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ユース取材ライター陣が推薦する選手権注目の11傑vol.2

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土屋記者が推薦するGK日隠レックス海斗(日本文理高3年)

 第101回全国高校サッカー選手権が12月28日に開幕します。ゲキサカでは「選手権注目の11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター陣に選手権注目の11選手を紹介してもらいます。第2回は(株)ジェイ・スポーツで『Foot!』ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任し、現在はフリーランスとして東京都中心にユース年代のチーム、選手を取材、そしてゲキサカコラム『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』も連載中の土屋雅史氏による11名です。

土屋雅史記者「今回で101回目を迎え、その歴史も新時代へと突入していく高校選手権!この晴れ舞台での活躍に期待が懸かる11人の3年生をピックアップしました。今回も設けている選考基準は 「1チーム1名」と「過去に11傑ではご紹介したことのない選手」です。今年もいろいろな地域で取材させてもらいましたが、まだまだ全国には面白いタレントがたくさんいるなあと実感しました。とりわけ高校生活の集大成とも言えるこの選手権に臨む3年生たちには、この経験が一生の思い出になることを願っています。

以下、土屋氏が注目する11人

GK日隠レックス海斗(日本文理高3年)
過去2年の選手権は堀越高(東京)でプレーする双子の兄、MF日隠ナシュ大士(3年)の試合を見に行っており、「自分は関わっていなくて、悔しいところもありましたけど、頑張ってほしい想いがありました」と複雑な心境を抱えていたが、3年目にしてとうとう冬の全国出場を引き寄せ、新潟の地での勝負を選んだ決断の正しさを証明してみせた。自ら語る特徴は「シュートを打たせないように声掛けで人を動かすこと」。高校入学後に身長も6センチ近く伸び、筋トレにも取り組んだことで、ハイボールへの高さと強さも兼ね備えている。チームとして5年ぶりに挑む晴れ舞台に、「大物を食いたいです。大津とかプレミア勢を倒して、そこからもたまたまじゃないような形で勝ちたいですし、甲子園の下関国際みたいな形で行けるところまで行きたいですね」ときっぱり。狙うは下関国際を超える全国の頂点だ。

DF藏屋明徹(日章学園高3年)
「将来的にはプロに行けるようなものがあるんじゃないかな」とチームを率いる原啓太監督が口にするのも頷ける。選手権予選準決勝では県内最大のライバル・鵬翔高相手に、スタンドの度肝を抜くスーパーミドルを叩き込み、「良いコースに飛んでくれたので『ウソ?』って(笑)。でも、前も決めたことがあって、得意な形ではあったんです」と笑顔を見せた。現在は右サイドバックが主戦場だが、中学時代までは右サイドハーフだったこともあり、最大のストロングは攻撃参加。「人に合わせるというよりは場所に合わせる感覚で蹴っています」というクロスの正確性もピカイチで、強力な2トップを有するチームの大きな武器にもなっている。「メンバーに入らなかったみんな、マネージャー、全員で1日でも長くサッカーができるように、自分たちがやるしかない」。多くの人の想いを背負い、最後の選手権で大暴れする準備は整った。

DF三橋春希(青森山田高3年)
連覇を狙う青森山田にとって、この男の存在は絶対に欠かせない。スタメンを外れていたインターハイ県予選決勝。同じようにベンチスタートだったMF奈良岡健心(3年)がダメ押しゴールを決めると、アップエリアから全速力で走り出す。「健心もスタメンを外れて、同じ想いをしていたので、決めた時は自分が一番先に駆け寄ろうかなって。チームの得点を一番自分が喜ぼうと思っていました」。三橋とは、そういう男なのだ。もちろんセンターバックとしてのプレーもハイレベル。このチームの守備陣に求められる『ゴールを隠す』を体現しつつ、「自分は声だけがとりえなので、みんなが疲れてきたところで、自分がどうチームを盛り返せるか」という声での貢献度も非常に高い。参考にしている選手は「ああいう闘志を出していくプレースタイルがもともと好き」という同校OBの菊池流帆(神戸)。闘争系DF、“ダビドハルキ”の躍動に要注目だ。

DF佐藤由空(成立学園高3年)
“二刀流”と言えば日大藤沢高(神奈川)のFW森重陽介(3年)が注目を浴びているが、東京のゼブラ軍団にも2つのポジションを高次元で兼任するマルチプレーヤーがいる。「今年からフォワードに抜擢されて、最初は『どうしようかな』と思っていたんです」と素直に明かす佐藤だが、もともと有していた高いフィジカルを生かした競り合いの強さが前線でも生き、あっという間にフォワードの軸に。徹底したポゼッションスタイルを貫くチームの中で、違ったアクセントをもたらせる存在へと成長した。今予選では去年まで務めていたCB起用も多かったものの、そこは本職だけあって抜群の安定感で最終ラインに鎮座。17年ぶりの全国出場にしっかりと貢献してみせた。下部組織に当たる成立ゼブラ出身だけに、「成立のことはオレが一番愛している」との自負も。中学時代から指導を仰いできた山本健二監督を国立で胴上げすることが最大の目標だ。

DFアッパ勇輝(日大藤沢高3年)
春先に開催されたイギョラ杯でのこと。相手選手の足元でのコントロールがわずかに乱れた瞬間、地面スレスレを這うロケットのように頭から飛び込んだアッパのヘディングが、そのボールを掻き出してしまう。「ああいうプレーが自分は得意なので。『足で行ったらファウルを取られるかな』と思いましたし、頭なら絶対にファウルを取られないと考えられたので、頭で行きました。身体を張ったプレーが自分は得意で、そういう熱いプレーを見せれば、味方も熱くなると思うので、そういう姿勢で引っ張っていきたいです」。その凄まじいファイティングスピリットに場内は大いにどよめいた。神奈川を勝ち抜いて出場したインターハイでは、予選決勝での退場によって自身が出場停止だった初戦でチームは敗退。まだ全国のピッチは経験していない。目指すは神奈川県勢初の日本一。とうとうそのポテンシャルを解き放つための舞台が、アッパの登場を待っている。

MF佐藤海空斗(昌平高3年)
昌平の中では異質な存在かもしれない。高校2年時に参加したJクラブの練習でも、プロ選手を相手に見劣りしなかったという圧倒的なフィジカルを誇る守備強度は世代トップクラス。さらに「今年はセンターバックの配球も上手いですし、中盤も上手いので、その架け橋というか、受ける回数と顔を出す回数を増やすことは去年より意識しています」と攻撃面でのスキルアップを図ってきただけあって、ボランチとしてのスケール感も昨年以上にアップしている。「本当にLAVIDAばかりなので、結構アドバンテージは感じます。荒井(悠汰)とか篠田(翼)とは何なら小6から一緒にやっているので、目を合わせるだけでわかります」と話すFC LAVIDA出身の佐藤にとっても、この選手権は6年間の集大成。全国制覇を掲げるチームのど真ん中には、フィジカル番長の背番号6が力強く、堂々とそびえ立つ。

MF木村匡吾(岡山学芸館高3年)
ひとたびピッチに立つと163センチの小柄な体が一際大きく見える。「攻撃の方が好きなんですけど、守備の方が評価されているので、そこはしっかりやって、積極的に前に行くプレーも自分の良さを出していきたいと思います」と話すように、中盤できっちり相手の攻撃の芽を摘む守備面での貢献度が目を引くが、インターハイでも2試合連続ゴールを記録。とりわけ3回戦の中京大中京高(愛知)戦で沈めたミドルは、観客もおもわずどよめくゴラッソ。チームでただ1人、大会優秀選手にも選出されている。「よく『エンゴロ・カンテっぽい』と言われるんですけど、僕的にはチアゴ・アルカンタラの方が好きなんです(笑)。でも、どっちも良い選手だと思うので。両方のプレーができたらいいかなと思います」。『学芸館のエンゴロ・カンテ』改め、『学芸館のチアゴ・アルカンタラ』が上位進出を狙う岡山学芸館を力強く牽引する。

MF小池直矢(前橋育英高3年)
攻撃的なセンスは大会随一と言っていいだろう。フォワードも、1.5列目も、両サイドハーフも、難なくこなすだけの適応力と、そこで結果を出せる実力を兼ね備えている。もともと得意のドリブルを生かした突破力には定評があった中で、「去年の課題として得点というところがあったんです」と自分の課題を抽出し、真摯に改善へと取り組んだことで、プレミアリーグでもチームトップの9得点を記録。確実に“怖い選手”へと成長を遂げている。中学入学時から前橋育英への進学を希望しており、「星稜と決勝をやった代を見て、その代で一番好きだったのが坂元達裕選手だったんですけど、坂元さんがやっていたフェイントも真似してみたりして(笑)、自分もああなりたいというのがあって育英に来ました」という生粋のタイガー少年。今大会の活躍次第では、『小池直矢選手がやっていたドリブル』が子供たちの憧れになるかもしれない。

FW中山織斗(國學院久我山高3年)
チームきってのムードメーカーだ。選手権予選準決勝。夏の全国ファイナリスト、帝京高に先制しながらも逆転される展開の中、ハーフタイムにロッカーへと引き上げる時に「やっぱり簡単には勝たせてくれないな!」と中山の明るい声が聞こえてくる。「逆転されてしまって、内心では『ちょっとヤバいな』と焦っていたので、後半のために盛り上げておこうと思って、意識して言ったんですけど、『ちょっと恥ずかしかったな』って試合が終わった後に思いました(笑)」とは本人だが、チームは後半に入って鮮やかな逆転勝利。あの一言も間違いなくエネルギーになったはずだ。パスワークに秀でたチームの中でも、左サイドを単騎で剥がせる彼のドリブルは重要なポイント。「選手権は全国的なヒーローになれる舞台だと思うので、目立ちたいというか、あわよくば自分がゴールを決めて勝ちたいです」。この冬のヒーローになる可能性は十分に秘めている。

FW古田和之介(履正社高3年)
「斗哉がドリブルで注目されがちですけど、実際に今のチームで一番点を獲れているのは僕ですし、アタッカーとしての質としてアイツに全然負けていないというところを、違う形で見せていきたいと思っています」。その言葉は伊達ではない。川崎内定のMF名願斗哉(3年)、徳島内定のDF西坂斗和(3年)と2人のJ内定選手を擁する履正社の中でも、プレミアリーグWESTで得点ランキング2位の14ゴールを積み上げた得点感覚は圧倒的。ただ、古田のもう1つの持ち味は最前線からの超献身的なハイプレスだ。「今年は『奪う』というテーマを掲げていて、自分たちからボールを奪いに行って、ゴールを奪いに行くということをチームが始まってからやっています」。まさにチームスローガンの『奪う』を体現するプレーが、攻守にスイッチを入れ続ける。1年時に出場した選手権はスタンド観戦。3年目でようやく立つ冬の全国のピッチの上で、すべてを『奪う』覚悟は定まっている。

FW山下基成(大津高3年)
年代別代表も経験している注目のFW小林俊瑛(3年)と山下のコンビは、おそらく今大会最強の2トップではないだろうか。シーズン序盤はなかなかコンスタントに出場機会を得られなかったが、インターハイで頭角を現すと、以降のプレミアリーグでは13試合で9ゴールを記録。結果的に二桁の10得点に乗せており、世代最高峰の舞台でその得点感覚が完全に開花した。「俊瑛が競った後のこぼれ球はだいたいわかるので、一番早く行くように意識しています」と話すように、小林の周囲を動き回りながら、裏への抜け出しを含めたオフ・ザ・ボールで繰り出す駆け引きは上田綺世を参考にしており、夏過ぎからは2人の連携が大津に多くの歓喜をもたらしてきた。「俊瑛が注目されていますけど、その中で自分もやってやるぞという気持ちは陰ながら持っています(笑)」。主役になる気も、陰ながら満々だ。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。Jリーグ中継担当プロディーサーを経て、『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。ゲキサカでコラム、『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』を連載中。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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