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魅惑のドリブルサッカーにスタンドも歓喜。「メチャメチャ応援される」羽黒が2022年に刻んだ確かな爪痕

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魅力的なサッカーを披露した羽黒高の挑戦はこれからも続いていく

[12.29 全国高校選手権1回戦 羽黒高 2-3 四国学院大香川西高 NACK5スタジアム大宮]

 羽黒高(山形)が繰り出すアグレッシブな攻撃に、スタンドからも思わずどよめきが上がる。CBを務めるチームのキャプテン、DF瀬戸遥太(3年)のこぼした本音が面白い。「普段からああですね。やめてくれというぐらいドリブルしますし、実際に通用していたところもあったので、見ていて凄く頼もしかったです」。

 とりあえず持ったらドリブル勝負。右ウイングのMF稲葉皓己(3年)も、左ウイングのMF佐藤聡汰郎(3年)も、サイドからカットインを繰り返せば、中央ではMF荒井晴太(3年)がグングン中央を突き進んでいく。

「ドリブルが好きな子がいるので、そこを生かしていくスタイルではあります。今年は10番(荒井)、7番(稲葉)、11番(佐藤)とボールを持てる技術の高い子がいて、そこは自信を持っている感じです。10番の子はアレぐらいプレーできれば楽しいだろうなと思いますけどね」とはチームを率いる本街直樹監督。このスタイルは“確信犯”なのだ。

 その真価がとりわけ発揮されたのは、3-1と2点のリードを許した後半のラスト20分。前述の3人に加え、隙あらばインサイドハーフのMF小西謙吾(2年)も、アンカーのMF田中美登(3年)も、時には左サイドバックのDF高橋大和(3年)も、ドリブルで相手を切り崩しに掛かる。

 後半25分の得点シーンは圧巻。左の高い位置まで仕掛けた佐藤のクロスはいったん跳ね返されるも、こぼれを拾った荒井はクルクル回りながら再び左へ。佐藤が上げた2度目のクロスに小西が頭で合わせたボールは右のポストを叩いたものの、稲葉のボレーがゴールネットを鮮やかに揺らす。「1-3になっても楽しかったんですよね」とは瀬戸。その姿勢はピッチ上の全員から伝わってきた。

「後半はウチの良いリズムの時間もあったので、何とか3点目を防げていればというところはありますね。ある程度はスタイルや個々の能力も出せたとは思いますけど、3点目がとにかく痛かったです」とは本街監督。少しミスも絡んで喫した3失点目が、結果的には相手の決勝点に。初戦突破にはあと一歩及ばなかった。

 やはり初戦で逆転負けを喫した昨年の選手権を経験している瀬戸は、経験の積み方の部分を指摘している。「今年の自分たちは県リーグという場所で戦ってきたんですけど、その中でどれだけ1試合1試合で全国を意識して、それをこの舞台に繋げていけるかが凄く重要だったのかなと思います。やっぱり山形県内の中でも圧倒できる力がないと、最後の勝負強さは出てこないですし、それは1年間を掛けて積み上げていくものだなと感じました」。目の前の試合への意識が、1年間の積み上げに昇華される。当事者の貴重な肌感覚だ。

 だが、キャプテンは「自分たちが持っている特徴は全部出せたんじゃないかなと思います。やっていてメチャメチャ楽しかったです。負けましたけど、心残りはないですね」とも話している。確かに羽黒の選手たちからは、この選手権という大舞台を、そしてサッカーという競技そのものを楽しんでいる様子が、はっきりと伝わってきた。

 周囲からの見られ方は、今回もやはり県勢として16年ぶりの1勝を挙げられるか否か、だったはず。千葉県出身の瀬戸も「『山形県のいろいろな人が注目しているし、期待しているよ』ということは言われていたので、そういう想いを背負って戦ったのは間違いありません」と言いながら、こうも続けている。

「自分としてはあまり県勢が15年勝てていないということは気にしていなかったんです。今年1年間チームとして頑張ってきた結果の全国大会なので、15年前だとまだ物心も付いていない頃ですし(笑)、毎回のように言われるんですけど、『今年を見てろよ』とずっと思っていました」。

 シンプルに、面白いサッカーだった。山形県勢だとか、最後に全国で勝ったのが16年前だとか、そういうことは一切抜きにして、この試合の羽黒が繰り広げたサッカーは素晴らしかった。それが今年の彼らが積み重ねてきたことの、何よりの答えなのではないだろうか。

 最後に瀬戸が興味深いことを教えてくれた。「羽黒の人たちって、卒業した後も羽黒のことをメチャメチャ応援するんですよ。全国に出たら強い方ではないので、『みんなの力を合わせて勝つ』というチーム力を入学した時から凄く感じていましたし、『いろいろな人がオレたちを応援してくれているよ』ということは、スタッフにもずっと言われてきました。自分もメチャメチャ羽黒のことが好きなので、これからも応援します」。

 メチャメチャ応援される羽黒が、閉ざされてきた“山形県勢の初戦突破”という厚い扉を軽やかにこじ開ける日が、今から楽しみだ。

(取材・文 土屋雅史)
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