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最高のチームメイトとやり切った3年間。前橋育英MF徳永涼が最高の高校生活にもうちょっとだけ加えたい思い出

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前橋育英高を牽引する不動のキャプテン、MF徳永涼(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.4 選手権準々決勝 前橋育英高 0-0(PK4-5)大津高 駒場]

 涙が止まらなかったのは、試合に負けたからじゃない。笑い合って、ぶつかり合って、わかり合った最高の仲間と、もう同じピッチに立つことがなくなるからだ。でも、これ以上ないぐらいやり切った。タイガー軍団の14番としても。個性派揃いのチームメイトを束ねるキャプテンとしても。

「自分たちのサッカーはできましたし、何よりサッカーを楽しめたので、凄く幸せな時間でした。このメンバーでやれて本当に楽しかったし、オレらはやれることを全部やったので、後悔は本当にないです。もう本当にやり切ったし、負けるとしたら運だなと思っていたので、ここまで来れたことをとにかく感謝したいです」。

 前橋育英高(群馬)を束ねてきた絶対的なキャプテン。MF徳永涼(3年=柏レイソルU-15出身)は、自ら選んで身を投じた高校サッカーをやり切ったのだ。

 運命は巡る。高校選手権準々決勝。相手は大津高(熊本)。1年前にその行く手を阻まれたあの日とまったく同じシチュエーションが、前橋育英と徳永の元に帰ってきた。大会前に選手権のイメージを尋ねると、「やっぱり去年大津に負けた時の光景がフラッシュバックしてくることです」と語っている。0-1。押し気味に進めたゲームは、1点及ばずに敗退を突き付けられる。先輩たちの涙を見て、『来年こそは』と心に誓った。

 果たすべき役割はわかっている。自分のところでボールを落ち着かせ、チームを落ち着かせる。この日のドイスボランチの相方、MF青柳龍次郎(3年)は攻撃で特徴を発揮するタイプ。少し後方でビルドアップに参加しながら、水漏れしそうなところを1つずつ潰していく。

 後半には2枚目のイエローカードを提示された、MF小池直矢(3年)が退場を命じられてしまう。去年の大津戦でも一緒にピッチに立っていた仲間の無念は、誰よりも感じていた。10人になっても、やることは変わらない。ピッチの中央で、味方のワンプレーワンプレーに、鼓舞する声を掛け続ける、

 もつれ込んだPK戦も1人目のキッカーとして登場し、ど真ん中に力強く蹴り込んで、声援を送り続けてくれた応援席に向かって、右腕を掲げる。だが、勝負は残酷だ。2人目が外した前橋育英に対し、大津は5人全員が成功。涙を流すGKの雨野颯真(2年)に、徳永は笑顔で近寄っていく。「アイツは1人だけ2年生という中で、本当に今年1年間頑張ってくれたので、責任を背負わないようにしてほしいなと思います」。同じラウンドで、同じ相手に、喫した敗北。仲間と目指した夏冬二冠は、叶わなかった。

 日本一を達成したインターハイが終わり、選手権へと改めてリスタートを切り始めた頃。チームの雰囲気は決して芳しいものではなかった。自分にも厳しく、仲間にも厳しい徳永が、少しグループの中で浮き始めてしまう。その頃、山田耕介監督が「そういう雰囲気は感じていますけど、ここをチームで乗り越えてほしいんです」と話していたことが印象深い。

 素顔は普通の高校生だ。嫌われ役になることだって、堪えないはずがない。でも、徳永は折れなかった。信念を曲げなかった。それがチームのために、仲間のためになると、信じていたから。プレミアリーグで結果の出ない時期を乗り越え、選手権予選を勝ち抜いていくにつれて、グループには今まで以上の一体感が芽生えていく。

「勝てない時期もありましたし、チームメイトとうまく行かない時期もあって、自分が浮く時期もありましたけど、逃げずに正面からぶつかったからこそ、こんなに良いチームが出来上がったし、もう1回このチームを作れと言われても、結構無理だと思うぐらい、やれることは全部やりました。本当にコイツらと一緒で良かったなと思います」。貫いた意志は、間違っていなかった。

 感謝したいのはピッチとベンチの選手たちだけではない。この日もスタンドからは、高校最後の選手権のメンバーに入れなかった3年生が、懸命に自分たちに向けて大声を張り続けてくれた。カテゴリーは違っても、グラウンドで、学校で、寮生活で、3年間をともにしてきたかけがえのない仲間だ。悔いがあるとすれば、アイツらに日本一の景色を見せてあげられなかったことだろうか。

「3年生全員がこんなに応援してくれるチームは他にないと思いますし、ベンチのヤツらも凄く声を出してくれますし、育英で過ごした時間は最高の3年間だったと思います」。声を絞り出すと、こぼれてきそうな涙を両手で拭った。

 寮生活はあと1か月ほど続く。徳永には3年生のみんなとやりたいことがあるという。「まだ次のステージに進むまでは時間があるので、この仲間といろいろなところに行ったりして、楽しみたいと思います。この選手権のために外出しなかったりとか、そこらへんまで自律してやっていましたし、それはオレたちだけじゃなくて、他の3年生や寮生も気を遣ってくれていたので、本当に一致団結してやっていた大会だったんです。それも1つ区切りが付いたので、みんなに感謝して、楽しみたいなと思います。みんなで普通に映画を見に行ったりしたいですね」。少しだけ、キャプテンに笑顔が戻った。

 最高のチームメイトと、最高の3年間を過ごした日々に、もうちょっとだけ思い出を加えて、徳永は自らが思い描く新たな未来へと向けて、また力強く歩き出していく。

(取材・文 土屋雅史)
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