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12年ぶりの選手権。“小嶺魂”も見せた「新しい国見」が今後への貴重な経験と1勝

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国見高が12年ぶりの選手権で1勝。新たな一歩を刻んだ。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[12.29 選手権1回戦 北海高 1-1(PK5-6)国見高 ニッパ球]

 選手権に帰ってきた伝統校が、将来へ繋がる経験と1勝だ。国見高(長崎)は戦後最多タイとなる選手権優勝6回の名門。名将・小嶺忠敏監督に率いられた青と黄色のユニフォームが80年代後半から90年代、そして00年代前半まで全国舞台で輝きを放った。島原半島の小さな町でサッカーに集中し、成長したタレントたちが躍動。だが、初戦敗退した10年度大会を最後に選手権の舞台から遠ざかっていた。

 長崎県大会で決勝進出もできない時期が続いた。それでも、チームは「強くして行きたい、変えていきたい、発展させていきたい」(木藤健太監督)という中でブラッシュアップ。それまで印象的だった丸刈りの廃止、ロングボール中心の戦いからポゼッションスタイルへの移行など、「良さはしっかり残しながら。“小嶺魂”はしっかり残しつつ、次のステップに進まなければいけない」(同監督)という取り組みを続けてきた。

 そして今冬、悔しい敗戦をいくつも乗り越えて12年ぶりに選手権出場。だが、全国舞台に帰ってきたからと言って、すぐに黄金期のような圧倒的な戦いができる訳では無い。18年に就任した木藤監督は選手として選手権の舞台に立っているものの、監督して選手権に出場するのは今回が初めてだ。その指揮官が「未知の部分があった」と振り返ったように、大会までの準備を含めて全てが順調だったとは言い難い。実際、その初戦は苦戦を強いられた。

「新しい国見」はボールを大事にするチーム。リスクをかける必要のないところではロングボールも活用するが、しっかりボールを繋げるところは繋いで、グループで相手の守りを崩すことを目指してきた。

 だが、全国慣れしていない選手たちはこの日、繋ぐことへの怖さも感じてしまって意図しないロングボールが増加。リズムを掴むまでに時間を要してしまう。それでも、中盤中央で正確なキックを見せる10番MF北村一真(3年)を中心に、自分たちのサッカーを少しずつ表現する。そして、前半37分にはMF川添空良(3年)の展開からMF幸偉風(3年)が絶妙なファーストタッチとラストパス。これをFW利根悠理(3年)が左足ダイレクトでゴールへ押し込み、先制した。

 後半も国見は追加点のチャンスを作り出していた。だが、北海の堅守に阻まれると、試合の主導権は相手へ。国見は中盤でのミスが増えて縦パスが通らなくなり、サイドからの仕掛けも不発に終わった。そして、27分にファインショットを決められて同点。GK今村泰斗(3年)の活躍によってPK戦で勝利したが、“選手権復帰戦”は非常に苦しい戦いだった。

 この1勝は大きい。ゴールシーンなど「新しい国見」のスタイルを発揮した一方、伝統の力も勝利の大きな要因だった。前半終了間際にはセットプレーの流れから北海に4連続でシュートを浴びたが、DF陣が身体を張って全てブロック。後半にもカウンターなどからピンチを迎えていたが、各選手が全力で守備に走り、ひたむきにゴールを守った。

 シュートブロックも見せた司令塔・北村は、「本当に夏の遠征とか夏の試合、練習とかでそういうところを求めてきたので、今に繋がっていると思います」と語り、GK今村は「チームとしてシュートブロックというか、GKにボールを触らせないところで、全員意識していてシュートの時に本当ボールに行ってくれるので助かりますね」とひたむきにゴールを守ったフィールドプレーヤーたちに感謝した。

 木藤監督は今年1月に他界した小嶺監督の時代から次へ繋ぐ伝統として、「勝利に対する執着心であったり、ひたむきさ、サッカーに対する情熱」を挙げる。特にその勝利への執着心は対戦相手にも伝わるものがあったようだ。北海のエースMF桜庭平良主将(3年)は「相手の気合入ってきている感じは本当に伝わってきていて、(必死に守ってくる国見DFの前に)ゴール前でもコースないという感じがありました」。自陣ゴール前に押し込まれる回数も多かった国見だが、伝統の力を発揮し、勝利に結びつけた。

 12年ぶりの選手権初戦で学んだことを次に繋げなければならない。北村は「もっと自分やれるかなというのがあったけれど、(相手に警戒されて)思い通りにやらせてもらえなかった。しっかり改善してやらないと次に繋がらないと思う」。全国の戦いを経験して知った難しさ。この1試合で個人、チームとして得たものが多いことは確か。今後、選手権で一つでも多くの経験をすることは、「新しい国見」にとっても重要だ。

 木藤監督は今回の選手権から持ち帰りたいことについて、「全国っていうのは色々なものを懸けて、その中で予選を通過したチームしか得られないもの、それはやっぱり私自身も未知の経験だと思いますし、選手たちはもっと感じて欲しいですし、もっとしっかりとプレーしないといけない。プレッシャーがある、色々な相手が来るという中で、色々なプレーを表現していかないといけない、それが選手だと思うので、あまりメンタル的なことを強くは言いたくはないですけれども、きょうの試合の中でもたくさんありましたし、それをもっともっと出していかなければ勝利に結びつかないという意味では私自身ももっと色々なことを(経験し)準備していかないといけない」と語った。経験を積み重ねて再び全国常連、“常勝軍団”へ。「新しい国見」はこれからだ。

勝利への執念を見せた国見高。10番MF北村一真(10番)もシュートブロック。(写真協力=高校サッカー年鑑)

(取材・文 吉田太郎)
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