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80分間闘い続けた國學院久我山の執念実る!夏の全国準優勝・帝京を打ち合いの末に撃破して逞しく決勝へ!

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國學院久我山高は夏の全国準V・帝京高相手に執念の逆転勝利!

[11.5 高校選手権東京都予選Aブロック準決勝 帝京高 2-3 國學院久我山高 味の素フィールド西が丘]

 西が丘のスタンドが、何度も揺れる。激しい身体のぶつけ合いに、ため息の出るようなパスワークに、単独でのドリブル突破に、双方が奪い合った素晴らしいゴールに、スタジアムのボルテージはどんどん上がっていく。そして、最後には『美しく勝つ』を掲げ続けてきたチームに軍配が上がる。

「結局何か起きるのかわからないのがサッカーだから、『覚悟を持ってゲームに臨もう』と。たまたま勝った状況で最後を迎えられたけれども、最後の最後の最後の最後までハートを持ってゲームに臨めるかということは、子供たちが一番良く理解してやっていたんじゃないかなと思います」(國學院久我山高・李済華監督)。

 見応え十分のシーソーゲームは、リベンジに燃える技巧派集団が覚悟の逆転勝利。5日、第101回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準決勝、13年ぶりの全国を目指す帝京高と、インターハイ予選で喫した敗戦からのリベンジを期す國學院久我山高の激突は、先制された帝京が一度は逆転したものの、力強く再逆転に成功した國學院久我山が3-2で勝利。夏の全国ファイナリストを撃破し、来週の決勝へと駒を進めている。

 いきなりの決定機は帝京。前半2分。MF田中遥稀(3年)の左FKから、こぼれに反応したFW齊藤慈斗(3年)のシュートは枠を捉えるも、カバーに入った國學院久我山のDF鷹取駿也(3年)が懸命にクリア。際どいシーンに副審のフラッグは上がらなかったが、早くも好ゲームの香りが漂う。

 7分は國學院久我山。左サイドをMF山脇舞斗(2年)との連携で崩したDF岡井陶歩(3年)がクロスを上げ切り、FW八瀬尾太郎(3年)のシュートはこちらも帝京のCB梅木怜(2年)が何とか掻き出したものの、好リズムそのままにスコアが動いたのはその3分後。

 10分。右サイドからDF井料成輝(3年)のクサビを受けたFW塩貝健人(3年)はマーカーを背負いながら素早くターンすると左足一閃。鋭いシュートは左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「練習でも1週間に1回出るかなというようなシュートで、ほとんど外れるんですけど、本番のここで持ってこれたというのは、自分が練習を誰よりもしてきた成果が出たのかなと思います」というエースの一撃。國學院久我山が1点のリードを奪う。

 追い掛ける展開となった帝京は「自分たちのサッカーができないことが、自分たちのストレスになっていましたね」とキャプテンのFW伊藤聡太(3年)が話したように、いつもの連動したアタックが鳴りを潜め、なかなか手数を繰り出せない時間が続いていたが、仕留める時の出力はやはり強烈。32分。右サイドからDF並木雄飛(3年)がロングスローを投げ込み、こぼれを拾ったMF橋本マリーク識史(3年)のクロスに、高い打点で飛び込んだ齊藤のヘディングがゴールネットを揺らす。1-1。ワンチャンスを生かした帝京が、スコアを振り出しに引き戻す。

 カナリア軍団の勢いは止まらない。前半アディショナルタイムの40+1分。田中の右CKにDF大田知輝(3年)が得意のヘディングで競り勝つと、DF島貫琢土(3年)が左足で合わせたボレーはゴール右スミへと転がり込む。2-1。帝京が逆転に成功して、最初の40分間はあっという間に時間が経過した。

「やっぱり2点獲られれば『アレ?』とは思うんですけど、最近は後半の方がずっと良いゲームをやっていたので、子供たちもそんなにバタバタはなかったですね。『大丈夫。40分で点は獲れるから頑張ろうぜ』と」(李監督)。

 ビハインドを負った國學院久我山は焦らなかった。後半2分には帝京のカウンター。齊藤のスルーパスに、走り込んだ伊藤が枠内シュートを放つも、GK石崎大登(3年)が丁寧にキャッチ。11分にも右サイドで粘った齊藤の折り返しに、ここも伊藤がシュートを打ち切るも、CB普久原陽平(2年)が身体でブロック。3失点目は許さない。

 再び輝いたのは10番のキャプテン。13分。左サイドで獲得したCKを、後半開始から投入されたMF保土原海翔(2年)が蹴り込むと、ルーズボールをMF近藤侑璃(1年)は左クロス。普久原が競り勝ち、鷹取が打ったシュートは梅木が懸命にクリアしたものの、「何も考えずに振り切った」塩貝がゴールを撃ち抜く。2-2。國學院久我山がまたも両者の均衡を逞しく引き戻す。

 すると、サッカーの女神は微笑む方向を反転させる。23分。保土原を起点に途中出場のFW金山尚生(3年)が右から中央へ流し、受けた塩貝はシンプルに裏へ。斜めに走ったFW中山織斗(3年)がダイレクトで残したボールを、走り込んだMF高橋作和(3年)は優しいキックで左スミのゴールネットへ送り届ける。

國學院久我山高はMF高橋作和のゴールで再逆転!


「僕はああいう点数が好きですね。4つぐらいパスが繋がっていたのかな。(高橋に)『うまく落ち着いて蹴ったな』と言ったら、『いえ、緊張してました』とは言っていました(笑)」と指揮官も納得の、流れるような連携で手にした“久我山らしい”逆転ゴール。今度は國學院久我山が一歩前に出た。

 残り時間は15分余り。追い込まれた帝京は、それでもMF押川優希(3年)と田中のドイスボランチを軸に、丁寧にボールを動かしながら仕掛けるタイミングを探る。「焦って蹴るよりもあのサッカーの方が点を獲れる自信は全員にあったと思うので、それは今までの積み重ねですね」(伊藤)。28分。押川、田中とボールを回し、伊藤の左クロスにMF山下凜(3年)のヘディングは石崎のキャッチに遭うも、以降も丁寧に、丁寧に、ここぞというタイミングを探り続ける。

 だが、堅牢は揺るがない。「今日の鷹取は抜群に良かったし、キーパーの石崎も気合が入っていたし、チームみんなが一体感を持ってやれていたと思います」(塩貝)。もうこれ以上悔しい想いはしたくない。國學院久我山の執念が、ゴールに鍵を掛け続ける。

 帝京が懸命に創出した決定機は40+3分。押川が右へ展開し、大田が中へ打ちこんだパスを、エリア内に潜っていた島貫が慎重に後方へ。田中が左足で打ったシュートはゴール左スミを捉えるも、石崎が気合のファインセーブで仁王立ち。守護神は両手を上げ、チームメイトを大声で鼓舞し続ける。

 40+4分。伊藤が残したボールを、DF入江羚介(3年)は中央へ高速クロス。飛び込んだ大田のシュートはわずかにヒットせず、こぼれ球を塩貝が大きくタッチラインへ蹴り出すと、主審の長いホイッスルが西が丘のピッチへ鳴り響く。

「本当に相手が強かったです。一番東京で強いチームですし、プリンスでも一番活躍しているチームと戦えるわけで、最初から苦しいゲームになるなと思っていたので、ある意味では心の準備はできていました。勝てて良かったです」(李監督)。粘る帝京を再逆転で振り切った國學院久我山が、激闘の末にファイナルへと進出する結果となった。

 とにかく國學院久我山の執念が際立った80分間だった。「もう久我山の子たちの想いが強かったです。前半から向こうの方が3年生の想いがあって、そこで完全にやられた感じですよね。ウチがうんぬんよりも相手を褒めた方がいいかなと思います」と口にしたのは帝京を率いる日比威監督。敵将も相手の“想い”を強く感じていたようだ。

 前回対戦となったインターハイ予選準々決勝では、後半終了間際に國學院久我山が追い付きながらも、延長で帝京に3失点を喫して無念の敗退。それから5か月後のリターンマッチ。「インターハイで負けた借りをここで返そうと。同じ相手に2回も負けるのは許せないし、『負けてたまるか』という感じでやってきたので、全員が言葉には出さないですけど、心の中では絶対に勝ちたいと思っていたはずで、アップから一体感を持ってやれて、みんな気合が入っていました」と塩貝も認めたように、この日の彼らからはその熱量が至るところから立ち上っていた。

 これで3年ぶりの全国へ王手を懸けた。「子供たちが言っていたんですけど、決勝で勝って初めて栄光を掴めるわけで、ここで勝って、喜んで終わるのではなくて、『準備をしっかりしてやりましょう』と。あともう1つですよ。もう1つです」(李監督)。あくまでもここは通過点。さらに逞しく戦える集団へ。國學院久我山の『もう1つ』へのチャレンジは、もうすぐ1週間後に迫っている。



(取材・文 土屋雅史)
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