきた群馬の頂。そこに辿り着くまでは負けられないし、勝ちたいし、ずっと勝てると信じてきたのだ。

「相手はもちろん強いと思っていたんですけど、自分としては『絶対に勝てる』と信じて臨んだゲームでしたし、前半も後半もチャンスはあったので、やり切れたゲームだったと思います」(健大高崎高・小野関虎之介)。

 惜しくも夏のインターハイ王者・前橋育英高に敗れたものの、健大高崎高(群馬)が携えてきた目線は、以前よりずっと高い場所を見据え始めている。

「もう入りからガンガン仕掛けていくことはチームで話していたので、良い攻撃ができたと思います」。チームの10番を背負ったFW小野関虎之介(3年)は、そう言葉を紡ぐ。ファイナル進出を懸けた選手権予選の群馬準決勝。健大高崎は立ち上がりからハイプレスを掛け続け、試合の主導権を握る。

 シンプルかつ愚直な前への圧力で、絶対王者・前橋育英の勢いを上回り、チャンスを連発。8分にはMF渡辺聡馬(2年)、MF峯岸洸二郎(3年)とスムーズにボールを繋ぎ、小野関のシュートはGKにキャッチされたものの好トライ。9分にはDF鶴谷理稀(3年)のフィードを小野関が収め、MF牧野陸(2年)が放ったシュートはクロスバーにヒット。ゴールへの意欲を前面に打ち出す。

 だが、タイガー軍団は一瞬で牙を剥く。35分にシンプルなフィードを起点にあっさり先制。健大高崎は追いかける展開となったが、「1点獲られてしまったんですけど、あそこで気持ちを落とさずに、そこまでもチャンスはあったので、『落ち着いて全員で1点獲りに行こう』と話していました」とはキャプテンの鶴谷。すると、前半終了間際に歓喜の瞬間は訪れる。

 40+1分。この試合初めて奪ったCK。右からDF新井夢功(1年)が蹴り込んだキックに、小野関が飛び込んで触った軌道を相手DFも掻き出せず、ボールはゴールラインを越える。プロの練習参加も経験し、この日も前橋育英ディフェンスを苦しめ続けていたエースが見せた輝き。「1本目のコーナーで上手く獲れましたね。よくセットプレーで追い付いてくれました」と話したのは篠原利彦監督。1-1。健大高崎は最高の形で追い付き、ハーフタイムを迎えることになった。

同点ゴールにベンチへ向けて走り出す健大高崎高FW小野関虎之介


「前半の失点してからの時間が、一番流れが悪かったなと。でも、後半はうまく立て直して、良い入りをしたなとは思っていました」(篠原監督)。後半はお互いにフィニッシュを取り切れない構図の中で、健大高崎も鶴谷、DF小島歩(3年)、新井の3バックに、右のDF高山兼吾(3年)、左のDF高田恭吾(3年)を含めた5枚で守る時間から、峯岸とMF篠原翔旺(3年)のドイスボランチも前への素早い配球で対抗。タイスコアのままで試合は進んでいく。

 最後はセットプレーだった。35分。左サイドで与えたFKから、相手CBのヘディングがポストの内側を叩きながら、ゴールの中へ転がり込む。「セットプレーはそこまでも守れていたので『大丈夫かな』という想いもあったんですけど、あそこで決め切るところがやっぱり育英さんの強さなのかなと思います」とは鶴谷。1-2。全国王者の背中は確実に捉えていたものの、あと一歩というところで健大高崎の奮闘は勝利に繋がらなかった。



 健大高崎は好調を続けてきていた。9月以降のプリンスリーグ関東2部では4勝1分けと負けなし。今大会の初戦となった伊勢崎工高戦も3-0で快勝を収めている。選手権に臨むチームが意識してきた目線を、篠原監督はこう明かす。

「ウチは群馬県のチャンピオンを獲ることが目標なので、インターハイの日本一だと言っても、そんなに『育英だから』ということは意識していなかったんです。今までは『育英を倒したい』というモチベーションが大きなところでしたけど、結構9月から調子が良かったので、ちゃんと自分たちのできることをやれば、どんな相手だろうがチャンスはあると思っていました」。

 そのメンタルを選手も共有し始めたのは、今年から参入したプリンスリーグでの経験が大きな自信になっているからだ。「他の県の強豪がいて、いろいろなサッカーをしてくる中で、自分たちのどういうサッカーが通用するかとか、いろいろな部分を得ることができましたし、チームとしても凄くプラスになったと思います」(小野関)「去年は県リーグで、今年プリンスに上がってみると全然強度も違いますし、選手のレベルも違ってくるので、そこでしっかり飲まれないように、練習から自分たちのサッカーができるようにと思ってやってこれました」(鶴谷)。

 指揮官は選手も自身も、今シーズンで成長してきた感覚を持っていたようだ。「今までよりワンランクもツーランクも意識は高くなったと思います。何より練習が良くなりましたね。質も強度も高くやれるようになっていますし、とにかく選手のモチベーションが高いと。それはプリンスで毎週毎週が勝負という環境でやっているところで身に付いてきたのかなとは思います。それに選手だけではなくて、自分も凄く試合の中で余裕が持てたり、選手を前向きにさせるようなアプローチができるようになった気がします」(篠原監督)。

 その過程を経たからこそ、小野関が発した言葉が印象深い。「サッカーに対する価値観が変わって、強い相手に対しても、内心では『勝てないな』と思うようなところが一切なくなったというか、自分たちに自信が持てるようになりましたし、練習の質も高くなりました。それはやっぱりプリンスリーグで得た収穫ですし、育英に勝つことも現実的だなと思えるようになったと思います」。気付けば前橋育英を倒して全国出場を勝ち獲るという青写真は、以前より“リアル感”のあるものになっていたようだ。

「ウチは本当に“伸びしろ”で勝負しているんですけど、今までの3年間の伸びしろで、今年はうまくチームとして勝負できるスタイルも確立してこれたんですよね」と篠原監督も評した今年のチームには、まだ3試合のプリンスリーグが残されている。現在は自動昇格圏内の2位。3年生たちにとっては、後輩に最後の大きな“プレゼント”を贈るチャンスだ。

「後輩たちに1部昇格を最後に残せれば、チームにとっても、3年生全体にとっても、良い終わり方になるんじゃないかなと思うので、この3試合は必ず勝って、最後はしっかり昇格を成し遂げて終わりたいです」(小野関)「今年のチームはピッチ内とピッチ外でちゃんとメリハリがあって、ピッチ外でふざけるところはふざけますし、ピッチ内で真面目にやるところは真面目にやれますし、個人個人のキャラクターが良い味を出しているチームだと思います。もう高校生活ではあと3試合しかないですけど、そこに向けてしっかり切り替えて、3連勝してプリンスを終えて、昇格できるように頑張りたいです」(鶴谷)。

 これからの3試合にだって、きっと彼らが貫いてきたスタイルの、チーム一体となった勝利を願う選手の“伸びしろ”には、成長の余地が残されている。健大高崎の2022年はまだ終わっていない。

チームのキャプテンを務めるDF鶴谷理稀


(取材・文 土屋雅史)
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