beacon

初出場で堂々の全国8強進出。日体大柏の選手とスタッフが改めて実感した「選手権を戦う意義」

このエントリーをはてなブックマークに追加

初出場で全国8強まで勝ち上がった日体大柏高。大いに胸を張ってほしい。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.4 全国高校選手権準々決勝 東山高 0-0(PK4-3) 日体柏高 駒場]

 根引謙介監督は、柔和な笑顔を浮かべて選手たちをこう称えた。

「本当に選手たちがよく頑張ってくれましたし、1つ勝つごとに新しい扉を開いてくれて、それが日体大柏の新しい基準になっていくということは、選手たちにも話していたので、最後はPK戦ですけど、公式記録では負けにならないと思うので、この全国の大舞台で、負けずに去れるというのもまた良いことかなと思います」。

 新しい歴史の扉を逞しく開いていった日体大柏高(千葉)の快進撃は、PK戦でその行く手を阻まれたが、その鮮烈な戦いぶりは小さくないインパクトとともに、多くのサッカーファンの心に刻まれた。

 激戦区の千葉を制して、初めて挑んだ選手権の晴れ舞台。1回戦で芦屋学園高(兵庫)相手に3ゴールを奪い、まずは初出場初勝利を達成すると、続く2回戦の丸岡高(福井)戦にも2-0で快勝。勢いそのままに同じく初出場だった飯塚高(福岡)も、柏内定FWオウイエ・ウイリアム(3年)の大会初ゴールで1-0と撃破。軽やかに全国8強まで駆け上がる。

 注目を集めたのは“4トップ”とも称されたアタッカー陣。前線に配されたFW吉田眞翔(3年)とオウイエに加え、右サイドハーフのFW平野伶(3年)、左サイドハーフのFW古谷柊介(3年)は全員が3回戦までに得点を記録。「1人1人エゴが強いので、『オレがゴールを獲ってやろう』という想いが、この4人は本当に強かったと思います」と吉田。競い合うようにゴールを狙うアグレッシブさが頼もしい。

 彼らを支えるMF植木笙悟(3年)とMF相原大翔(3年)の2人は揃って気が利くドイスボランチ。サイドバックも右のDF寺村啓志(3年)、左のDF岡田ナミト(2年)と攻撃姿勢が強く、DF古金谷悠太(3年)とDF柴田光琉(3年)のCBコンビは安定感抜群。そして、最後尾ではGK原田眞透(2年)がゴールに鍵を掛ける。

「前の4人がどうしても注目されますけど、そこへの攻撃を作るまでのボランチだったり、最終ラインもキーパーも含めて、しっかりやるべきことを理解した中で、本当に成長していってくれたなと思います」とは根引監督。大会期間中にも、彼らは確実に成長を遂げていった。

 この日の東山高(京都)と対峙した準々決勝も、シュート数は相手の6本に対して、倍近い数の11本を記録。「自分たちの方がチャンスはあったと思うし、攻め込んでいた部分はあったと思います」という吉田の言葉も決して強がりではない。だが、どうしても得点を奪うことができず、試合は0-0で終了し、勝敗の行方はPK戦へ。2人が失敗した日体大柏は、国立競技場を目前にして、敗退を余儀なくされる。

「PK戦はもう蹴りたいヤツが思い切って蹴ってくれればいいですし、そこはもう仕方がないというか、何も言うことはないです」と選手を慮った指揮官が、大会前に語っていた言葉を思い出す。

「レイソルのクラブとしてはU-18と日体大柏からプロの選手を出していこうというビジョンはあったので、当然個の育成も大事にしていましたし、それと同時に高体連というところで考えると、結果もある程度は必要になると思っていたので、そういうバランスは凄く意識していました。必ずしも勝つことが正しいことではないですけど、実際にこの高校で指導に入ってみると、選手権に懸ける想い、熱量、パッションというのはものすごいものがあって、それは選手が成長する1つのキッカケにもなると思ったので、逆にそういうものをうまく利用しながら、選手が伸びていくようなことを意識していましたね」。

 根引監督はもともと柏レイソルユースの出身。自身は高体連のサッカーも、選手権も、高校時代に経験していない。2015年に日体大柏高と相互支援契約を結んだ柏から指導者が派遣されることになった経緯の中で、今も肩書としては柏のアカデミーコーチを兼任しており、まずはプロサッカー選手の育成と輩出という大きな目標はありながら、コーチ時代も含めれば4年間に渡って“部活動”を体感したことで、指導のスタンスにも変化があったという。

「アカデミーの選手は当然プロというものを目標にやっているのに対して、特に最初に僕が高体連に入ってきた時には、純粋にサッカーを楽しみたい子もいましたし、上手くなりたいという子もいたので、そういう意味では選手1人1人との向き合い方やアプローチは当然変わりました」。

「もちろんレイソルでやってきたものだけが正解ではないですし、それを選手たちに押し付けても、できる選手とできない選手がいて、ストレスを抱えてしまうところも当初はあったので、それよりはチームとしてやるべき方向を示した中で、選手がピッチで迷わず、思い切って自分のプレーができるような方向にシフトはしていきましたね。レイソルと一緒で攻守に主導権を握るサッカーのコンセプトは変えずに、より選手がピッチで個々のパワーや特徴を発揮できるような方向を優先して考えていきました」。

 40代も半ばに差し掛かって、初めて選手権の全国大会を味わった根引監督は、改めてこの舞台の感想を笑顔でこう語った。

「やっぱり最高ですよね。本当にいろいろな人たちが見てくれていますし、運営してくださるスタッフの方のおかげで、メディアの方も含めてこういう注目度がある中でやれるという、本当に素晴らしい体験や経験をさせてもらえましたし、テレビ越しに見ていた舞台に自分が指導者として立てて、それは本当に最高でしたし、ここを目指す価値は大きいなということは、自分もこの空気を感じて、凄く思いましたね。選手権は最高です」。

日体大柏高を率いる根引謙介監督


 キャプテンの吉田も、3年目でようやく辿り着いた選手権のピッチに立った感慨を、こう口にした。「こんなに凄い観客がいる中でプレーする経験は初めてだったので、最初の方は多少緊張がありましたけど、これだけの声援がある中でプレーできることが凄く楽しかったですし、このチームでできたことを心から誇りに思いますね。小さい頃から夢見ていた選手権の舞台で、こうやってプレーできたことは嬉しかったです」。

 あるいは自分たちの想像を超えて、大きな成長を促してくれたこの夢舞台。日体大柏の名前を背負い、堂々と逞しく戦い続けた選手にとっても、彼らを導いてきたコーチングスタッフにとっても、やはり選手権は最高だったのだ。



(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2022

TOP