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10か月前に脳腫瘍が判明…手術乗り越え全国舞台に立った大分DF大石吾乃「諦めずにやっていけば報われることもあると伝えたい」

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大分高DF大石吾乃(3年=大分中)

[12.29 選手権1回戦 聖和学園高 2-0 大分高 オリプリ]

 さまざまな困難を乗り越えた先にあった全国のピッチは、いっそう格別なものだった。

 大分高DF大石吾乃(3年=大分中)に異変が起きたのは今年2月のこと。「指が勝手に動いたり、頭痛がしたり、何もしていないのに目が回ったり……」。自宅のある福岡市上毛町の隣町・大分県中津市の病院で検査を受けた結果、脳に腫瘍があることが判明。翌3月には手術を受け、約2か月間にわたる入院生活を経験した。

「サッカーはもうできないんじゃないかと思ったし、もう終わりだなと思った」

 180cmを越える上背と長年培ってきた技術を活かし、1年時の選手権県予選からCBの主力を担ってきた大石。過去2年間はいずれも県予選で涙をのんでおり、初の全国出場に向けて決意を持って臨んだラストイヤーだったが、その夢さえも道半ばで絶たれようとしていた。

 それでも大石は「まずは県大会に行ければという思いで、努力するしかないなと思った」。退院後もしばらくはチーム練習に加わることができず、筋トレなどのフィジカルメニューでコンディション回復に専念。復帰後もBチームでの出場が続き、10月に行われた県予選でも絶対的な存在ではないまま、決勝ではピッチに立てず全国行きの歓喜を味わった。

 そこから最後の勝負が始まった。「決勝に出られなかったので、全国大会では絶対にスタメンで出られるように、もしBチームで出ても自分をしっかりアピールできるように声を出してやってきた」。そのかいあって大会直前の強化試合で先発入り。悲願だった全国大会をレギュラーで迎えることになった。

 全国初戦の相手は宮城のドリブル軍団・聖和学園高。技術の高い相手が次々突破してくる中、苦しい対応を迫られたが、「中に行かせたくなかったので全部外に行かせるように対応していた」(大石)という守備陣が粘り強さを見せ、前半を無失点で終わることに成功した。

 それでも後半は相手の精度の高いセットプレーに屈して2失点。左サイド裏を狙っていた攻撃もなかなか脅威とはならず、全国舞台は1試合で幕を閉じることになった。全国のピッチに立ったことには「高校1年生、2年生と出られていなかったので最後に立つことができて嬉しかった」と喜びも語った大石だったが、パフォーマンスについては「いいところもあれば悪いところもあった」と悔しそうに振り返った。

 それでも病気のことを振り返ると、感謝の気持ちがあふれ出た。「チームに戻れたことはとても嬉しいし、感謝しかない。特に親には本当に感謝したい。入院するのも手術にもお金がかかったし、毎日言葉をかけてくれてそれが元気の源になっていた」。今後は専門学校に進学し、スポーツトレーナーを目指す予定。新たなステージで恩返しをしていく構えだ。

「自分も怪我をしていた時、トレーナーからコミュニケーションを取っていただいていたので、トレーナーになりたいと思った」。そうして芽生えた新たな夢。その未来が実現すれば、病気という困難を乗り越えた経験も大きな糧となるはずだ。

 全国でプレーする育成年代の選手の中にも、怪我や病気からなんとか復帰しようともがく選手たちは大勢いる。大石はそうした境遇の選手たちに向けて語った。「サッカーをしていて病気が見つかる人もいると思うけど、頑張って諦めずにやっていけば最後に報われることもあると伝えたいです」。

(取材・文 竹内達也)
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